4話.探索者資格試験
「はい、身分の証明ができたのであちらで魔力の検査を行います」
「魔力検査……」
さぁ、ここからが本番だ。身分証明なんてのはほぼ確実に通れるが、これは下手すれば終わる。
ヤバい数値出して「こいつやべぇぞ……ん?こいつの名前、庵野、あんの、アンノ、ん?お前まさかッ」ってなりかねない。
次に嫌なパターンは、低すぎて「お前魔力ゼロだからダンジョンなんか入るなw帰ってパパのおっぱいでも吸っとけバカ野郎」ってなるパターン。
そしてここで大事なポイントがある。それは目標としているダンジョンの危険度がBランクだということだ。
探索者のランクはSからFまであり、Bランクのダンジョンに入るには最低Eランクになっている必要がある。
そこで重要なのが――
「この魔力検査なんですが、高い数値が出るとFランクからではなく最高でDランクにいきなり昇格もできるんですよ!」
これだ。
いい感じの結果を出して、Eランクに飛び級で昇格する。
「よしお前ら、分かってるよな?」
「はい、Eランクっすね」
「調整難しそうですね」
受付のお姉さんに聞こえないように小声で話す。聞こえたら大問題だ。
「よっしゃあ、俺たちもDランク一気に行っちゃうか!」
「そ、そうっすね!」
誰もが言いそうなセリフを放っておく。
「い、いやそんないきなりDランクなんて一年に1人のレベルですよ!流石にそれは諦めたほうが……」
「あ、はい。そうでしたか」
☆☆☆☆☆
連れられてきた部屋には、チョーガリガリのおっさんが1人いた。
正確にはチョーガリガリなおっさんのぬいぐるみがあった。
「こいつ、お前よりガリガリなんじゃね?」
ほぼ厚みがないおっさんの体と、骨そのものである骨川ことクラッキーを見て言う。
「このおっさんのほうがガリガリですね」
まじか、やっぱりガリガリ対決はこのおっさんに部があるか。
「にしてもこのおっさん、何に使うんすかね」
「さぁ、なんだろうな。まさか魔力検査をしに来てこんなおっさんと出会うとは思ってなかったけどな」
ほんとに何に使うんだこのおっさん。いや、ガリガリなおっさんだからリッさんと呼ぶことにしよう。
そんなふざけたことを考えていると、検査官らしき人が入ってきた。
「御三方がそれぞれ庵野黒男さん、清水怪三さん、骨川太郎さんであってますか?」
「はい、合ってます」
やっぱり検査官だこの人。
「では検査の説明をしますね、使うのはこのぬいぐるみ」
「え、リッさん使うんですか?」
「リッさん?」
「あ、いやすみません。ガリガリのおっさんだったのでリッさんって心の中で呼んでまして」
うわ、2人にも見られてる。恥ずかしい。
「ま、まぁそれはいいとして。今から御三方にはこのぬいぐるみに全力で魔力を流してもらいます。その魔力量に応じてこのぬいぐるみが膨らみますので、その膨らんだ分に応じて結果を出します」
「なるほど、膨らむ前だからガリガリだったのか」
なら別にリッさんじゃないじゃん。
「ちなみに一般の方はこのぬいぐるみを普通の体型にするぐらいですね。Eランクに飛び級で合格する人はメタボぐらい、Dランクになると破裂します」
「へぇー、そうなんですか」
つまり太ってる範囲に収めればいいんだな、Eランクになるには。
「じゃあ俺からいっていいですか?」
「はい、ではこちらに手をかざしていただいて全力で魔力を流してください」
言われた通りに手をかざし、魔力を流し始める。それも超繊細に、丁寧に。
すると徐々におっさんが膨らんでくる。まだまだ膨らむ。
「おお、これは大きいですね。それにまだ余裕そうですね」
っ⁉︎まずい、もっと全力でやってる感を出さないと!何か、何かいい方法は……そうだッ!
魔力の流し方を変化させる。
想像以上に難しいせいで周りから見たら本気でやっているような顔になる。
すると、さっきまでデブだったおっさんが痩せ始め、代わりに頭が膨らみ始めた。
「こ、これは⁉︎」
「こ、これが俺の本気だァァァァッ」
その後も膨らみ続け、頭が胴体の3倍ぐらいある謎のおっさんが出来上がったところで終わった。
「はい、庵野さんはEランクですね。飛び級おめでとうございます!」
「はぇ?そんな早く出るんですか?結果」
「はい、私はもう30年ほどやっているので細かいところも見るだけで分かるんですよ」
「つまりこの道の達人ってわけですか」
流石ダンジョン局本部、勤めている局員もレベルが高い。
ともかく、無事にEランクに飛び級できた。あとは残りの2人もEランクに飛び級できればいいのだが……あれ?
考えてなかったけど一気に3人も飛び級したらめちゃくちゃ目立つんじゃない?もしかしてやらかした?
「じゃあ次は俺がやるっす」
「うん、頑張ってね」
おいおいクラッキーお前そんな呑気に見送って大丈夫なのかよ。
「なぁ骨川、3人も一気に飛び級したら目立たないかな?」
「あー、確かに。でも今更じゃないですか?」
うーん、そうだな。ちょっと珍しいことが起こったってことでいいか。
「それはそうと、黒男さんさっき何してたんですか?頭ばっかり膨らんでましたけど」
「ああ、あれな。全力でやってる感を出すために頭だけに魔力を送ってたんだが意外とむずかったんだよ」
小さーく魔力を練り込んで、それをさらに精密に操作して頭だけに送るとなるとかなり難易度が高くなる。
「なんか、僕にはできなさそうなので普通に顔芸で行きますね」
「まあ、それでいいんじゃね?」
なんて話していると清水の検査が終わったようだ。結果はEランク、上手くやれたようだな。
「いやぁ、まさかお二人ともEランクなんて珍しいですね!」
「は、はい。ありがとうございます」
もう1人Eランク出ますよー?
「あ、見たすか?俺の全力でやってる風の顔」
「ごめん見てなかった」
小声で聞かれたので小声でそっと言い返すと清水は残念そうな顔をした。
「ごめんって、ほらこれやるから」
来るまでの道で買っていたキャベツ○郎を清水に渡す。
「これなんすか?」
「お菓子だよ、結構おいしいから後で食べたら?」
俺も地上のお菓子はあまり食べたことがなかったが思ったより美味いんだこれが。
「おお?膨らんでる膨らんでる」
ちょうど目の前では骨川がいい具合におっさんを膨らませている最中だった。
ここからだと顔が見えないからちょっと見に行くか。
骨川の顔が見える位置まで移動する。
「あーめちゃくちゃ本気の顔やな」
「え?そうすか?俺には鎧のせいで全く見えないっすけど」
いや、正確には鎧で顔なんて見えないが分かる。俺なら分かる。
小声で清水に伝える。
「あれは、全力でやってる風の顔を全力で出そうとしてる顔や」
「な、なるほど……俺にはさっぱり分からないっすね」
まあ、こればっかりは長い時間一緒にいる俺は雰囲気で分かる。でもさっき出会ったばかりの清水は分からなくて当たり前だよ。
「ま、まさか3人ともEランクなんてこんなこと……まあいいでしょう。おっさんは故障してるように見えませんしみなさんEランクからの飛び級です」
今、おっさんって言ったよな。
「あと、絶対に人間を攻撃したりしてはいけませんよ?ダンジョンの中でも人殺しは人殺しです。かつての咲原事件をもう一度起こす訳にはいきませんから」
「咲原事件ですか……そうですね」
よく分からないが、知ってる風を装うのが人付き合いの基本だからな。
「それにしても全員Eランクからのスタートか、いいスタートダッシュ切れたんじゃないか?」
「っすね。じゃあもう行くすか?」
そうだな、早く終わらせて帰りたいし。行くとするか。
あとクラッキーの鎧、何も言われなかったな。
☆☆☆☆☆☆☆☆
ちなみに忍野勇斗くんはいきなりDランクへ飛び級した数少ない探索者です。
実はすこーし話題だったのですが、Cランクから動いていないのと同時期に弥生菜奈という天才がいたことから結局人の記憶から消えてしまった存在です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます