7話.いるはずがない
時間は少し遡る――
side月城大輝
前々から計画していた通り、ダンジョン内ではSランク探索者である3人が先導して安全確認の後、残りが来るというフォームで進む。
「なぁ、入り口にいた鎧着た探索者見たか?」
「ああ、見たぞ。変な気がしたな。理由なんてないが嫌な予感がした」
神宮寺と月城が入り口にいた謎の違和感を放つ探索者の話をしている横で、
「お金、お金、ごじゅう、ごおく!」
東雲はお金のことしか考えていなかった。
「ったく、お前は変わらんな。いつどこであっても」
そんな彼女がいるからこそ場の空気が緩む。普段彼女がいない場では、緊張が増すような場面も彼女はその空気を変えてくれる。
「もうちょっと別の内容にしてくれればいいんだけどな」
流石に連呼している内容が『お金』はよくないだろう。
「お前らはここで待ってろ。俺たちが見に行ってくる」
気づけば下層付近。そろそろ強いストレンジが出てきてもおかしくはない。
「気をつけろ、オーガが出るかもしれん」
オーガは下層で主に見つかり、ほとんどの個体が棍棒を持っている。
オーク複数体分の強さを誇り、一撃の強さはストレンジの中でも自我持ちを除けば最上位に位置する。
「アイリはオーガごときに負けないの」
「そうだぞ?オーガに負けたらSランクなんてやってないだろ」
まぁ、そうだが。気をつけるに越したことはないだろう。
「超錬金、爆撃弓」
東雲の手のひらに魔法陣が宿り、紅の弓と先端が激しく燃える矢が生成される。
これが彼女の得意とする魔法、錬金魔法。
もともと彼女自身が持っている魔力の量がとんでもなく多く、そしてどの魔法であっても上手く扱うことができた。
そんな彼女が数ある魔法の中からなぜあまり人気のない錬金魔法を選んだのか。
それは彼女の趣味に依存する。錬金魔法さえあれば、武器を買わなくとも自分で作れる。
武器を買わないということは、費用の大幅減が見込める。
ただ、錬金魔法には欠点がある。その欠点は一度何かを生成するとかなり魔力を消費するという点だ。
その魔力消費は同じ物を繰り返し作ることで減らすことができるが、それでも凡人には厳しい魔法だった。
だが彼女は違う、生まれもった魔力量は随一だからこそ錬金魔法を使いこなした。
戦場では数多の剣、銃火器を同時生成して正面から数の暴力で屠る。
それがこの探索者界で最多の手数を誇り、クラン明星で最強の戦力となっている東雲アイリという女だ。
彼女が今生成した弓は、彼女がオリジナルに改良を重ねたもので火炎に特化した作りとなっている。
「っ!?
「どうした東雲!」
いきなり何かに驚いたように弓矢を放った東雲。炎を纏いながら放たれる弓矢は着弾点で爆発し、周囲を燃やす。
そして、その炎の中から焼け焦げた大きな図体が姿を現す。
「……あれ?オーガなの」
「オーガだな」
放たれた矢の先には赤い鬼、オーガがいた。
「オーガごときじゃなかったのか?」
「うーん。あれ?」
東雲は納得いっていない様子。
さっきの東雲の慌てた様子は確かにおかしかった。普段の東雲ならオーガ程度にあれほど慌てることなどありえない。
「もっと強い、55億円だと思ったの」
「まさか、ケアがこんなところにいるわけがないだろう」
いるわけがない、いるわけがない……が、念の為に確認しに行く。
オーガは死んではいないが、東雲が強めに放った
トドメをさすなら今だ。
警戒心を高めながら近づく。
オーガがこっちを見て睨む。
グググギギァァァァア!!!
「おう、寝てろ」
月城が大きな大剣を振り下ろし、首を斬り落とす。
ググギィアァ、ア、ァ
オーガの大きな図体が力なく横たわる。
「よし、終わりだ。東雲、何もなかったぞ?」
東雲からの返事はない。
「東雲?どうした?」
東雲は一点、先ほど放った矢の影響で燃えている森の方を凝視しながらゴクリ、と唾を飲んだ。
「攻撃したのはオーガなの、でも感じた気配はオーガじゃないの……」
燃える炎の中、揺ら揺らと人影が近づいてくるのが見える。
「ありゃ、なんだ?今まで気づかなかったぞ?」
オーガに気を取られていてその存在に全く気づかなかった。
いや、気づいた今でもその存在が弱弱しく見える。
燃える業火の中からボウッと姿を現すことでようやく視認できる。
「ん?探索者か?」
人間の顔がうっすらと見える。
だが、あっちもこっちを敵だと認識したであろう瞬間。
つまり目がバッチリ合った瞬間に今まで弱々しく、すぐに燃えて消えてしまいそうだった気配が見違えるほどに膨らんだ。
背後の森林火災が霞んで見えなくなるほどの圧倒的な気配。
黒い外殻で身を包み、顔が見えなくなる。
画面越しで嫌と言うほど対峙した姿。いつかその実力を確かめてやろうと密かに意気込んでいたストレンジ。
だがありえん。脳内で混乱が生じる。
お前は、お前はこんなところにいるわけがないだろう!
「う、嘘ぉ。なんであいつがいるんだよ!ここは深淵じゃないんだぞ!?」
んなこと言われても私だってわからない。
だが何度も画面越しで見てきたから分かる。こいつは本物だ、似てる別の敵でも、偽物でもない。
こいつは紛れもなく……
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます