三章:理想と現実、未来に願いを込めて
1話.復帰配信
「っくそ。これもダメか」
あの日、初心者……いや、危険度Sランクダンジョン"深淵"でアンノという名のストレンジと戦って以来俺は配信を一度もしていなかった。
理由はいくつかある。
一つは、ちょっと有名になりすぎて政府からあまり配信するなと言われたこと。
どうやら俺の戦闘力は世界的に見ても高かったらしく、世界にあの情報を流しまくるのは良くないとのこと。
何より、配信のたびにダンジョンを破壊していたのがまずかったらしい。
次の配信はちょっと期間が経った後にしてくれと言われた。
その間はダンジョンに潜るにしろ、自我持ちのストレンジがいるダンジョンには潜らなかった。
なぜなら配信のネタが減るからだ。
配信者として少し活動した俺だが、正直ハマりすぎている。
もういつでも配信の準備はできている。
なのにさせてくれないことにウズウズする。
「で、これだけど……」
そんな時思い出したのだ。
そういえば前に卵拾ったな、と。
そこでこの配信自粛期間中、ずっと卵を温めたり魔力を注いだりしてみたのだが全く変化がない。
「やっぱし親が必要なのかなー」
拾ってきただけじゃ生まれないのかなー。
多分この卵、ウロボロスの卵だし。
そうなるとやっぱりウロボロスが必要なのか?でも今ウロボロスに会うのは無理だ。
なぜなら俺が殺したから。
「来週から配信できるし、他のダンジョンで試してみるか」
配信を自粛しろと言われているのは来週までだから、記念すべき復帰配信は卵の孵化とかなら視聴者も満足してくれるだろう。
☆☆☆☆☆
この行為ももう半年ぶりだな。
カメラを取り出して配信開始ボタンを押す。
前日に配信を予告したときは、一瞬で返信が大量に送られてきた。
俺は『諸事情により当分の間、配信を休止します』としか発表していなかった。
ちょっと視聴者に対して冷たすぎるんじゃないかと後悔していたから、『うれしい』や『マジで待ってた』というようなコメントが送られてきたときはすごく安心した。
「はい、どうも皆さん。忍野勇斗です」
:おおおお
:今までなにしてたねん
:始まったああ
:キターーー
:寂しかった
:待ってたぞー
:半年ぶりの配信
:釈明配信とかいらんぞ
:暴れてくれ、頼む
「ハハハ、すみません。ちょっといろいろ事情があって配信できなくて」
政府側からは「あんまりこっちのことは言うな」と伝えられている。力ずくで黙らせることも考えたけど、大量の探索者で迎え撃たれると困る。
俺は別に大量殺人鬼になりたいわけじゃないのだ。
「サムネにもあると思うんですが、今回の配信では例の卵を孵化させようって内容です」
「ちょっとちょっと、私のこと無視してない?」
「ああ、ごめん。もういらないかと思ってた」
俺の配信では十中八九リナがコラボしてくる。もうそれコラボじゃなくてレギュラーだと思っていた。
弥生さんもどうですかと誘ったが、用事があるらしく来れないらしい。
「ということで、来ました。危険度Aランクダンジョン”邪腹”」
「はい!皆さん知ってますか?ここには自我持ちがいて、それを勇斗がやっつけちゃおうって配信です!」
:邪腹か
:卵孵すんじゃなかったん?
:配信乗っ取られてるw
:そこの自我持ちってなに?
:あんまり知らんダンジョンや
:そこまで有名ではないダンジョンだな
:卵どこ行ったw
:毎回リナちゃん出てるじゃん……
「おい、別に自我持ちは倒さないぞ?今回は卵の孵化!」
ったく、勝手に配信を牛耳らないでほしい。
「ちなみにみんな、ここにいる自我持ちはネークって名前だよ!」
このダンジョンにいる自我持ちはかなり前から発見されているらしい。
「二つ名は曲砕、ネークといい曲がるといいなんか蛇の怪物が出てきそうだな」
二つ名って結構見た目そのままとか、能力そのままだから付ける人は苦労しないだろうなと思う。
「ちなみに懸賞金は50億円です。自我持ちの中じゃ1番低い金額ですね」
「でも50億円って大金だよ!」
:ネークで曲砕w
:しかもダンジョンの名前も邪腹→蛇腹って安直すぎるだろ
:蛇嫌いなんだよな、出てきたら瞬殺してもろて
:ウネウネ這い出てきたら怖い
:50億円なのか
:50億円だったら弱いほうなのか?
:一周回ってネーミングセンス神
:蛇型のストレンジとか見たことない、ちょっと楽しみなんだが
「だから、別にネークを倒すことが目的じゃないですからね!?それにネーク以外の自我持ちが出てくる可能性もありますからね!?」
クラン明星の発表で本来いるはずのないダンジョンで
つまり他のダンジョンの自我持ちが出てくる可能性もゼロじゃあない。
それにこのダンジョン邪腹に元々いた未発見の自我持ちが出てくる可能性もある。
「今回は卵ですよ!た、ま、ご!」
「そういえば、卵ってどこにあるの?」
今俺は手ぶら、あのデカい卵はどこにも持っていない。
「この中だよ、ほら」
腰にぶら下げていた空間袋から70センチほどの卵を取り出す。
「え、それ生き物も入れてていいの?……」
「あーうん、害はなかった」
中では時間が止まっているらしく、多分人間も入れることができる。
「そもそもその空間袋?ってのを私いままで見たことないんだけど」
まぁ、これは破獄の自我持ち倒したら落ちたやつだからな。
ウロボロスを倒すまでの道中でドロップした。まぁ回復アイテムを多く持っておくためには最高のアイテムだわな。
そもそもストレンジからドロップした武器ってめちゃくちゃ珍しいんじゃない?俺自身この空間袋と刀しか見たことないし。
「政府にも無くすなって言われた」
「政府!?やっぱり世界一つだけなんじゃない?それ」
俺も他の人が使ってるところは見たことがないし、なんなら検索しても出てこなかったんだよな。
「さあ、この話はまた今度で攻略していきますよ皆さん」
「うん!オークぐらいは任せて!」
普通に卵が孵らない可能性も高いけどそれ言うタイミング逃したな。
孵らなかったらいきなり企画崩れじゃん。頼むから卵さん、孵ってください。
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