2話.孵化

 ダンジョン”邪腹”は、40年前に自我持ちのストレンジが確認されて危険度がAランクに上がったダンジョンである。


 元々の危険度はBランク、そこそこ強いストレンジが出現していた。


 ほとんどのダンジョンでは出現するストレンジの種類は同じ。ただ、旧初心者ダンジョンに出現するゴブリンと破獄に出現するゴブリンでは強さが段違いになる。


 旧初心者ダンジョンこと深淵は出現するストレンジが弱いことで有名だった。だが破獄に出現するストレンジはその何倍もの強さになるのだ。


 その点での危険度ランク評価に加え、自我持ちのストレンジがいるかどうかで変わってくる。


「まあ、そこまで変わりはなかったですね。はい」


:いや、結構違うぞw

:久しぶりの超速攻略助かる

:酔う

:酔った

:あーこの感じ久しぶり

:切り抜きしか見てなかったけどガチなんだ

:テンション上がってきた

:やっぱりこいつばか強いわ


「はい、勇斗がおかしいだけですからみんなは真似しないでね!」


 おかしいって、心外だな。

 普通の攻略だろ普通の!!


 それにこれで真似するやつなんていないだろ……。


「はぁ、もういいや。はいこれ卵」


 この最深部に来るまで空間袋にしまっていた卵を取り出す。

 いつ見ても、この空間袋の入口ってどうなってるんだろ。グワって広がるけど。


「っえ!?なんか色変わってない?ていうか透けてない?」

「うおっ、マジで変わってるじゃんこれ!?」


 今まで白い卵だったのが、色が透けて透明の卵に変わってしまった。


 どういうことか中が見えないことから透明マ◯卜を被せた的な状況だろう。


「これは……孵化しそうだな。よかった、しなかったら炎上するかもって思ってたから」

「まぁ、視聴者さんからしたらいつも通り化け物攻略見るだけで満足なんじゃない?私も久しぶりだから付いて行くのめちゃくちゃ疲れたし」


:満足はした

:卵の色変わってはるやんw

:そういえば卵だったな

:卵孵らせてくれ早く

:久しぶりで満足

:卵なんか孵らんくてもええで

:まだあったのか


「そうなのか……じゃあいいや」

「うんうん、でも孵るのはよかったじゃん。仲間できるかもしれないし」


 仲間ができるのは配信的にいいよな。なんか正規のレギュラーメンバーがついに加入って感じで。


「ストレンジの卵って刷り込みできんのかな」


 そもそもこの卵、孵ってすぐに俺たちを攻撃してくるんじゃないか?

 一応ストレンジ、それもウロボロスという超強い自我持ちのストレンジの卵だし。


「初めてだから、分かんない。調べても出てくるわけなんてないし」


 もし攻撃してきた場合はすぐに殺す必要がある。

 今まで頑張って世話?してきた分それはなんかしたくないんだよなぁ。


「生まれた瞬間から自我持ってたら仲間にできるかもしれないけど、そうじゃなかったら無理かな」


 生まれた瞬間から自我を持ってなかった場合、それはただの人を襲うストレンジだ。ドラゴンであろうとゴブリンであろうとそこは同じ。


「ねぇ、そういえば生まれたらここにいるダンジョンボスが攻めてきたりしないよね?」


 リナの言うとおりだ、卵の気配を感知して既にすぐそこまで来ている可能性もある。



 パキ――


「ちょっと!?勇斗!?それそれ!!」

「え?……うわっ!!」


 透けている卵にヒビが入る。


 パキパキパキ――


:生まれるか?

:いきなりだな

:美少女生まれてこい

:ドラゴンかっこいいといいな

:めっちゃ唐突じゃんw

:頼むから仲間になってくれ

:ストレンジを仲間って、いろいろ荒れそうだけどな



 キュウ、キュウ


「おお、これは……」

「ドラゴンだね、可愛いじゃん」


 卵を割って出てきたのは、手のひらサイズのドラゴン。


 とはいっても、なんだこれヘビ?龍なのか?


「あんなでっかい卵だったのに中身はこんなに小さいんだな」


 抱えるほどの大きさだった卵からは想像もできないほどの小ささ。小型犬ぐらいの大きさはあると思っていたので予想外だった。


「めちゃくちゃ勇斗に懐いてるじゃん、それなら大丈夫でしょ」

 そのドラゴン?は俺の手にスリスリ顔を擦りつけてくる。


 鱗がすでに備わっているのでちょっとゴワゴワしてるけど可愛い。


「うーん、これは仲間でいいのか?」

 

 パサパサと翼をはためかせるドラゴン。

 そして、ぴょんっと飛んで肩に乗ってくる。


 蛇に翼が生えてるって変な感じだな。


 そしてキュウ、キュウ、と耳元で鳴いてくる。


:これは仲間でいいだろ

:殺せない

:可愛い

:これはストレンジじゃない、そうだ

:可愛すぎる

:一家に一台欲しい

:ストレンジってこんなに可愛いのか

:そもそもストレンジが生まれる瞬間を初めて見た

:ヘビは無理


「よしよーし。あッ……なんだ甘噛か」


 頭を撫でていたら指先を噛まれた。ちょっとだけ痛かったけど傷はついてない。


「え?それ私の場合、指千切れるんじゃない?」


 いやいやいや、まさかそんなことはないよ……ないよね?


「今のところ襲ってくる気配もないし、もう仲間判定でいいか」

「いいんじゃない?勇斗がいいなら私は何も言わないよ」


 じゃ、仲間決定ってことで


「おい、視聴者の中に良からぬことを考えてるやつとかいねえよな?俺はもうこいつを仲間って決めた。だから実験のためとかいって攫ってみろ?内臓引きずり出してダンジョンに捨ててやるからな」


:仲間きちゃアアアア

:殺されなくて良かったねドラゴンちゃん

:まさかそんなこと……

:怖すぎだろw

:実験とかするやつおらんだろ、相手が悪すぎる

:内蔵引きずりだされたくない

:急に怖いやん

:まず攫うのが不可能です


「じゃあ……さっきから感じる気配が来たようなので始末しますか」

「気配?そんなのいつから?」


 そいつは俺達の目の前に現れた。


「っ!?勇斗あれっ」

「ああ、おそらく自我持ち……そう思わせるほどに気配が強い」


 猛獣のような見た目、地面に届くほどに伸びた牙。


「絶滅したやつに似てるな、明らかに誇張されてるけど」

「お前、その肩に乗っているゴミはなんのつもりだ?ここはワンの住処であるぞ?」


 一人称『ワン』!?どっちかって言うと『ニャン』じゃね?


「一人称は今どうでもいいが、お前この子を”ゴミ”って言ったな?」

「ゴミ以外の何物でもないであろう」


 でかい蛇だろうが、でかい猫だろうが、俺の仲間を侮辱するのは許せないな。


「下がってろリナ、俺がボコボコにしてやるよ」




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る