5話.クラン明星

 地上にはクランと呼ばれる、少ないと数人、多いと数十人で構成される探索者の集まりがある。


 その中でも高い戦闘力を誇るSランク探索者が複数人所属しているクラン明星、クラン翠白、クラン旋風突撃団は互いにどれだけの功績をあげているか競い合っている。


 だから彼らはダンジョンに関する情報で、公にするべきものは公にし、しなくてもいいものは公にせずクラン内で秘匿することによって互いに有利な立場に立とうとしている。


 そして現在彼らは忍野勇斗を取り込むために必死である。

 そんな中クラン明星は総動員で、あるダンジョンを攻め落とす作戦、もとい依頼を実行しようとしていた。


「よし、集まったなみんな」


 クランが所有する施設の中、何人もの探索者が集まっている。


 クラン明星のマスターである月城大輝は召集された15名の探索者に向かって立つ。


 このクランの掲げるスローガンは、"少数精鋭"。そのため実力が高い探索者のみが集っている


 Sランクが3人、Aランクが8人、Bランクが4人である。

 そのBランクの探索者も、同じランクの中では上位に位置する実力者であり、Aランクにも届きうる実力を持っている。


「今回の作戦は理解していると思うが……念の為もう一度伝えておく」


 この作戦は数週間前から計画されていたので、クラン内のメンバーは周知の内容だが万が一のためにもう一度確認するべきだろう。


「目標となるダンジョンは、神奈川県内に存在する危険度Bランクダンジョン”深森”にて最近確認された自我持ちのストレンジだ」


 旧初心者ダンジョンの件といい、最近は新発見の自我持ちストレンジが相次いで報告されている。


「そのストレンジの名はケア、二つ名”魔獣師”を与えられている」

「あ、そういえば懸賞金の額ってどれくらい付いてるんですか?」


「ケアに付けられた懸賞金額は55億円だ」


 この額は全ストレンジの中では低いほうだ。だがそもそも自我持ちに懸賞金が付けられてからその討伐された数は2、3匹。


 しかもケアはまだ最近見つかったストレンジなので懸賞金の通りの強さというわけでもない。

 まあ、それを言えば懸賞金自体が最近つけられたものだから全部の自我持ちに関して正確な額とは言えないが。


「55億なの、大金なの」


 どこからどう見ても、一人でテーマパークには入れない年齢の見た目の少女がお金に目を奪われている。


 彼女はこのクランに所属するSランク探索者であり、武装型幼女として世間で知られている。


「ああ、山分けしたとしても一人約3億5千万も貰えるぞ。だから頼んだぞ、東雲」


 そんな彼女の世間に知られていない趣味は、お金を集めること。

 これだけだとそこまで悪い趣味には見えないが、彼女のお金収集愛は常軌を逸している。


 彼女にいつ「今日遊びに行かん?」と聞いても返ってくるのは「金欠だから無理」という冷たい返事のみ。


 そう、彼女はお金を集めることに興味が大いにあるがお金を使うことに全く興味はないのだ。だから必要な生活必需品と、自身が使う最低限の装備以外にお金をかけることなんてない。


 なんなら食事では後輩に奢らせたりもする最低な先輩である。


 クラン内では彼女が他人のためにお金を使った日は雪どころか金が降るんじゃないかと言われている。

 ちなみに彼女が今まで金を降らせたことは一度もない。


 そんなぶっとんだ性格の彼女に思いを寄せる一般人男性は少なくない。その幼い(中学生レベルの)外見は一定数の男に効果バツグンなのだ。


 ネットではその手の書き込みが多数見られるが、彼女の本質を知っているクランのメンバーは「うん、やめとけって笑」と内心思っている。


 しかし、決して現実を見せて失望するわけにはいかない!とその情報はクランメンバーと、一部の人間しか知らない。


 そんな彼女の貯金額は……


「なあ、お前って貯金どれくらいあるんだ?」

「うーん、覚えてないの」

 

 彼女すらも知らない。


「金好きなんだったら貯金額は覚えてるもんじゃないのか……」

「ううん、アイリが好きなのは貯金なの、お金じゃないの」


「そうか、好きにしてくれ」


 彼女に振り回されている神宮寺大和。彼もクラン明星に所属するSランクの探索者である。


「お前ら、関係ない話をするな」

「関係なくはないの!ちゃんと懸賞金に関係あるの!」

 

 お金の話になった途端に東雲は活気が溢れる。いつもは静かでおとなしいのに、だ。


「残念ながら今回の作戦は懸賞金目当てじゃない、他のクランへの牽制と、後はうちへの依頼が多かったためだ」

「まあ、懸賞金なんて難易度に見合ってないものばかりだからな。前に俺が会った黒天王ネグロキングも65億円じゃ全くその難易度に見合っていない化け物だった」


「そういえば前に黒天王ネグロキングとやり合ったと言っていたな。私はあいつがどうにもそこまで強いとは思えんのだよ」

「そうか。俺はできれば戦いたくないから、行くなら俺以外で行ってくれ」


「ろくじゅう……ごおく!?もっと大金なの」

「残念だが今回のダンジョンにそいつは出ないから、東雲は55億円のストレンジで我慢してくれ」


 まあ、その55億円の懸賞金がかかったストレンジを倒すまでが一番肝心な問題なんだけどな。


「言い忘れるところだったが、今回の作戦は階層ごとにまず俺達Sランク三人で突入、そして安全が確認できた後にお前らAランクとBランクに入って来てもらう。忘れちゃいけねえのは、誰も死なないことだ。そのために一応身代わりの札も全員分用意してある」


 身代わりの札は超が付くほどレアであり、そのドロップは日本内では一つのダンジョンでしか確認されていない。


 クラン明星は少数精鋭のクラン、一人でもかけるとその穴を埋めるのに時間がかかる。なにせこのクランはここ数年メンバーが変わっていない、つまりこれまで積み上げてきた信頼関係というものがあるのだ。


 そんな信頼関係は、例え1ピースでもかけると修復は困難なものになる。


「だがもちろん、標的のストレンジと相対したときは全員全力で倒しにかかるぞ!」


 オーッ、という声が施設内に響く。

「さあ、久しぶりのクラン総動員だ」


 


 

 

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