3話.猛獣
牙をむき出しにして唸る猛獣。
「俺のこと、知らないのか?」
「ああ?お前のような人間、知っているわけがないであろう」
俺って結構有名だと思ってたのに残念だ。
ストレンジ界隈では「あいつには注意しろ」的な感じで知れ渡っていると思ったのにな。
「それに。ワンを倒す?できるわけないであろう」
猛獣はこっちを見ながら俺の周りを歩いている。
完全に獲物を見つけ、いつ飛びかかろうか探っている最中だ。
「できるんだな、それが」
鞘に手をかけ、抜刀で横に一払い。
放たれた斬撃を跳躍で回避し、襲いかかってくる。
「っ!?卑怯な!!」
猛獣が飛び掛ったのはリナ。
ガァンッという音とともに逆刃で猛獣の爪が受け止められる。
:危ない!
:避けて
:リナちゃんを狙うなよ
:斬撃躱して反撃か、強い方か?
:卑怯すぎだろ、目の前の敵から倒せや
:忍野勇斗は後回しかよ
:弱い方を先に狙うのはまあ、戦法としては分かるけど……
:普通にリナちゃんを狙うとか許せん
「くっ、なんだと?」
「おいリナ!!こいつ連れて離れろ!!」
肩に乗っている子供ドラゴンを手渡す。
「ええ!?大丈夫なの?噛まれたりしない?」
「大丈夫だ、甘噛だよ!」
流石にストレンジを抱えるのは抵抗があるようだ。
「甘噛って、私は勇斗みたいに頑丈じゃないんだからね!!」
そう言いながらも抱えてくれるリナ。
距離を取るまで俺に注意を向けさせる。
ついさっき、ご自慢の爪が止められたことに驚いた様子の猛獣。
「そういえば聞いてなかったが、お前がネークなのか?」
全然名前どおりのストレンジじゃないぞ?今の所蛇要素は皆無。
「ネーク?ああ、あの蛇のことか。あいつなら殺した。ワンがな」
「殺し……なるほどな。じゃあお前は侵略者ってわけか」
仲間割れはないだろう。
つまり、外敵ということになる。
別のダンジョンの自我持ちストレンジが発見される、そんな事例を最近聞いたな。
「お前らの中で流行ってるのか?侵略ごっこ」
間隔が狭すぎるんだよ。
何十年に一度、人間の前にこういう例外個体が現れるんだったら分かるけど、まだ1ヶ月も経ってないぞ?
「お前どこのダンジョン出身だよ」
「死にゆくものが知っても仕方ないであろう」
あー鬱陶しい。
「言えよ」
ちょっとドスの効いた低い声で言う。
「っ!?……」
明らかに一瞬ビビった様子の猛獣だが、すぐに通常に戻る。
「ワ、ワンの出身はな、聞いて驚け?危険度Sランクダンジョン"獣園"である!!」
声高らかに言われる。
「ごめん、それどこ?」
そんな大袈裟に言われても、知らないものは知らないし。
「お、お前知らないのか!?あの獣園だぞ!?あの!!」
うーん、頑張って思い出そうとするほど分からん。
危険度Sランクダンジョンなんて、奈落と闇夜と深淵ぐらいしか知らないぞ?
:聞いたことない
:知らねー
:嘘っぱちで草
:流石にSランクは嘘過ぎる
:イキんな笑
:ごめん、知らないわw
:は?こいつマジで言ってる?
:流石に見え透いた嘘すぎる笑
:いやいやいや、ありうるのか?そんなこと
:信じるバカなんていないぞw
「知らないのか……まあよい、知ったところでどうせ死ぬのだからな!!!」
目の前に大きな牙が迫っていた。
ちょっとびっくりしたが、冷静に躱す。
「ちっ、外したか」
「その牙、伸びんのかよ」
流石はストレンジ、ただただ邪魔な牙を持っているだけじゃない。
「次は、貫いてやる」
「そうかよ……」
お互いに間合いを見図る。
静寂の最中、こっちの手が先に動く。
ザシュンッ
斬撃が空を切る。
「焦ったであるな!隙ありぃぃぃぃ!!」
振りかぶってできた隙に、背後まで移動する猛獣。
すぐに懐に飛び込んでこなかったのは、言動の割に警戒しているからだろう。
さっきちょっとビビってたし、いきなり接近は危険だと判断して離れたところからの遠距離攻撃。
手としては悪くなかった。
並の探索者なら為すすべなく命を刈り取られているだろう。
だが、今相手にしているのはただの探索者ではない。攻略不可能とまで言われた危険度Sランクダンジョンが1つ、破獄の自我持ちをたった一人で全て討伐した探索者。
背後から迫る鋭い牙。
忍野勇斗にその牙が突き刺さろうとした。
しかし、驚異的な気配察知で背後への移動を感知した忍野勇斗はそのまま回転。
一周多く回って、丁度牙が迫るタイミングに合わせる。
シュパッ――
「クアッ……」
「どうだ?ご自慢の牙が斬れたぞ?」
「やってくれたなアア!!!」
警戒心など忘れて飛び掛ってくる猛獣。
その牙はすでに鋭利なものに戻っている。
しかし、一度斬られたのが余程尺に触ったのだろう。
:ガチギレ
:斬ったwwww
:回転斬りかっこよすぎだろ
:俺もしたいわ、教えてくれ
:はい最強
:そりゃキレるわ
:尊厳破壊
:でも再生してはるやん
:やっぱり自我持ちが小物にしか見えん
「はあ、さっきまでの余裕っぷりはどこへ行ったんだよ」
猛獣が襲いかかるが、それを紙一重で躱す忍野勇斗。
「なぜだ、なぜ当たらん!?」
なぜって、そりゃあ……
「俺の方がお前より強いかっ……!?」
問いに答えてあげようと思ったが、強烈な存在感を一瞬だけ感じて飛び退く。
俺は飛び退いたが、猛獣は躱せなかったらしい。
おそらく勘づいたが、猛獣は空中だったため回避行動に移れなかったのだろう。
上半身がポッカリなくなっていた。
「こんなこと……できるやつはあいつしか知らねえ」
俺の知っている情報など、この世界じゃちっぽけなものだろう。
だが、食らっているから分かる。
この、削り取られる感覚。
――ウロボロス。
だがそいつは殺した、俺がこの手でな。
つまりこの現象の犯人は……。
「ちょ、ちょっと!?何やってるの!?」
なにかと騒がしい方を見る。
キュイ、キュイ、キュイ
そこには、可愛らしく鳴く子竜の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます