5話.外来種

 ここはダンジョン局本部。

 前にアンノこと、庵野黒男が探索者登録をした場所である。


 その、奥にある部屋。


 円形の机、並べられた椅子。

 その数25個。


 今回集められた探索者は、日本に在住する全Sランク探索者。

 もちろん忍野勇斗や弥生菜奈も招集されている。


 「皆、よく集まってくれた。ダンジョン局の局長である桜木愛矢だ」 

 

 招集元は桜木愛矢さくらぎまなや、桜とか愛とか結構可愛い名前してる割にただのおっさんだ。


 煙草を吸っていることも、より名前とのギャップを感じる。


「もう知っていると思うが、今回はただの招集じゃない。ダンジョンの存亡に関わることだ」

「でも、別にダンジョン消えてもいいんじゃないですか?」


 そもそも、ダンジョンという危険な場所がないほうがいい。それももっともな意見だろう。


「だがな、今ダンジョンが無くなると生活に支障しかない」


 ダンジョンのドロップ品による医学、産業、そして経済の発展。

 それだけじゃない。


 探索者という職業が消えるとなると、かなりの失業者が出る。


 ダンジョンが中心になった世界、それが今の世界なのだ。


「駄目なの、消えちゃったらお金稼げなくなるの」


 俺は初めてこのような場に参加したが、みんな結構個性が強そう

というのが第一印象だ。


「おい、黙ってろ東雲。それ以上言うな」


 何がいけないのだろう。お金が稼げなくなると困るのは当たり前だ。


 俺だって、正式に探索者活動を始めてからお金の貯金がめちゃくちゃ多くなったし良いことじゃないか。

 

 俺は刀一本で戦うし、その刀もダンジョン産のやつだからお金はかからない。


 じゃあお金はどこで使うかって?そりゃあ奢るんだよ。

 気分がいいぞ?余裕が有りすぎて余裕で奢れますよムーブ。


 でもしすぎると集られるのでたまにしかしない。


 その点、他の探索者は防具だったり武器だったりいろいろお金かかってそうだしな。

 命に関わることだからそりゃお金をかけるに越したことはない。


 高いやつだと1セットで数千万、刀とか剣で最高級のやつは数十億って聞いた。


 自我持ちストレンジが1体50億だとしても高価すぎる。


 明らかに自我持ちの懸賞金が低いと思うが、他の連中はなにも言わないので俺も言わない。機会があれば文句言ってやろう。


 もちろん俺は大抵の自我持ちを倒せるので”他人”のためだ。


「海外ダンジョンの侵入、これは非常にまずい」

「ええ、ダンジョン間の移動手段が分かっていない以上、地上を歩いている可能性だってありますからね」


 ダンジョン間の移動、か。

 ウロボロスが「見捨てた」って言ってたのはそのことだったのかな。


 同じダンジョンの仲間じゃなくて、別のダンジョンの知り合いに見捨てられた的なニュアンスだったのかな。


「で、当事者としてはどうなんだよ」


 ごっつい男がこちらを睨んでくる。


「俺?まあ、自我持ちがいないところ優先でいいんじゃないですか?」

「ふむ……そりゃなぜじゃ」


 この爺さん、ちょっと漫画とかに出てくる最強格ジジイみたいな貫禄あるな。


「だって、邪腹のボスは死んだんでしょ?じゃあ少なくとも海外と日本のストレンジ間で対立はしてるってことじゃん」


 日本の自我持ちが招待した可能性もなくはない……が、低いと思う。


「じゃあ、自我持ちっていう戦力が揃っているダンジョンは後回しにするべきかと」


 外来種が入って来たら、在来種も黙ってやられるとは思わない。

 特に危険度Sランクに名を連ねるダンジョンは最後でいい。


 敵の戦力は分かっていないが、どのダンジョンも破獄レベルの戦力を持っていたら簡単にはやられない。


 これは実際に攻略したからこそ分かる。破獄の自我持ちは戦力的にはかなり圧倒的だった、他のダンジョンと比べて。


 あとは、深淵。

 あそこに関してはほぼ確実に撃退すると思う。


 アンノが留守じゃない限り絶対に負けないという確信がある。

 不死身2体とかいう鬼畜ダンジョンを外来種が攻めるかどうかは置いといてな。


「つまり、ストレンジと手を組むと?」


 核心をついたかのような一言に場が凍りつく。

 それも当然、彼らの中にはストレンジに知り合いを殺されている者もいる。Sランク探索者までストレンジへの恨みや憎しみでのし上がった者もいるのだ。


「いや、別に手を組んだわけじゃないですよ!!ただ、こっちの負担を減らすだけです」


 敵は共通だが、表立って手を組むわけじゃない。


「それに、危険度Sランクダンジョンに行ってそこに住んでる自我持ちと戦闘になったら元も子もないでしょ」


 例えば、深淵に外来種が出たという情報を聞いて駆けつけたらそこにいるのは外来種をなぶり殺したアンノ。

 そしてそのまま戦闘になって何人も探索者が死んだら「何がしたいんだよ」ってなるだろ。


「その意見には賛成だ。この招集の目的を達成するためにはそうするのがいい」

「ええ、じゃなくてと言ったところでしょうか」


 利用か……なるほど、上手く言い換えたな。


「ねえ、ねえ……」

「ん?なんだ東雲」


「外来種って倒したら懸賞金ある?もしあるならアイリ頑張るの!」

「もちろんあるぞ?こちらで新たに付けさせてもらう」


 そういえば海外には懸賞金制度なかったのか。

 まあどうせ下限は50億だろうな。


「ていうか、そいつのことはみんな何も言わないんだな」


 一人の探索者が俺の肩を指差す。


「ああ、特に害はなさそうだしな」

「私は認めんが、現時点で人間に牙を剥いていないからな」

「倒してもお金にならないから別にいいの」

「かわいいからいいよー」


 ここでこの子を攻撃するもんならちゃんとやり返すつもりだった。


 ちなみにだが、このドラゴンの名前は「ウラバルアス」。

 

 親と名前が似てるじゃねえかって?

 蛇型で生まれてきたのは多分あのダンジョンのせいだけど、そもそもウロボロスって蛇の神の名前だしな。


 そのままってのもあれだし、ちょっといじった。

 

「二つ名は確か、虚空だっけ。そのドラゴン」

「合ってるよ」


 ウラバルアスには自我がある。

 だから二つ名を持っている。


「とりあえず、方針は決まったのか?」

「ああ、目撃情報があれば飛んで行くって感じでいいだろ。自我持ちがいないダンジョン優先で」


 まあ、このメンツで細かく決めるのは無理だろうな。

 みんな自分勝手そうだし。


「では、打倒外来種だ」


 そうだな。

 ……ていうか、そもそもそいつらの出身国はどうしてんだよ。

 お前らの所の奴なんだから何か手貸せよ。


 数相手だと無理なことが出てくる。

 外来種ども、頼むから少数で来てくれ。


 

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