ダンジョンの深淵に住む「魔物｣的な立場の俺、配信で晒されて見事にバズってしまう

13話.不死身のストレンジ、ケア

　予想はしていた。

　もしかしたらこのダンジョンのボスが不死身なんじゃないか。

　そしてその予想は見事当たった。

　できたら外れていて欲しかった。

　弱いからといって倒せるわけではない。

　この世界でそれを体現した存在が不死身、という存在である。

　そもそも自我持ち自体、どのようにして生まれるのか不明なのだ。

　気づいた時に自我持ちになっているストレンジがいれば、生まれた瞬間から自我を持っていたストレンジもいる。

　そして本人も自我をいつから持っているのか分かっていない。

　目の前で自我持ちになるか、目の前で生まれた時から自我持ちであったかを見ない限り判断は難しい。

　同じく不死身に関することも不明な点があまりにも多い。

　ある条件を満たさない限り、死なない。

　言い換えると、条件を満たしさえすれば攻略は可能だということだ。

　しかしその条件に規則性はなく、それぞれ独自の全く異なった条件となっている。

　そして不死身のストレンジとただの自我持ちのストレンジの決定的な違いは、死体の有無。

　ただの自我持ちストレンジは殺すと死体となって残り、その後探索者によって武器や防具へと加工される。

　だが、現在確認されている倒した全ての不死身のストレンジは死体を残さずに塵となって消えている。

　この間忍野勇斗が倒した、不死身のストレンジもそうだ。

　一定時間ダメージを与えず、かつダメージを受けないという条件を満たして討伐したのち、塵のように消えてなくなった。

　そもそも忍野勇斗は人力で塵レベルに斬り刻むことができるので視聴者からしたら違和感など全くなかった。

　そのためこの違いは世間にはあまり広まってはいない。

　不死身のストレンジの初見攻略には手順がいくつかある。

　まず一段階目、できるだけ何もせずにそのストレンジの元へと辿り着く。

　道中何もせず、特にストレンジを倒したり人間を倒したり、あとは回り道をする、などがある。

　普通の道はカースが通っていたし、なんの条件が待ち構えているかも分からない今、できるだけ別行動で同じ行動をしないほうがいい。

　ダンジョン内のストレンジを殺しちゃったのはしくじった。

　不死身のストレンジと戦ったことはないが、攻略条件に無限の可能性があるためとりあえず何もしないで戦いに望むというのが1番得策と考えた。

　そして二段階目、相手の能力を見極める。

　これに関してはデイノに教えられたのだが、通常の能力と不死身攻略の条件には何か関係がある可能性が高い……らしい。

　先ほどから能力を見極めた結果、ケアの能力はストレンジの使役。

　まさに"魔獣師"の二つ名に相応しい能力だ。

　道中のストレンジが俺を襲ってきたことにも合点がいく。

　操られて俺に攻撃させられていたということだ。もちろん俺に攻撃など効かないが。

　そして三段階目、本格的に探りにいく。

　ケアはこちらに使役しているストレンジを使って無数の攻撃を仕掛けてくる。

　もちろんこっちには効かないわけで、刃を伸ばして丁寧に一体ずつ仕留める。

「貴様ぁ！！！いい加減にしろ！鬱陶しいにもほどがある！！」

　鬱陶しいのはこっちも同じ、とばかりに刃を伸ばして脳天から貫通させる。

　グハァ。

　完全に死に至っているはず。

　だが再生して、無傷へと戻る。

「だから言っただろう？貴様には我を倒せん」

　……なるほど。その自信はどこから来るのか疑問に思っていたが今理解した。

　俺はもうこいつを倒せないのだろう。

　おそらくケアの条件は満たしてしまうと終わり。

　そしてその条件を俺は満たしてしまった。

　つまり俺はどう足掻いてもケアを殺すことはできない。

　となると清水を使うか？

　それとも――

「あー！！！65億！！」

　幼い声が洞窟に響く。

　振り返って洞窟の入り口を見る。

　そこには、恐怖の65億円ボソボソ探索者の姿があった。

　さらに驚くべきなのは、見たところ無傷であるということ。

　なぜ無傷なのだ？ありえない、俺が負わせた傷はどうなった？

　明らかに上級ポーションで回復できる範疇を超えている。

　……ああ、そういうことか。

「アイリだけ来たの！これ、回復したの！」

　そう言って掲げる手元にはポーション、それも空の特級のポーションが握られていた。

　このダンジョンはポーションが湧くのか。

　にしても特級は運が良すぎだろ。

『計画変更だ、清水。その人間にやらせるからお前はこっちに来い！』

『え、ええ！？了解っす！』

　65億円探索者の横辺りに潜んでいた清水は隠れていた場所から飛び出してこちらに駆けてくる。

「あ！あれは……60億円！？」

　その際に探索者に見つかってしまう。が、もう俺のそばまで来ている。

　ていうか、お前反射的に能力使ったろ。

　能力が世間に広まっているせいですぐにバレたんだろう。

　ちなみに俺がこいつの能力を知らなかったのは、ただただ興味がなかっただけ。

　他の奴らの能力も全く知らない。

「うーん？あれは……55億円！？ここは楽園なの！！」

　よしそうか、じゃあこの55億円相手にしてくれよ！

　ケアの背後まで最高速度で移動、回し蹴りで探索者の方向に蹴り飛ばす。

「なぁ！？貴様、やめろぉぉお！！！」

　叫び散らすストレンジ、ケア。

「55億円が先、そっちの65億円と60億円は待っててなの！！」

　ガシャガジャガシャ。

　極められた錬金魔法によって金色の鎧が生成される。

「武装モードα、金色阿修羅……55億円、倒すの」

　ケアは俺に蹴られた時、何よりあの探索者の元へ飛んでゆくことを嫌がっていた。

　もしかするとあの探索者はその条件を満たしていないのかもしれない。

　ならば、暴けるかもしれない。

　俺とあの探索者で、おそらく俺と清水がしていて探索者がしていないことはかなり絞られる。

　ここはあの探索者に賭けてみるか。