14話.条件判明

 俺の蹴りによって探索者の元へと飛ぶケア。


 そして、攻撃の姿勢を構える探索者は金色の装甲を纏って敵を注視している。


 その眼差しは、獲物を見つけた時の獰猛な獣。


 ちょうどケアが探索者の目の前に達した瞬間、装甲が分裂して無数の剣や刀の形を成す。


「ちぃッ。小癪なことォ!!!」


 いつの間にか、使役されたストレンジが探索者とケアの間に割って入る。


 探索者の放った攻撃はストレンジによって受け止められ、ケアには届かずに終わる。


 その瞬間に体制を戻したケアは距離をとって周りを使役するストレンジで固める。


 睨み合うケアと探索者。


「貴様、よく見たら大人ではないか」

「……アイリはちゃんとした大人なの!」


「ククク、子供と思って攻撃しなかったが大人なら存分に殺せる。お前ら、やってしまえ!!」


 大量のオークやワイバーンが探索者めがけて押し寄せる。


「多いけど……敵じゃないの!」


 大量の武器を生成して迎え撃つ探索者。


 自分自身もストレンジの大軍に飛び込んで戦う。


 金色の装甲はオーガの強い一撃に全く怯まずに煌めく。


 棍棒を振り回すオーガ、空からワイバーンたちのブレス。

 とんでもない数の攻撃が探索者を襲う。


「流石にこれは、避けきれないの」


 避けることを諦め、別の行動に出る探索者。


「だから……武装モードβ、白銀要塞」

 

 金色だった武具が白く光り、探索者を囲うような球体となる。


 ガギィィィイン。ガギィィィン。

 ボォォオン。バコォォォン。

 

 オーガやオークたちの猛攻による衝撃音が響く。


 だが、高い防御力を誇る白銀要塞を突破することはできない。


「これは要塞なの、だから……」


 防具がグニャリと変形し、球体の表面から刃物、銃火器が生成される。


「雑魚は消えちゃえ」

 

 一斉放火。

 

 ザシュリという貫通音。


 ドカン、という爆発音が同時に響き、耳を破壊するような轟音を奏でる。


 ドサッ。ドサッ。


 オーガたちが倒れ、ワイバーンが撃墜される。


「ぬぁ!?貴様……」


 予想外の反撃に驚くケア。


「はぁ!?なんすかあいつ!?」


 てっきり押し潰されるだの叩き潰されるだのして死ぬと思っていたカースも驚く。


「やっぱ強いなーあいつ」


 なんとなく予想していたので驚いていない俺、アンノ。


 そして俺はあることに確信を持てた。


 ケアは防御のために周りに使役するストレンジを配置している。

 おそらく自分自身での攻撃手段を持っていないのだろう。

 

 俺に対しての攻撃も全て使役したストレンジを介してのものだった。


 そしてはっきりしたが、不死身攻略不可の条件を探索者は満たしていない。

 つまりあの探索者はケアを殺せる可能性を秘めている。


 俺と清水という圧倒的な戦力を背後にしているのにこちらに見向きもしない。


 加えてこちら側より探索者側の方が防御を固めているストレンジの数が断然多い。

 まぁ、ドラゴンをこっち向きに配置してるけどな。

 

 だとしても、明らかにあっち向きのほうが防衛が過剰だ。

 探索者に殺される可能性があるからよっぽど警戒している証拠だ。


「貴様やるな……だがこれは倒せまい」


 ズン。ズン。


 背後から気配を感じる。


「これは……あのスライムか」


 俺たちの上を飛び越し、探索者の元へポヨンと跳ねていくスライム。


 見た目はデカいスライムだが、その硬度は異常。


 清水の能力が完全に適していただけで、正攻法での攻略は人間にとってはかなり難しいものになるだろう。


「っ!?おっきい、スライム?」


 探索者は球体の中から頭を出してスライムを凝視する。


「よし、やれ」

 スライムに指示するケア。


 スライムが転がって探索者の前まで行く。

「今更スライム……」


 今になってスライムが出てきたことに違和感を感じる探索者は、警戒を高める。


 バジュン。


 スライムから棘が爆散する。

 棘を生やすだけでなく、飛ばしたのだ。


「っ!?」

 白銀要塞を貫通する棘。


 咄嗟に回避行動をとる探索者だが、あまりに接近されていたため棘が刺さってしまう。


「はぁ、はぁ、はぁ……痛いの」


 脇腹と肩を貫通する棘。


「これで、動けるの」

 約20メートルの棘が刺さったまま戦うのはあまりに無謀。


 生成した刃物で動ける長さにカットする。

 抜いたら失血死するので絶対に抜かない。


「ククク、動ける?無様に傷だらけじゃないか!」

「んん、傷だらけじゃ、ない、の!」


 探索者が放った刃物はスライムへと向けられ、ガァンという音とともに弾かれてしまう。


「嘘、硬いの……」

「クハハッ、これでお前も我を倒すのは不可能になった。呆気ないなぁ。やれ!お前たち。この人間を嬲り殺してやれ!」


 いまだ残っている大量のオーガやワイバーン、オークが一斉に探索者に向けられる。


「ではな探索者、それに黒いの。我を倒すことは無理なのだよ」


 そう言って姿を消すケア。


「なるほど、条件はそういうことか。まさか自分から白状してくれるとは思ってなかった」

「ちょ、消えたっすよ!追わなくて大丈夫なんすか!?」


 条件はおそらく、あのスライムへの攻撃。

 我が子、と言っていたあたりから怪しいとは思っていた。


 それに今も、探索者が攻撃した後にすぐさまスライムを近くに寄せて一緒に転移しやがった。


 つまりあいつは自分の子を連れて逃げたのだ。


『クラッキー、そっちに目標が逃げた。安心しろ、ただの雑魚や』

『ええ!?こっち来てるんですか!?』


 こんな時のための保険、それが骨川太郎ことクラッキーだ。


『ただ、一緒にいるデカいスライムには絶対攻撃するな。勝てなくなる』

『デカい、スライムですか……それは分かりますけど本当に弱いんですよね!?僕負けませんよね!?』


 こいつ、強いくせに怖がりというか自己評価が低いというか。


『お前の10倍弱いよ、余裕や』

『なら、分かりましたけど……一応きてくださいね!こっち』

『ああ、今から向かうから。でもそれまでに倒しとけよ』

『分かりましたよ!倒しますって』


 よし、これで終わりだ。

 後はクラッキーからの討伐報告を待つのみ。


「あ、あの。行かなくていいんすか?」

「ん?ああ、行かなくていい。というか多分瞬殺やから」


 ああは言ったが援護に向かう気なんてさらさらない。

 問題はこっち。


「なぁそれより清水、あの探索者助けてやってくれ」

「え!?なんですか」


 なぜってそりゃ、あいつがいなければ条件分からずに詰んでたかもしれないからな。


 死んだやつで回復とかの能力も持ってるかもしれないからな。

 それに今こいつを殺したとしても、どうせさっき出会った他の探索者がいる。


 対してメリットがない。


「あいつがいたから条件が分かったんだ。あいつの性格上、借りは今すぐ返しておきたい。俺はあいつが怖い」

「そんな無責任な……まぁ行ってきますけど」


 あ、でもこいつの能力で巻き込むかもしれないのか。


「やっぱ俺があの探索者を上に放り投げるからその隙にオーガとかを殺ってくれ」

「はいはい、わかったっす」


 なら行くぞ。

 もうあの人間傷だらけでヘトヘトだから結構急いだほうがいい。


 探索者の真横まで一瞬で移動する。


「え、ちょ!?速いっすよ!」

 清水もすぐに俺の後を駆けてくる。


 探索者の怪我をしていない腕を掴み、上に放り投げる。

 ちょうどいいから上空のワイバーンを狙って投げるとするか。


「うぇ?ろくじゅ――」

 投げられた探索者はワイバーンに激突。

 

 よし、今回も上手くストライクできたな。

 投げられた瞬間に防御に専念するのを一応確認したし、それに合わせて弱く投げたからほぼダメージはゼロだろう。


 助けるとは言っても、正義のヒーローになる気なんてさらさらないのだ。


「いくっすよ!独裁領域ロヴ フィールド!!!」


 清水の支配する領域が広がり、周囲のストレンジを飲み込む。


 オーガ、オーク、ゴブリン、そしてドラゴン関係なくデバフにより死に至る。


 ストレンジたちは自分の意思ではなく、命令されて動いているので何もせずとも自ら領域に足を踏み入れてくる。


 その結果、すべてのストレンジがデバフによって絶命する。


 スタッ、と地面に降り立った俺は全てのストレンジが死んだことを確認すると清水を抱えて姿を眩ませる。


 直後、ダンッという音とともに白銀要塞が地面に落下する。


「んぁ?65億どこいったの?」

 返事はない。


「逃げられたの。……疲れたの、今日は帰るけど次は絶対65億円と60億円倒すの!」

 

 何もない虚空に指を差して宣言し、出口までの長い帰路につく。


「ふぅ、帰ってくれたか」


 岩陰に存在感を極限まで消して潜んでいる俺と清水は探索者が帰ったことを見てホッとする。


「やばいやつもいたもんすねぇ」

「やな、あのお金しか見てない眼とは二度と会いたくない」



 



 

 


 




 

 




 


 


 



 

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