16話.不死身の倒し方(裏技)
sideアンノ
ポイジェが勝手に忍野勇斗の元へと戦いにいきやがった。配信を見ているからこちらからあっちの様子は伺える。
今、ちょうどドラゴンを倒したところだ。
「まぁ死にゃしないけどさー、一応相手が相手だから心配なんだよ」
俺も今回はやりすごそうと考えていた。もちろんクラッキーやデイノもそのつもりだったと思う。
「まぁ行っちゃったもんは仕方ないな」
ほら、もう対峙してる。今から止めに行っても俺が巻き込まれるだけ。
俺と忍野が戦って周囲にどれだけ影響が出るのか分からない今、迂闊に動くわけにはいかない。
「お、あの技……まぁまぁ強いんやけどなぁ」
糸に毒を染み込ませて戦うあいつ独自の戦闘フォーム。
自我持ちの中でもあれを無傷で耐えられるものはそういない。もちろん不死身の場合はそんなこと関係なく突っ込めるから例外だけど。
「やっぱり無傷かー。頼むから今のうちに逃げてや」
こっちもな、怪我バリバリに負ってるポイジェなんて見たくない。
いくら不死身だとしてもそこまで圧倒的な相手とはできるだけ戦ってほしくないのだ。
「おー、出た収束。あれは痛かったな〜」
昔、試しに一回だけ防御しないで食らった事があるのだ。防御したらそりゃ効かないから生身で受けてみたんだけど苦痛だったしなんなら死んだ。
その時学んだのは、生身で受けるのが非常に難しいこと。明らかに痛そうな攻撃だから体が勝手に防御してしまうのだ。
「んで、やっぱり無傷やん」
当たり前のように無傷で立っている忍野勇斗。流石としか言いようがない。
どうすれば人間にしてその強さを手にするに至ったのか。分からないことだらけだ。
「あ……やられた」
無惨にもポイジェは斬り刻まれて息絶えてしまった。
「それにしてもあれ、一回の払いに百の斬撃を乗せてるんか?ふーん、バケモンだな」
そしてあの斬撃、魔力で構築されてやがる。
「復活したはいいけど、勝ち目ないから逃げろよ?ポイジェさんよぉ」
え……まさかこいつ言っちゃいはしないよな?まさか言うわけないよな?
「おいッ、言ってどうするんだよ!」
ポイジェの奴、条件言いやがった。あの野郎死なないからって言いやがった。おそらく俺以外にも自我持ちがこの配信見てるというのに。
「まぁそもそもポイジェが行くこと自体がアウトか、それ言い出したら」
この初心者ダンジョンにいる中で判明しているのはデイノだけ。それ以外は完全に正体不明。それにあの条件満たせる人間はおろかストレンジがいるとは思えないのでセーフだとしてもよ。
前、デイノが俺のことを他の自我持ちにバラしたって伝えてきた。
そしてさらにここでもう一体別の不死身のストレンジの存在が判明。
まさか他のダンジョンの奴らもこの初心者ダンジョンに2体も不死身がいるとは思ってないはずだ。
「これ大丈夫なのか、ダンジョン間の関係」
最悪の場合、忍野勇斗を差し置いて俺たちが他のダンジョンに攻められかねんぞ、これ。
まあそれはそのときデイノに任せればいっか。
「んで、こっちだけど……諦め悪いな〜」
相変わらずずっとポイジェの攻略法を考えている忍野勇斗、いい加減諦めたらいいのに。
「って……うん?」
忍野がポイジェの背後に回り込み、がっちり羽交い締めにした。
なるほど、こいつ分かってんな。ポイジェが接近戦、それも復活して毒を全身に纏うまでは肉弾戦が激弱だってこと。
「なら……やばいか?」
おそらく俺はポイジェを殺せる条件を満たしていない。だがポイジェを死んでいる状態に近くすることはできる。
1つ目の方法としては、復活した瞬間に殺すという工程を何千、いや何万回と繰り返すことで生きる意思を喪失させる方法。結果的に殺すことはできないが、人間でいう廃人状態だからまず元には戻らない。戻ったとしても数百年後になる。
でも俺はこんな方法したくない、なぜならめんどくさいから。人間ならせいぜい2、30回で廃人になりそうだがストレンジはまず生物として体の構造が異なる。
もちろん廃人状態になるのは自我持ちストレンジだけ。そしてその自我持ち自体がストレンジの中でも別格に強い。
故に何万回も殺さないといけなくなる。
んなめんどくさいし疲れることしたくないわ。
「でも忍野がしようとしてるのはこの方法じゃないな」
もっと楽に死に近づける方法。
「俺もそうするかな〜」
それは、地面に埋めるという方法だ。地中くっそ奥深くにポイジェを埋めた場合どうなるか。
そもそも毒を展開できない……のかどうかはやったことないからわからないが、結局地上に出るには掘り進む必要がある。
そんな土を掘る能力なんてポイジェにはない。
つまり出られないのだ。
おそらくダンジョンの外まで殺され続けながら持ち運ばれ、埋められる。すると殺しはできなくとも長い間無力化することに成功する。
なんなら上からの圧力で死に続けるんじゃない?それなら一個目の廃人化も達成できるってことか。
そしてその埋める穴を掘る力が忍野勇斗にはあると思うし、埋めた後の管理は国にさせればいい。
「あ〜あ、だから逃げれば良かったのに」
画面には羽交い締めにされ毒を纏って抵抗しようとするポイジェと、無慈悲にもそれを阻止すべく斬り刻み続ける忍野勇斗が映っている。
「しかも良く見たらポイジェ……こいつ泣いてる?」
マジで?泣くぐらいやったら助け呼べよ。
「こっちから行くのはな」
もしかしたらこれもポイジェの演技かもしれない。今俺が助けに参上したらポイジェの計画が台無しになる可能性がある。
だから、そうだな……マジでダンジョンから出されそうになったら行くか。
『あッ……アンノ君助けて!私殺さ――』
『へいへい、行きますよ』
なんだよ、結局いるのかよ助け。
「あー、あいつと戦うの嫌やな」
この初心者ダンジョンは自我持ちであれば、自身のエリアから自由に階層を移動できる。つまり俺が行きたいと思えばすぐに助けに行ける。
「……よしッ行くか」
階層の移動はゲートを使うものではない。どちらかといえば瞬間転移に近い。
一歩足を踏み出す。すると周りの景色ががらっと変わる。
「最初から、本気モードだ」
魔力が溢れ出し、黒漆を纏う。ここまでコンマ数秒。相手もこちらに気づいたようだが、先手は取らせてもらう。
黒漆から刃を伸ばし、ポイジェを掴んでいる腕を斬り飛ばす。
――つもりだったが、忍野勇斗はギリギリでポイジェを捨てて回避した。
「ようポイジェ、派手にやられてるじゃないの」
「アンノ君……」
まだ怯えた様子で震えを抑えきれていない様子。
元はといえばお前から仕掛けたんだから泣くのはやめーや。
「ありがとっ……来てくれないかと、思った」
「お前なあ、もうちょっと早く呼べよ」
いい加減泣き止んでくれよ、あと俺にしがみつくのもやめてくれ。
「ほら、俺ちょっとあいつと戦うからさ」
「うん、気をつけて……死んじゃやだよ?」
負ける気なんてないって。
とりあえず今は……目の前のバケモノに集中するか。
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