14話.攻略、初心者ダンジョン

 side忍野勇斗

 

 結局、弥生さんは無事で帰ってきた。闇に引き摺り込まれたあと、弥生さんの気配が完全に消えたことからあのダンジョンにはいないことが分かった。


 だから視聴者には申し訳ないがすぐに配信をやめ、交流がある探索者に連絡して捜索してもらった。

 結局、彼女は失踪から約3時間後に同じ破獄ダンジョンから出てきた。

 傷はあれども命に別条はないかすり傷程度だった。

 

 何があったのかダンジョン局の事情聴取で忙しいためあれから一度しか顔を合わせていない。

 ちゃんと、面と向かって謝りたい。俺が守れたのに守れなかったから。

 

「ということで、皆さん。今回は初心に帰って、初心者ダンジョンに来てます」

 

:結局無事でよかった

:あれどうなったん?

:初心に帰るのは偉い

:とにかく弥生さんが無事でよかった

:不意打ちとは言え、なぜ攻撃しなかったのか気になる


「すみません、俺からも攻撃したかったんですができなかったんです」


 あの時確かに俺は攻撃しようとした。だが何かに阻まれるようにそれが許されなかった。


「まぁそんなこともあったので今回は初心者ダンジョンをね、クリアしたいと思います」


:そんなことって……

:初心者ダンジョンか、楽勝じゃね?

:でも確かいるだろ

:簡単すぎて10分ぐらいで終わりそう

:今回は見るのパスかな


「でも知ってますか?このダンジョン出るらしいですよ、自我持ちが」


 局の人から聞いた話だが、どうも50年ほど前にダンジョンボスと思われる自我持ちを確認したらしい。


 その恐ろしい見た目と、狂ったように強いことから"狂竜"の二つ名を付けられた自我持ち。


 今の所戦った中で1番強いのは破獄のボスだけど、もしかしたらそれよりも強いかもしれない。

 気を引き締め直すには十分な敵だ。


「とりあえず最下層に居座ってるドラゴン倒してからその自我持ち探したいと思います」


:まじか!自我持ちいるのか!

:なら見る

:流石にウロボロスほどやばそうではない?のかな

:言うてウロボロスもあんまりだったしな

:ていうか、初心者ダンジョンってCランクだよな。ならなんでそんなところに自我持ちいるんだよ、普通ランク上げるだろ


「いや、どうにも一回見つかったっきり発見されてないみたいで、だから今回は探すんですよ」


 最深部とされているところには一体のドラゴン。普通自我持ちであってもなかってもダンジョンボスは一度死んだらもう復活はしない。


 自我持ちは例外なく一度死んだら復活しないが。


 だがそのドラゴンは倒しても復活する。つまりそいつはダンジョンボスではないということだ。


 それに、弱いダンジョンはボスを倒されてさらに弱体化し、最終的には周りの強いダンジョンに食われるらしい。


 そして初心者ダンジョンは何百年も前から存在すると調べがついている。

 つまり何かいる。その"狂竜"は確実に存在する。

 

 なら見つけてやろうじゃないの。


「最悪の場合逃げますね」


:お前が逃げたら誰も倒せん

:倒してくれ

:流石に倒せるでしょw

:現最強探索者がなんか言ってる

:でも歯応えがあるストレンジがいいな


「とにかく初心者ダンジョンは長いんで、途中は暇だと思います」



「はい、では最下層とされている所まで来ました」


:早えな

:何分かかった?

:数えとらんけど多分最高記録

:まずはドラゴンだな

:最強は格が違う


「じゃあもう倒しましょうか。ドラゴン」


 今まで本物の龍と戦ったんだよ、今更ただのドラゴンで手こずるかよ。


「あ、出てきた」

 

 ファンタジーな生物といえば?

 やはりドラゴンだろう。


「やっぱし覇気がないな」


 多分こいつのブレス、食らっても無傷で耐えられるんじゃない?ってぐらい弱く見える。


「あの自我持ちの龍たち強かったんだなぁ」


 普通のドラゴンを見た後じゃ評価が結構変わった。このドラゴンと炎獄龍戦わせたらおそらく一撃目のブレスでこのドラゴンが消し飛ぶ。


「んじゃ、サクッと倒しますか」


 スタッとドラゴンの前まで移動し、シュパパパパッと斬り刻む。


 はい、ドラゴン退治完了。


 ドラゴンは細かく斬り刻まれて死んだ。


:いや流石に速すぎ

:ドラゴンだぞ?

:そもそも普通1人で倒す敵ではない

:弱いって勘違いしそうなほどにサクッと倒すやんw

:なんか俺でも倒せそうな気してきた

:弱くね?


「それじゃあ、例の自我持ち探索と行きますか」


 って、いきなり変なやつが来た。紫色の髪、見た目は少女だが禍々しい尾を持っている。


「おいおい、いきなりかよ」


 探すまでもなくそっちから来てくれるのは嬉しいが……あれ多分違うよな。


「みなさん、あれはおそらく別です」


 俺が聞いたのは"狂竜"の二つ名を持つデイノと言う名のストレンジだ。


 だがどうだ?目の前には"狂竜"のかけらもないストレンジ。


 しかも鑑定ではしっかり個体名"ポイジェ"って出てやがる。


「まさかこのパターンは予想してなかった」


 Sランクならともかく、Cランクダンジョン。それに加えて自我持ち一体しか見つかっていないという情報。


 まさか他の自我持ちがこの初心者ダンジョンにいるなんて思いもしなかった。


「みなさん、喜んでください。おそらく新発見の自我持ちストレンジです」


:は?新発見?

:まじ?それやばくね?

:事前情報なしはまずい

:なんで初心者ダンジョンに2体もそんなのがいるんだよ、局の判断ミスってるだろ

:避難優先する?

:でもなんか顔可愛くね?w



「いや、こんな機会初めてなんで戦います」


 見た目は本当に人間。尻尾を除けば。


「ねぇねぇ、君さ。私より強いでしょ」


 まぁ話しかけて来るよな。今までの自我持ちもそうだった。


「さぁ、やってみんと分からんが負ける気はない」

「そう、じゃあ……」


 そいつの言葉はそこで区切られた。


「じゃあ?なんだ?」

「本気で行くね?」


 この特有の感じ、やはりこの自我持ちストレンジも強い。

 

「ん?なんだあれ」


 紫色でブクブクしている液体を体に纏ったそのストレンジは、今にもこちらに飛びかかってきそうだ。


「なるほど、毒属性か。食らったらめちゃくちゃ痛そうだな」


 多分あの毒は即死レベルの毒だ。

 これは、初心者ダンジョンも来てみるもんだな。







 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る