17話.異常乱入
side忍野勇斗
急にこの自我持ちストレンジ、ポイジェが暴れ出した。俺の作戦では、このまま出口まで殺し続けながら移動してその時点で廃人状態ならそれでよし、そうでないなら身動きとれないよう埋めるだのする作戦だった。
だが急にこのストレンジが暴れ、泣きながら何かに助けを求め始めた。なにが起こるかも分からない今、早急にこいつを処分しなければと思い、何度も斬り刻み続けた。
だが急に、そいつは現れた。本当になにもいなかったはずなのに。
本能が躱せと警告を鳴らす。
俺はその本能に任せて掴んでいるストレンジを放し、飛び退く。
まさか、さっき呼んでいた仲間が来たのか?だとするとこの黒いストレンジがデイノなのか?
鑑定の結果は―――アンノ?二つ名がない。つまりこいつも新種の自我持ちストレンジってことか。
いや、そもそも分からないことが多過ぎる。自我持ちが助け求めてそれに応じた個体が出てくるとか今までありえなかった。
あのとき確かウロボロスも「見捨てた」と言っていた。やはり自我持ち同士は何か関係を持ってるのでは?
そんなことより今は目の前に現れたこいつだ。こいつはやばい、黒衣かなんか分からん黒い外殻を纏ってて顔が見えないがその強さが際立って見える。
単純な威圧感はさほどではない。ただそれはこちらにまだ殺意を向けていないだけ。
まさか初心者ダンジョンに不死身のストレンジに続いてこんなにも……てかそもそもここ初心者ダンジョンの名前に似合ってなさすぎだろ。
「お前、何者だ?」
「俺か?さあ……なんでもいいだろ」
首元に嫌な感じ、すぐにしゃがむ。
「あっぶなッ」
もう少し遅けりゃ首が飛んでいた。
あの外殻から出される刃は恐ろしく速いが、対処できないことはない。
「問題は……」
――攻撃、できない。
この感覚、そうかお前があのときの。
「お前、会うのは2度目だな」
「そう?俺は別にそうでもないけど」
:2度目?
:もしかして攫ったやつか?
:攫ったやつなら因縁
:そもそもなぜ攫った奴が初心者ダンジョンにいるんだよ
:いろいろ謎が多すぎる
:とにかく敵は打ってくれ
白を切っているな。こんな意味不明な現象を起こせるストレンジがそんなにいるわけがない。
っと、危ねえ。刃が腹に刺さるところだった。
回避して、種を探る。
もしデフォルトで俺が攻撃できない能力だとしたら詰みだ。
「何か、種がありそうなんだけどな」
「俺としちゃ、バレる前に追い出したいな」
やっぱり何か種があるようだ。
まず攻撃対象を黒いストレンジ、鑑定ではアンノと出ている敵から外して壁に斬撃を放つ。
キィィン――――バッコォォォォンッ
斬撃を当てられた壁にヒビが入る。
「うわ、ヒビ入ってるやん。エグいなお前」
敵は呑気につぶやいている。この攻撃を見たら普通はちょっと萎縮するんだけどな。
とにかくあの意味不明な敵に向けない限り攻撃自体はできる。
なぜ攻撃できないんだ?あの外殻に秘密があるのか?
っと、危ない。次は足元に刃が伸びてきていた。
「やっぱ躱されるか……じゃあちょっとリスク高いけどこっちでいくか」
外殻が薄くなり、薄くなった分が指先に集中する。
「黒漆――
より濃い闇が指先に集中し、その威圧感を引き立たせる。
今になって顔が見えたが、やはりこいつの顔もほぼ人間。なんというか、こんな見た目だと殺すのを躊躇ったりしそうだな、俺以外の人間は。
ゾワゾワっとした感覚が身を襲う。
あれは、受けてはいけない。絶対に躱さないといけない。
闇を纏った指先が横に振られる。
瞬間、地面を蹴って上に飛ぶ。しかし――
「ってぇ……」
予想以上に速い攻撃に少し遅れたせいで左太ももから先を持ってかれた。もう少し遅れていたら胴体が両断されていただろう。
かと言って種を暴かない限り反撃もできない。
「これ本当にやばいか?」
とりあえず空間袋から特級ポーションを取り出して……。
「っ!?まずい」
右腕を切断された。油断はしていなかった、ちょっと注意が空間袋に逸れただけでこれだ。
「これな、黒漆って呼んでるんやけど強いやろ?」
「ああ、厄介だよそれ」
すぐに空間袋を拾い上げ、右足だけで重心を取りながら少し距離をとる。奴はこっちを見たままで何もしてこない。
「あいつ、間違いなく今までで1番やばいですねみなさん」
:忍野が防戦一方なのやばい
:ますますなんで初心者ダンジョンにこんなのあるんだよ
:意外と魔窟だったり?
:でも助け呼んだら来てたしヒーロー的な?ストレンジ側の
:ウロボロスよりは弱くね?
:いや、ウロボロスと同じぐらいだろ
:とにかく今回も忍野が勝つんだろうなー
いや、今回はまじでやばい。今のところ攻撃に関しては一貫してあの外殻を要したものしかしてこない。
ただ勘で分かる。このストレンジは余裕でウロボロスより強いし、本気でやらないと負けるかもしれない。
実際足を回復しようとして腕まで斬り飛ばされてる。一瞬たりとも気を逸らしてはいけない危険な存在であることは確か。
特級ポーションを取り出し、注意を最大限に払いながら足と腕を再生させる。
「お前、まだ攻撃してこないのか?」
「何言ってる、攻撃なんてできないだろ」
お前の能力のせいで攻撃できないんだよ、知ってて煽ってきてんのか?
「攻撃してみろよ」
「は?」
敵は指先に纏っている黒漆を全身に分散させた。
罠か?攻撃して、結局できなかった俺の無防備な状態を狙うとか?
いや、だとしても今はあまりに殺気を感じない。ここは試してみるか。どうせ避ける準備もしてるし。
とりあえず、一つ斬撃を奴に向かって放つ。
すると斬撃は当たり前のように放たれ、奴の外殻に当たって消えた。
「マジ?攻撃できる……」
「だから言ったのに」
いつだ?いつ俺はできるようになった?怪しいのはあの、足を斬られた攻撃の前に黒漆を薄くした時だがそれだけでは情報が少なすぎる。
でももう今はそれでいい。攻撃さえできれば可能性が無限に広がる。
「みなさん、今から反撃の時間です」
:お、もうクライマックスか
:ちょっとは耐えてくれよストレンジさん
:反撃一撃で終わりそう
:ていうか今まで攻撃しなかったんじゃなくてできなかったのか
:こういう強者同士の探り合いみたいなの好き
「なぁなぁ、そのコメント欄の雰囲気ってどんな感じ?」
「ん?そりゃ"忍野の勝ちが決定した"とか"ストレンジさんちょっとは耐えてくれ"とかだけど」
いや待て待て、その前になぜこのストレンジはコメント欄を知ってる?
ダメだ、いろいろ考えたいことが多過ぎる。とにかく今は目の前の敵に集中、考え事は後ですればいい。
「んー、そんな感じなのか。でもごめん俺も負ける気ないんですよ、ハハッ」
「だろうな、俺の本能がお前は本気でないと倒せないと言ってる」
まずは小手調べ、いつも通りの斬撃を強めに放ってみる。
ガギィンッ。
「うわ、弾かれた」
カメラには映っていないだろうが、俺にははっきり見えた。
百はあろう斬撃を正確に弾き返す姿を。そして弾かれた斬撃は地面をえぐりながら周囲に飛ぶ。
「んーごめん、ちょっと言い換える。そもそも俺、負ける気がしてない」
その言葉が、俺の最大限の集中を駆り立てる。何度も思うが、やはりこいつは今までで1番強く、それでいてフレンドリーだ。
今は殺気が恐ろしいほど立っているが、そうでないときは空気がとても和む。
そうか、だからあいつは助けを……何より協力をしているのか。
こいつの独特な雰囲気、仲間にいたら安心するのだろう。その雰囲気が周りを変化させる。
「めちゃくちゃ人間味があるストレンジだからあれだけど、やるしかないよな」
「お?そっちも本気?」
本気を出して勝てる保証はない。だが勝てないこともないと思う。
なら俺は最善を成すまでだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます