12話."魔獣師"ケア

 目の前にいるのはストレンジだが、それ以上に見た目がホラーすぎる。


「貴様ぁぁぁあ!!!よくも、よくもぉぉお!!!」


 頭部だけのストレンジは怒り狂って叫び散らす。

 怒り散らすストレンジ、その名もケア。


「よぉくも我が子をやってくれたなァァァァァァア!!!」


 ケアにとっての『我が子』とは、先ほどスライムを示す。


 おそらく、アンノが道を強引に作った時に洞窟の中にまでその影響が及んだのだろう。


 そしてその衝撃は何体もいる例の巨大スライムが吸収。

 吸収し切れずに何体ものスライムが死んだ。

 そして生き残った数少ないスライムをたった今カースが殺した。


「我が子って、子供なんすか!?でもどう見ても見た目とか全然違うじゃないすか!」

「五月蝿いわ!!我が子供と言ったら子供なのだぁ!!!」


 唾を撒き散らしながら怒鳴る頭部。


「だから、下がっとけって」

「うっす、じゃあ頑張ってくださいっす」


 カースに避難するよう指示し、頭部と向き合うアンノ。


「ほう、貴様見たことがあるぞ?忍野勇斗と戦っていたやつだろう?」


 返事は返ってこない。


「いいことを教えてやろう。忍野勇斗はなぁ……我が育てた」


 ニタニタと笑い出すケア。

 先ほど怒り狂っていた顔面とは思えないほどに上機嫌である。


「あー、やっぱりそうなんすね!アンノさん、やっちゃってください!」


 遠くから聞いていたカースが代わりに返答する。


「この中は我のテリトリーだ。入ったら最後、押しつぶされるか食い殺されるまで出ることはできん」


 周りを見ると、一面がオーガやドラゴンによって埋め尽くされている。


「さぁ、やれ」

 頭部が指示を出すとともに、一斉にストレンジたちが飛びかかる。


 ドドトドド、と地ならしを生みながら迫るストレンジたち。


「ククク、口ほどにもない」

 

 ストレンジたちはアンノに攻撃することができない。

 だが、攻撃できなくとも上から乗っかることは可能。もちろん、ケア自身は攻撃できないことを理解していない。


 無数のストレンジが上から覆い被さり、30メートルはあろう天井まで届くほどのストレンジの山が出来上がる。


「次は貴様ぞ?金髪の」


 もう、勝負はついた。

 標的を黒いストレンジから金髪のストレンジへと変えようとした瞬間。


 ピシュン。


 視界に一瞬、黒いナニカが映る。


 頭部は自身の身体に違和感を感じる。

 身体といっても頭部しかないそのストレンジは、鼻に伝わる激痛を時間差で感じる。


「んなぁ、痛い痛い痛い!な、何をしダァ!!」


 横から受けたであろう攻撃の元を見る。

 そこにあるのは、ストレンジでできた大きな山。


 その山の頂上に鎮座する一体のストレンジ。


 そしてそのストレンジから伸びている2本の黒い刃。頭部にダメージを与えたのはこの黒い刃だろう。


「貴様っ、生きて……うおぉぁあ゛あ゛!」


 黒天王ネグロキング、アンノ。

 魔獣師、ケア。


 先にダメージを入れたのは、アンノ。


 多数のストレンジによる圧死作戦を無傷で生還、そしてお返しの一発。


 次にケアとアンノの目が合った瞬間、先に動くのはアンノ。


 2本の黒い刃がケアを襲う。


 刃はケアの眼球を貫く。


 一瞬にして奪われたケアの視界。あまりに唐突の出来事に、悶えるケア。


「貴様ァ!よくも、よくもぉお゛!」


 突き刺さった刃はそのまま触手のように操作され、ケアを投げ飛ばす。


 ドガァン、ガラガラガラガラ。


 洞窟の壁に激突、そしてその衝撃によって崩れた天井の一部や壁の一部がケアを襲う。


 視界を失っているケアはどうすることもできず、ただ上から押しつぶされるのみ。


 カラカラカラカラ――


 やがて壁や天井からの猛攻が収まり、土煙のみが立ちこめる。


 土煙が消え、残るは押しつぶされたケアと押し潰した岩の山。


 普通なら押しつぶされて終い。だがアンノは未だ警戒を続ける。


 その警戒に答えるかのように、ガラッと岩が動く。


 そして――ガラガラガラ。


 岩の山が崩れ、中から一体のストレンジが姿を現す。


「フハハハハッ、貴様じゃ我を倒せんよ」


 いつの間にか回復している鼻と目。


 何か種があるはずだ、と注意深く探るアンノ。


 次に先に動いたのは……


「その黒い奴をやれェ!!!」


 先に動いたのはケア。

 ストレンジの山を作ってから身動き一つとっていないストレンジたちに命令する。


 すると、それに呼応するかのように動き始めるストレンジ。


 やがて、自身たちの上にその黒い奴がいることを知ると暴れ出す。


 全員が一斉に山を上り、跳びかかろうとするが攻撃はできない。


 だから跳ぶだけしかできない。

 跳んできたストレンジを刃で斬り刻むアンノ。

 いずれにしろ、その視線はケアを捉えている。


「ふむ、厄介な能力を持っておる」


 ケアも、アンノが何かしらの攻撃できないスキルを持っていることを見抜いたのか、その厄介さに舌を巻く。


「が、それだけでは我を倒せん」


 ニタァと笑うケアに対し、立ち上がるアンノ。


 いまだにストレンジたちの猛攻は続いているが、そんなものには見向きもしないアンノ。


 攻撃のタイミングを伺っているかのように瞬きせずにケアを睨んでいる。


「まずは、その能力を……」


 ケアが話しかけた瞬間、アンノの姿が消える。


 ケアの後ろの壁まで一度の跳躍で到達、そしてそのまま壁を蹴って背後からのスピードの乗った一撃。


 消えた事実に驚いている暇もなく、アンノによる攻撃を食うケア。


 ケアが蹴り飛ばされた先には、一瞬にして消え伏せた攻撃対象を必死に探すストレンジたち。


 勢いよくぶつかり、ストレンジの山が爆散する。


 ダメ押しとばかりに10本の刃をケアがいるであろう場所に伸ばし、突き刺す。それを繰り返す。


 まさに殺戮。全力で敵対してくるなら、全力で葬る。

 ただ、これはアンノからすると検証にすぎなかった。


 刃を止める。


 すると、無傷のケアが死体の山から出てくる。

 これほどの攻撃を食らって無傷の生物となるとかなり数は絞られる。


 卓越した剣技と神速を誇る最強の名にふさわしい探索者、忍野勇斗。

 空間属性の能力で視認できる限り鉄壁の防御を誇るストレンジ、ウロボロス。

 そしてあらゆる面で万能の名にふさわしいストレンジ、クラッキー。


 アンノが知っている存在で、この攻撃を無傷で耐えうるのはこの3体のみ。


 推測されるに、ケアは無傷ではない。実際攻撃が通っている感覚がアンノにはあった。


 壁に激突した後もそう、ケアは死んでから回復している。


 不死身のストレンジ、"魔獣師"ケア。

 それがこの危険度Bランクダンジョン"深森"のダンジョンボスの正体である。


 


 




 

 


 


 


 

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