2話.強制

 俺は、苛立ちを隠せずにいた。


「やっぱりあの男も殺しとけばよかったかも」


 数日前、急にデイノから俺に連絡があった。その内容は、例のダンジョンのことで命令に従って行動しろというものだった。


 ここで困るのが、じゃなくてであるところだ。この時点で俺に拒否権がほとんどないことが分かる。


 絶対にめんどくさいから腹が立っていたし、ついでに探索者に久しぶりに会うのも悪くないかと思って出て行ってみたけどやっぱり少ししかストレス発散にならなかった。


 最後の男は少し強めだったのでそいつを殺せば発散できたかもしれないと考えると、イライラが止まらない。


 ただ、天井を壊したのはそこそこよかった。いい発散になった気がする。


 だが同時に、俺のストレス発散に付き合ってもらいながらも何人か殺してしまったという申し訳なさも感じている。


 でもやっぱ「黒天王ネグロキングはフレンドリーで親しみやすいストレンジ」という謎の情報が広まっているから、その情報を正すためには必要なことかな。


 そもそも俺達の情報を知らなかった頃は別に俺から襲ったりはしなかったが、世間に知れ渡ってしまった今、敵対の意思があるなら徹底的に叩く。


 そんな考えを持っている俺のどこがフレンドリーなんだよ。本質を捉えてない情報にも程がある。


「ねえ、なんでそんなにイライラしてるの?」


 ちょうど遊びに来ていたポイジェが不思議そうに聞いてくる。


「ちょっとデイノに面倒くさそうなことしろって言われたから」

「あー、がんばれ?」


 こいつ連れて行ってやろうかな。


「ちょうど今日詳しいこと伝えるって言われたんやけどさ、正直行きたくな〜い」

「じゃあ行かずに私とここにいる?」


 いや、残念だけど行かなきゃいけないんだよ。俺も遊べるなら遊びたいんだけどな。

 

 ここには人間がおいてった道具が死ぬほどあるから2人もいれば暇はしない。


 最近は人生ゲームとやらにハマっている。まだ2人でしかできていないので、今後4人でやってみたい。


「というか、前暴れてたのってそれが原因?黒天王ネグロキングが現れたって騒ぎになってたけど」

「そうだよ、なんか悪い?」


「ううん、暴れたかったら暴れたらいいじゃん」


 そうか、やっぱこいつとは気が合う気がする。


『おいアンノ、説明するから来てくれ』

『はいは〜い』


 予定されていた招集のお知らせに気だるけに答える。


「じゃあポイジェ俺行ってくるから、またな」

「あ、うん。頑張ってね」


 手を小さく振ってくれたのでこっちからも手を振り返しておく。


 はあ、命令とか最悪だわ。ほんと。


☆☆☆☆☆


「よし、来たなアンノ」

「はいはい、来ましたよ」


 恐竜面のストレンジともう一体、骨のように細いストレンジがいる。


「え?クラッキーもいるの?」

「ああ、今回はお前らと他のダンジョンのボス合わせた計3体で行ってもらう」


 クラッキーも一緒なのは別にいいけどさ、他のダンジョンのボスはねえだろ他のダンジョンのボスはよお。


「他のダンジョンって具体的にはどこの?」

「危険度Aランクダンジョン呪妖のボスだ」


 え、どこすかそれ。ごめん俺が知ってるAランクダンジョンって蜃気楼ぐらいだわ。


「あっちはお前に会うのが楽しみだそうだぞ?」

「まじ?余計に断りずらくなったやん」


 多分後輩にあたる存在だし、楽しみを台無しにしてやるのはなんか可哀想に思う。


「一応言っとくがアンノ、お前は強制だぞ?」

「……分かってたわ!」


 知ってたよ!でもやんわりお断りできるかな〜とか思ってんだよ!

 そこで別のダンジョンボスの話とか持ち出されたら言い出しにくいんだよ。


「あのー、具体的には何すればいいんですか?」

「ああ、それはな。前に言った通り忍野勇斗が潜んでいたと思われるダンジョンのボス討伐だ」


 やっぱりそうなのか。でも確証あるのか?


「なんで急に決めた?確証はないだろ」

「確証はないが、もし忍野勇斗のあの強さがそのダンジョンにある場合他にもあのレベルの人間を生み出しかねん」


「あ〜だからとにかく潰せ、と」

「そうだ、その普通自我持ちが誕生したらそいつが自分から名乗り出るのがこの世界の常識だからな」


 そんな常識知らないんですけど……。


「だからやられたとしても言い訳はできないってわけだ」

「それは分かったけどさ、なんで俺なん?」


 自我持ちの討伐ぐらい俺じゃなくともできるだろ。闇夜とか奈落とかのボスでもいいだろ別に。


「お前がとんでもなく強いってことはあっちにもバレてんだよ。確実に討伐するためにもお前が選出された」

「ええー、でもどうやって行くん?中からは無理やん」


 ダンジョン間の移動はあくまで相手のダンジョンボスが許可して可能になる。だから今回のような場合、この移動の方法は不可能だということだ。


「ああ、だから外から行ってもらう」

「ソト……外!?」


 何言ってんだよこいつ。外から入るとか前代未聞だぞ!?

 そもそも外なんて出たことないぞ!?


 ストレンジは意思とは別にダンジョンから出たくないよう本能がそうする。


 それがおかしくなって起こったのが例の旧ダンジョン動乱だ。


ちなみにその本能がおかしくなる理由はストレンジの異常増殖。


 つまり探索者が毎日ストレンジを倒している現在は、ダンジョンからストレンジが溢れたりしない。


 意思を持つ俺たちは出ようと思えば出れる。めちゃくちゃ出たくないのは変わらないが。


 ダンジョンから地上へ出ることの拒否感は、人間で例えると寒い中こたつから出るぐらいのものである。ちなみに周りはマイナス30度レベル。

 

 どのストレンジも例外なくそれほどの拒否感を持っているのに命令してくるということは、それほど重要なことなのだろう。


「危ないのは承知だからアンノ、お前のように何があっても対処できる奴が一人は必要なんだ」


 ……まあ、褒めてくれるのは嬉しいんだけどさ。

 地上からって、よくそんな大胆な作戦思いつくな。


「それにお前、知り合いがいないと動く気ないだろ。だからクラッキーを連れて行け」

「え?僕そんな大仕事やらされるんですか?アンノさんがいるならそこまで心配はないですけど」


 確かに、こんな命令クラッキーがいなかったら絶対断ってたわ。というかはっ倒してたわ。


 でもクラッキー、お前怖がりだったんじゃないのか?そんなに俺信用されても困るぞ?


「あ、でも資格取らないとそもそもダンジョン入れないんじゃね?」

「だから資格を取ってもらう」


 ええ?それはつまり、探索者がうじゃうじゃいるところに突っ込んでいくってこと?


「安心しろ、簡単な身分調査と魔力検査だけだ」

「いや、身分調査どう考えてもアウトやろ」


 逆にどこが簡単なのか教えてほしい。


「そうですよ、僕たち人間の身分なんて持ってませんよ」

「そこも安心しろ。ここだけの話、奈落の自我持ちが実は地上に長いこと潜んでてな。お前らの身分を偽装してもらった」


 うそでしょ?地上に潜んでるストレンジがいるのは聞いてない。

 罰ゲームにも程あるだろ。


「その潜んでるやつすごいな、普通に」

「もう何十年も潜んでるらしいぞ、その奈落のストレンジ」


 何十年って……もうほぼ人間じゃん。情が湧いて大事なときに人間殺せなくなるんじゃない?


「お前ら二人の名前は庵野黒男あんの くろお骨川太郎ほねかわ たろうだ」

「まんまやん。隠す気ないでしょ」


 アンノクロオってそのまま俺じゃん。

 クラッキーはまだ未確認だけど俺は駄目だろ。


「大丈夫だ、もう一人の奴は清水怪三しみず かいぞうだ」

「何が大丈夫なのかまったく分からん。そいつもまんまなんだろ、どうせ」


「まあそうかもしれないが……覚えやすいだろ?」

「覚えやすいけど……ねえ、クラッキー」


「いや、僕に言われても」


 お前は味方じゃないのかよ。

「もういいやそれで、いつ行けばいい?」


 来月とかそれぐらいか?俺もその同行するダンジョンボスと会話ぐらいしときたいし。


「明日だ」

「……は?」

 今こいつ、なんつった?明日?


「だから、明日だ」

「聞こえてるよ!はあ?明日?無理やって流石に」


 もしかしてクラッキーは知ってたのか?驚いてないけど。


「……行けばいいんだろ行けば!行くよ、すぐ終わらして帰って来るし!」

「ああ、頼んだぞ」


 なんで明日なんだよ、こっちにも準備があるんだよ!

 ソッコーで終わらせて帰ってきてやる。

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