15話.厄介な攻略条件

 sideポイジェ


 目の前には現世界で最強と謳われている探索者。あのアンノ君ですら警戒する相手。気を抜くわけにはいかない。


 ていうか、なんで私が出てるの。まあクラッキー君とデイノは不死身じゃないからもしかしたら死んじゃうってのは分かるけど。


 アンノ君が出てくれても良かったじゃん。絶対に私じゃ勝てないんだから最初からアンノ君が出たほうが良かったでしょ。


 でも、今は集中――

「毒糸、展開」


 私の主な攻撃手段は毒に基づくもの。

 尻尾から毒を仕込んだ糸を生成、周囲に展開する。


「これ、触れたらやばいよな」

「試してみたら?」


 もちろん溶けるよ?だから容易に私に近づくことはできない。それでこっちは糸を操れる。


「毒糸――竜巻ッ」

 糸の一本一本が互いに引き合い、渦を描きながら周囲にその毒を撒き散らす。そしてその毒にふれたものは例外なくジュワッと溶けて消える。


「こんなもんか?余裕だぞ!?」

 ごく稀に、初心者ダンジョンで行方不明になる事件がある。

 それは気まぐれにポイジェが下層へと赴き、この凶悪な攻撃で無に返しているからだ。 


 もちろん遺体なんて残らない。だからポイジェを見たとしてもそれを伝える間もなく死ぬ。

 

 「余裕って、ちょっと傷つくんだけどッ!」

 回転のスピードを上げるが、忍野勇斗は的確に刀で毒を弾いている。


 そもそも何、その刀。普通私の毒に触れたら溶けるのにあの刀は何度も毒を食らって溶けない。

 そういう特別な刀として考えたほうが良さそうかな。


「もういいッこれで溶けちゃえ!」

 正直、この攻撃が軽くいなされることなんて分かっていた。なぜなら昔、この攻撃をアンノ君にしてもまるで効かなかったから。

 今ちゃんと分かった、私はどう足掻いてもこの化け物には勝てない。考えたら分かる。


 なら一矢報いてやる。

 

「毒糸、収束」

 今まで展開されていた糸が、収束される。


「――乱れ咲」

 縦横斜め、360度に圧縮されていた糸が展開、そのエリアを丸ごとを溶かす。

 その糸が展開する様子はまるで、一輪の花が咲くようなものだった。その花の色が毒毒しい紫ではなかったら綺麗だっただろう。


「ッ!?あぶねぇ!」

 だが、そんな攻撃でさえこの男の服を掠る程度に防がれる。

「お前結構強いな、前の龍よりは弱いけど」


 何言ってるの、こいつ。私あの龍より弱いどころか自我持ちじゃ中堅ぐらいでしかないんですけど。

 でもそうか、あのダンジョンにいた自我持ちの龍はみんな中堅かそれよりちょっと下ぐらい。


「まあ、終わりだな」

 刹那、四肢が離れるのが感じとれた。

「うぐッ……バケ、モノ」

 四肢がもがれているので立つことすらできない。


「じゃあな、毒の女王さん」

 塵になるのが分かる。が、殺された瞬間に体が再生する。


「ッ!?おいおい、こりゃもしかして……」

「ごめんね、私不死身なの」


 不死身の特性を持った自我持ちストレンジ。その不死身要素は、死んだ瞬間に復活するというもの。

 そしてその不死身の特性はある条件を満たさない限り破られることはない。


「まじか、戦いながら条件探るとか鬼畜だろ」

「知ったとしても満たすことなんてできないと思うけどね」


 私の不死身解除の条件は人間からしたらあまりに厄介であり、なんならストレンジからしてもかなり厄介なものになる。


「とりあえず、一回死ね」

 またしても体中に斬撃が響き、弾ける。がすぐに再生する。


「だから〜、不死身だって言ったでしょ?」

「どうしようか、これ。逃走も考えるか」


 あれ?逃げちゃうの?じゃあ教えちゃおっかな〜。


「ねえねえ、知りたい?条件」

「あ?教えてくれんのか?でも教えたらお前、ヤバいんじゃないか?」


 心配とかいらないから、はい。


「で、どっちなの?知りたいの?いらないの?」

「……みんなすまん。俺はどうしてもこいつを倒したいんで聞きます」


 ん?聞く感じでいいのかな?


「ああ、教えてくれ」

「じゃあ教えてあげるね」

 知ったところで私を殺せなんてしないからね。


「条件はね〜、私と両思いになることだよ。ほら、無理でしょ?」

「……は?」


 無理なんだって君には。

 人間がストレンジに恋愛感情なんて絶対もたないし、私も人間に恋愛感情なんてもたない。それに私は……まあそれはいいや。


 そもそも敵対するやつのことなんて好きにならないでしょ。


「おいおい、思ったより鬼畜だぞみんな」

「大丈夫だって、私はあんたを諦めさせたいだけなんだから」


 もちろんそれ以外にも理由はあるよ?

 私、アンノ君に「ありがとう」って言われたこと今までの一度もないから一回ぐらい言われたいな〜ってことぐらいだけど。


「ん〜なんとかして殺したい」

「も〜無理だって。帰ってよ」


 そもそも私があんたを好きには絶対ならないんだから殺すなんて無理無理。さ、諦めて帰って。


「何か、何か方法はないのか?」


 まだ言ってる。だから不可能なんだって。いつまでもここにいたって時間の無駄なんだから早く帰ってくださいよ〜。


「あ……もしかしたらいけるかも」

「ん?なになに?私のこと好きになったの?」


「いや違う、ただ今までで一番厄介だとは思う。だがな、お前は接近戦が弱いんだよ、こんな風にすると動けなくなる」

 

 目の前から忍野勇斗が消えたと思ったら背後に回られていて、羽交い締めにされる。

「別に殺せなくとも無力化はできるっつ〜話だ」


 復活して間もない今、毒を全身に纏っていなかった。だから尻尾に触れない限り直接、接触しても害はない。


 あれ?ちょっと……え?動けない?

 

 これじゃ逃げられない。

 あ、これやばい。


 目を見た瞬間分かった。この人間は確実に私を仕留めに来てる、と。



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