11話.ダンジョン間の移動

 sideアンノ


 はっきり言う、ダンジョン同士での移動は可能だ。ただし条件がある。


 相手のダンジョンボスがその移動を承認しないとできないのだ。

 相手のダンジョンボスが承認した場合、黒いモヤがかかったワープゲートが開き、相手のダンジョンと繋がる。


 そして、ダンジョンボスもしくは招待された側が「閉じたい」と思えばそのゲートは閉じる。


 しかしその承認する側のダンジョンボスが死んでしまったらどうなるのか。それは入り放題になるのである。


 いつでも侵入が可能になる。


 この、地上の人類が知らないであろうダンジョンの仕組みを利用してある計画を実行しようとしている。


 そのために今、忍野勇斗なる人間の配信を視聴している。


 ちょうど今ダンジョンボスと対峙しているところだ。

「破獄のボス、初めて見たけど貫禄がえぐいな」

 

 うちのボスとは違っていかにもラスボスです、世界滅ぼしたいです!って感じの印象だ。


「って、こっちもなかなかの化け物だな」


 忍野が大規模攻撃を受けて無傷で立っているのが見える。


「あれ、衝撃を散らしたんか?なんにせよ上手いこと後ろの連中も守ったな」


 そもそもあの攻撃を受けて立っていることすらもう人間とは思えない。

 しかもノーダメージ。多少の疲れはあれどもすぐに回復するだろう。


「うっわ、何言ってるかなにも理解できやん」


 前々の配信を見ていないのでどんな攻防があったのかとか全く知らないのだ。


「これ破獄の自我持ちの技だったのか」


 つまり部下の技を使ったってことか。コメント欄がそんな雰囲気を出しているから分かったがそれなかったら「へぇー、初見で防ぐんだ」ってなってた。

 

「じゃあ復習って感じ?それで応用、発展みたいな感じで来るのかな」


 次の攻撃では地面が割れ、腕からブレスを吐いた。


 これもやはり今まで戦ったやつらの技らしい。

「でも一回やってたら楽勝やろ、秒で終わるんじゃない?」


 これも予想通り、残りの1つは技を見ることすらなく斬り伏せられた。


 復習だとしてもこの人間、馬鹿みたいに強いな。明らかに人間として壁を超えてしまってる気がする。


「ここから応用か、どんくらい強くなるんだろ」


 俺が慎重に見守る中、画面内とコメント欄ではお疲れムードが流れる。


「ん?こいつ何してんの?終わってないやろ」


 現に今もこちらから破獄ダンジョンにお邪魔することはできない。


「雑魚雑魚って、まだ終わってないよ?君たち」

 あ、ほら。腕持っていかれた。


「なんか油断しすぎじゃね?まだ経験ないから仕方ないんだと思うけどさ」   


 ボスが死んだと思ったら実は生きてたってのはあるあるじゃない?ストレンジである俺が言うのもなんだけどさ。


「でもやっぱポーション持ってるよな」

 ストレンジは回復の能力を持っていない限り腕なんか再生することはできない。

 

 ポーションなんか意味をなさないのだ。そういう体質なのだ、ストレンジは。

 だから一撃やられたらちょっとまずい。それがストレンジ界の常識。


「んで、ウロボロスやけどこれ強いねぇ」


 何が起こってるのかはサッパリ分からん。でもさっきまで攻撃しまくってた忍野勇斗が躱すことに徹していることは分かる。


「全く見えん。速く動きすぎやろ」


 これはFPSの問題だ。普通に何にも映ってない。


「攻撃、してるのか?」


 なんか一瞬映ったけど何してたかは分からん。



「なっが、いつまでするんこれ」

 ずうううっと画面には半透明のウロボロスのみ。

 見てるこっちはおもしろくないなあ。


「あ。見えた」

 しかも見えたと思ったらウロボロス大怪我してるじゃん。


「これ勝負ついたかー?」

 二人して構えて、なんこれ。創作の世界観?


「んじゃ、そろそろ準備するか」

 いつも俺が着ているこのフードが付いた服。これは正確には服ではない。

 俺の魔力が変化し、攻防一体のスタイルへと進化した姿だ。このスタイルを俺は”黒漆”と呼んでいる。


 防御面では黒漆が高い衝撃耐性、硬化を誇り攻撃面では伸縮自在の触手が俺の手足の如く殺戮を行う。攻撃の際、防御で使う硬化を応用してあらゆる敵を粉砕、切断することもできる。

 とにかくなんでも応用が効くのがこの黒漆。


「卵!?なんかヤバそうだけど、この際だし利用させてもらお」


 一応、忍野が突っ込んできた時のために黒漆を纏って構える。


 一瞬を逃すわけにはいかない。


 忍野が卵を抱える瞬間、今だ。ゲートを開き、破獄ダンジョンと繋げる。

 あっちでゲートが発現するのはあの女の足元だ。


 少し離れ、黒漆を伸ばして足を掴む。そして、引き摺り込む。


「よし!おっけ!閉じろ!早く!」

 ゲートが閉じられ、こちらのダンジョンと破獄ダンジョンが分断される。


「自分で言うのもあれだけど上手すぎたな今の」

 完璧な結果だ。


 目の前には俺の黒漆でぐるぐる巻きになってもはや芋虫のような姿になっている女。

 口と目を塞いでいるので何かもがいているが何を言っているのか分からない。


 できるだけここが初心者ダンジョンだとバレないようにしたい。

 そうするためにはこうするしかないのだ。

 

 忍野なる人間と親しい人間を捕獲し、情報を盗む。それが俺の計画だ。


 おそらく忍野勇斗は今までで1番、ヤバい。初見で自我持ちを倒し、ダンジョンボスまでも倒す。

 

 こいつは注意が必要だ。決して激情に駆られず、慎重に対応する必要がある。


 ともかく弥生菜奈という名のSランク探索者、そして忍野勇斗と親しい人物の捕獲に成功したとデイノに思念を送っておこう。

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