3話.清水怪三


 デイノに明日から行け、と言われた次の日。


 行きたくたいと主張する足を無理やり動かしてダンジョンから出た俺たちは、ダンジョン局で待ち合わせをしていた。


 俺自身は見た目が人間と変わらないので、何もしなければまずバレない。

 そしてクラッキーも形だけで言ったら人間っぽい。

 

 問題は骨だということだ。いや、正確には骨にうっすい皮があるんだけどね。


 中に骨は別としてちゃんと存在するらしいんだよ。だから外骨格というわけでもない。


 簡単に言ってしまえば、骨に武○色纏ってる感じかな。


 もちろんそのままだとバレるから全身に鎧被ってもらってる。

 鎧を着てる探索者は珍しくないから目立ったりはしない。


 俺はシンプルにビギナー探索者が着るような、「初心者におすすめ!ダンジョン内の怪我が大幅軽減でこの価格!」ってやつを買った。


 ん?お金は待ってたよ?ダンジョン内で探索者が落としてったやつだけど。


 何十年いや百年ぐらい貯めてたのに、クラッキーの鎧を買ったらほとんどなくなってしまった。

  

 そもそも初心者ダンジョンに来てた探索者が駆け出しばっかりだからそこまでのお金を落としたりしなかったのが原因だ。


 他の、特にSランクとかAランクのダンジョンなら来る探索者のレベルも高いし、そこそこ金を持ってるから儲かる。


 というか、もう一人のストレンジ全然来ないな。


「あの、アンッ」

  

 おい、本当の名前を言うんじゃねぇよ。

 クラッキーの口を抑えて強制的に俺の名前の発音を封じる。


「ちょ、俺の名前黒男なんやけど」

「あっそうでした」


 ったく、しっかりしてくれよ。

 苗字呼びは流石に危なすぎるから名前で呼んでくれってダンジョン出る前に言っただろ。


 バレたらまじで面倒なことなるからな。バレるとしたらその乗り込むダンジョンの中だ。


 地上でバレるのだけは絶対にしたくない。


 俺はすぐにダンジョンに逃げ込めるけど、その地上に潜入してるストレンジのこととか、結構後々大変なことになりそうなんだよ。


「あ、あのー」

「は、はい?なんですか?」


 いきなり金髪に黒のメッシュ。金色の瞳孔の青年に話しかけられた。

 動物で表すなら虎って感じの男だな。


 それにしてもいきなり話しかけられたから少しどもってしまった。


 バレてないよな⁉︎


「もしかして黒男さんですか?」

「ん?そうですけど……あ」


 俺の名前を知ってるってことはこいつがもう一人の、そう名前は確か……。


「怪三か?お前が」

「そうっす。俺が清水怪三っす」


 何というか、お前チャラくない?金髪ってなに!?いかにも現代って感じじゃん。


「なぁ、お前ってそんな見た目なん?」

「え?……あ、いやこれは変化魔法っす。見た目を変えてるっす」


 変化魔法!なんかかっこいいな!

 

 でもこいつ、それ早く言えよな。クラッキーの見た目も変えれるんじゃん。鎧を買った意味ないじゃん。


「それって俺たちにもできる?」

「すみません、これは自分にしかできないっす」

「あ、そうなんや。じゃあいいや」


 なら鎧代は無駄になってないな!ヨシ。


「いやー、感激っす。会うの楽しみにしてたんすよ黒男さん」

「あー、やっぱ見た感じ?」


 デイノから聞いていたけど、実際会ってみると外見が意外すぎてちょっと……。


「見ましたよ!指一本で止めるやつとか、見えないスピードで飛び回るやつとか、敵を容赦なくに斬るところとか!」

「ちょ、声でかいって」


 まじでここ探索者めっちゃ多いの分かってる?バレたらどうするんだよ!


「すみません。……あ、骨川さんもよろしくっす」

「うん、よろしくお願いします」


 こいつ、マイペースだなぁ。


 今から探索者の資格取りに行くの心配だな、頼むから変に能力使ってバレたり口が滑って言っちゃうとかやめてよな。


「はぁ……心配しても変わらんか。行くぞお前ら、頼むから目立ったりするなよ?俺たちは普通の探索者!いいな?」

「黒男さん、分かってるって」


 別にクラッキーに関してはそこまで心配はしてないんだよ。


「分かったっす。でも骨川さんの格好ってもうすでに普通じゃないっすよ?」

「あ……」


 確かに、言われてみれば探索者にまだなってないのに鎧ガチガチに着込んでるってヤベェな。


 完全に形から入るタイプの人間だわ。しかも安物の鎧じゃないんだよこれ。


 クラッキーの場合、関節部分も見られたらまずいため全身の鎧を探したのだがどの鎧も空いてるところがあったりと、目当ての全身を完全に隠す鎧が見つけるのが大変だったのだ。


「あ、そういえば地上に潜んでるやつは出て来んの?」

「来ないって言ってたっす」


 そうか。そんなに度胸のあるやつなら一目見ておきたかったんだがな。


「んじゃ、入るか」


 ダンジョン局の入り口の扉を開ける。

 

 今回来たダンジョン局は東京にある、いわゆる本部だ。

 なぜそんな1番人が集まりやすそうなところへ来たのか。

 

 それは初心者ダンジョンが東京にあるからだ!バレちゃったらどこの局でも同じだろ、ってことで本部来ちゃった。


「え、なんて言うか。テンプレだな」


 小声で呟く。


 中に入ってすぐに受付があり、横には飲食店で大勢の探索者がワイワイ騒いでいる。


「そうっすね。想像した通りの内装っすね」


 小声の呟きが帰ってくる。

「じゃあもう資格試験行きますか、お二人さん」


 またしても小声の呟きが聞こえる。

「いやそれは小声じゃなくてもいいやろ」

「え?……」

「……え?」


 こいつら大丈夫かよ。さらに心配になってきたぞおい。


「あ、あの。資格を取りに来た方ですか?」

「え?あ、はい。そうです」


 受付はこっちから話しかけるもんだと思ってたから話しかけられると困るよ、受付のお姉さん。 


「じゃあ御三方ともこちらにお名前と生年月日を記入していただけますか?」

「はい、ほらお前らこれに記入やって」


「「はーい」」


 そういえば俺って20歳の設定だったな。 

 その10倍ぐらい生きてんじゃけどな。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る