3話.自我持ち

 ダンジョンにはストレンジと呼ばれる怪物がいる。下の階に潜れば潜るほどストレンジは強くなってゆく。


 そして、俺たちのような自我を持ち、人語を介する最上位の強さに位置するストレンジは最下層に配置されているのが普通。


 たまに目立ちたがりな自我持ちが上まで上がっていって人間を蹂躙、なんてのもある。


 だが、人類側としては自我を持ったストレンジなど存在していないと考えていたので討伐に何人もの死者を出した。


 その出来事があって、自我持ちという強大な力を持ったストレンジの存在が明るみになった。


 人類はそれらのストレンジには、個体名なるものがあると発見した。

 

 これは単純な鑑定スキルだな。

 普通は「ゴブリン」とか「オーク」とか出るところにその個体名が出てたって感じだ。


 例えば、俺んとこのボスは”デイノ”という個体名がある。


 「ていうか俺だけ名前バレしてるのみんなずるくない?」

 「いやずるくないですね」


 今即答した骨男はクラッキーって名前がある。


 「あれは罰ゲームでデイノが負けたのが悪いんやん」

 「そうそう、私たちは勝ったんだから、ねえ」


 この猛毒少女型怪物はポイジェ。そのまんまポイズンから取ってきたような名前だけど偶然らしい。


 髪型は人類で言うショートボブ、外見年齢は……大体16歳ぐらい?

 あと多分人類の基準なら結構可愛い顔してやがる。


 がしかし、俺達ストレンジは顔なんてほぼ見ていないし、なんなら恋愛とかそういう色ものにめちゃくちゃ疎い。


 それにこいつまじで危険すぎる。

 常時尻尾に即死レベルの猛毒纏ってるくせに本気になったら全身に纏って特攻してくるからな。


 こいつが俺たちの仲間?というか友達になったのはこいつがダンジョン荒らしてたからだ。


 理由もなく猛毒ばら撒きやがって……まじで悪夢だった。


 そのころにはすでにポイジェにも自我があったらしく、承認欲求のために暴れまくってたらしい。


 ったく、俺たちが止めてなきゃダンジョン中が毒で溢れかえってたぞおい。


 クラッキーは……うん。骨みたいな怪物。


 めちゃくちゃやせた少年って感じ。


 そんで俺、基本顔隠してるけどこの中じゃ一番外見が人間に近い。っていうかもうほぼ人間。


 多分見分けつかないんじゃないかな〜。あっ、でもチ◯コはついてないから服脱がされたらバレる。


 自我あって、知能あっても俺たちみたく人語を介するレベルになってようやく全裸の恥ずかしさを学ぶからな。


 いやあマジで、すっぽんぽんで歩いてたって考えたら恥ずかしい恥ずかしい。


「そろそろお前らも見つかったらどうなんだ?」

「私はどっちでもいいけど〜」

「僕は嫌ですよ、死ぬかもしれないんで」

 

 そうだよな。


 クラッキーは強い、強いけど不死身ではない。

 死ぬときは死ぬ。


 クラッキーは極度の怖がりだからな。夜もペットのドラゴンと一緒に寝てるらしい。もちろんそのドラゴンは自我なんて持ってないから力でねじ伏せてるんだけど。


 名前も付けてたしな。


 たしか名前は……忘れた。てかそもそも会ったことないわ。また今度見に行こーっと。


「え〜でも暇じゃん。ずっとここにいるの」

「それはポイジェさんが死なないからでしょ!僕やデイノさんと違って!」


 そう、ポイジェは不死身なのだ。


 といってもある条件を満たせば殺すことはできるが、その条件があまりにもクソゲー過ぎるので一生不死身だと思う。


「そこで黙って聞いてるアンノさんも!ポイジェさんと同類ですからね!」

「っ失礼やなこの野郎、俺そこまでイカれてないわ」


 流石にあいつと同類扱いされるのは癪に障る。俺そこまで精神イカれてないぞ。


「失礼なのはアンノ君じゃない!私イカれてないよ!」

「「いやイかれてるだろ」」


 やはり……俺だけじゃなくデイノもイカれた奴扱いしてたな。


「でも僕もそこまでイかれてるとは思わないっすよ?不死身なのはイカれてるすけど」

「っ!?お前まさか……好きなん?ポイジェのこと」


 「は?いやそうじゃないす」

 「だろうねェ〜、そういえば知らんのか、ポイジェよりあとやったもんなクラッキー君」

 

 俺たち4人が意思持ちストレンジになった順番は、多分俺≧恐竜>毒>骨の順番だと思う。


 俺とデイノは出会ったときから自我持ちだったから確信はないけど。なんか負けるの嫌だからいつも俺のほうが早いって信じてる。


 でも言うて誤差みたいなもんだけどね。それぞれの間に1、2年ぐらいしか空いてないし。


 でも何年たってもこのダンジョンには俺たち4人しか人語を介するストレンジはいない。


 もう4人になって100年あまり経つのに、だ。


 他の強いダンジョンも5人、とか4人だった気がするから丁度いいのかもしれないが。


「じゃあまた強そうなの来たら言ってよ、私行くから」

「ん〜でもここ初心者ダンジョンやぞ?そんな強いやつ来ないんじゃないか?」


 確かにここは初心者ダンジョンだ。

 出現するモンスターがあまりにも弱いためそう呼ばれている。


「でもデイノが見つかったせいでいろいろ調査されてるやん、もしかしたら来るかも知らんな」

「いや来こないでくださいよー、頼むから来ても僕より弱い奴であってください!」


「ん〜でもどうやろ、俺も実際何人も殺したわけじゃないし」

「そういえば”奈落”の四皇が言ってたな、人間側にもバケモンがいるって」


 だろうなぁ、そりゃ何人かは人外の域に達しててもおかしくはないもん。


「てか、それがSランク探索者じゃね?」

「ああ、おそらくそうだろう。ネットを介してこの日本に20人のSランクが存在することが分かっている」

「に、20人!?多すぎますよぉ」


「20人もいたのか……てかそんな情報は知ってんのかい」

「こいつ探索者の、特に配信者最近見てるからね」


 なんでポイジェが知ってんだよ。


「へえ、配信者か。俺見たことないけど、面白い?」

「結構面白いぞ!今の俺のおすすめはなぁ!――」


 ヒートアップしたデイノの配信者語りは約5時間続き、終わる頃にはみんな「へえ、そうなんだ。また今度見るよ」的なスタンスだった。




 


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