13話.弥生とかいう人間に聞いてみた

 えっと、聞きたいことは4つ。それに……おい、やりやがったな。


 デイノのやつ、俺の存在を他のダンジョンボス共にバラしやがった。


 まあ別に知られて悪いことなんてないんだけどね、言って良いことと悪いことの判別はデイノしっかりできてるから信用信用。


 とにかく今は目の前の問題だ。


 口の拘束だけを解く。


「っぷはぁ、はぁっはぁっ……」

 おーごめんごめん。息苦しかったわな。


「誰、だ。私を襲った、のは」


 おいおい、そんな無理して喋んなって。どうせこっちはそっちの質問に答える気はないんだから。


『おい、聞こえるか』

「っ⁉︎誰?」


 そのまんまの声で話すのは身分漏洩の危険性があるので思念を送って伝える。


『俺はお前を攫ったストレンジや』

「何が目的?殺すなら早く殺して」


 おーおー、元気なこった。心配しなくとも殺しはしないって。


『俺はいくつか、質問したいだけ。それさえ答えてくれれば解放してやる』

「質問?なによ」


 こいつ、強気だなぁ。


『まず一つ目、あの忍野勇斗はどう育ったらあんなにも強くなるん?』

「さぁ、知らない」

『そうか……』


「でも、昔の勇斗なら知ってる」

『……話せ』


 昔のあいつ?こいつらあれか?幼馴染的な?


「私と勇斗は出先で出会った友達。小さい頃何度か遊んだ仲」

『へぇ、そうなんか』


「でも多分今の勇斗は私のことなんか覚えていない」


 ふーん、そうなんだ。


『そりゃ悲しいね、で?』

「でも、私はその、昔から勇斗のことがその……」


 あーはいはい。分かりました。


『それでどうしたんよ』

「久しぶりにダンジョンで会って、それで……あっ、会ったって言うかこっちが一方的に見つけたって言うか」


「すごく変わってたからちょっと調べたの」

『ほう、調べた結果は?』


 こいつ、もしかしてストーカーとかその部類の可能性あるか?


「勇斗は両親を亡くしてた、それしか分からなかった」

『両親を、か』


 両親が探索者だった。両親がストレンジに殺された。みたいな理由で探索者になったのかな。


『なるほど。じゃあ次の質問、忍野勇斗のあの馬鹿げた能力の高さはなんなん?なんのスキルを使ってるか知ってるん?』

「あれはただの身体能力、ただ刀を使う時は魔力を刀身に纏って斬撃を放ったりしてるだけだと思う」

『あーならわかりやすい』


 魔力をまんまで利用する感覚は理解できる。それはそれとして、こいつこんなに情報吐いていいのか?


『お前めっちゃ話すじゃん。秘匿とかしないのか?』

「え……確かに。でも何故か話しちゃう」


 いや、話すなや。


『次、あいつはどこのダンジョンで訓練してたん?知ってるやろ』

 

 さっきこいつは「一方的に会った」と言っていた。なら知っているだろう。


「えっと……それは言えない」

『お?なんで言えないの?』


 うっわ。さっき変なこと言わなきゃ良かった。


『そのダンジョンになんーかあるのか?』

「……はっきり言うけど、あのダンジョンには勇斗が強くなった理由があると思う」


『そこが大事なんよ、言えや』

「いや、言うわけにはいかない」


 今のところ手に入った情報って両親が死んでるってことと素の身体能力がすごいってことだけだぞ?


『んー、そこが知りたいんだけど。絶対に言えない?』

「絶対に無理」


 えー。そりゃないって。ちょっとそこのダンジョン行って、もしかしたら荒らすだけなのに。


『じゃあ最後の質問、女性関係はどうなん忍野勇斗の』

「じょ、女性関係!?そんなのありまくりですよ正直」


 ありまく……やっぱハーレムかよ。


「でもお付き合いしてる人はいない、と思う。勇斗を狙ってる人はいるけど」

『そういう感じね、そんでお前もその1人と』


 おそらく忍野本人にその気はないんだろう。ただ強くて守ってくれるからモテてるって感じ?


「いや私はその、ちょっと諦めぎみというか」

『ん?諦めたんかよ』


「だってその、私だけ苗字でさん付けだし。それにさっきも助けてくれなかったし」

『ああすまん。苗字でさん付けなのは知らんが助けようとはしてたぞ。でもできなかったのは俺のせい』


 ちょーっと能力の効果上こっちに攻撃できなくなるからね。


『見捨てられるほど嫌われてもないと思うけどな、俺はお前を殺して報復されるのが怖い』


 もしこいつを殺して、奴の怒りを買ってみろ。死にはしないだろうが、多分めっちゃ暴れ回られるからごめんだ。


『お前が諦めるとか諦めないとかどうでもいいんだよ、ただ忍野勇斗はそいつらのことを大事に思ってるってことでいいか?』

「うん、それでいい」


 なるほど、やはり忍野勇斗は仲間が傷つけられたりするのが許せないって人間か。おそらく他の奴らはどうでもいいって思ってるな。


 でも多分普通の人間ってそうなんじゃない?ストレンジの俺が異常なだけで。


 俺だって、身内同然の仲間は極力守ってやりたいって思ってる。


 普通ダンジョンの自我持ち同士って助け合ったりしない。

 破獄ダンジョンがいい例だろ。あいつら仲間死んでも助けに行こうとせず一体一体やられていった。


 他のダンジョンもそれが普通。でもこの初心者ダンジョンだけは違う。俺がいるせいで「仲間は守り合うもんだ」って意識が芽生えてる。


 そういう奴が仲間を殺されでもしたらどうなるか。鏖殺の始まりだ。


 でもあの強さの秘密がどっかのダンジョンにあるっていう情報さえあれば大丈夫かな。


『よし終わり、帰っていいぞ』

「え?終わりって?」


 もう聞くこともないので、もう一度ゲートを開いてポーンと投げてやる。


 ゲートを潜ったと同時に拘束を解除。これならあっちからこちらを見ることはできない。


 そんでそのままゲートを閉じる。ワンチャン忍野勇斗が出待ちしてる可能性あるからすぐに閉める。


「はい、終わり。楽な仕事やな」


 あの人間もSランク探索者らしいし、ボスもいない破獄ダンジョンなんて数時間もあれば入り口まで帰れるだろ。


「諦めてる、か」


 あいつ人間からしたら顔かなり良い方だろ。それで諦めるとか、他の人間に失礼なんじゃね?

 まぁ俺には関係ないけど。








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