4話.人気配信者
side人気配信者
「はあ、はあ……っぐ。痛った〜」
お腹を抑えてうずくまる少女、その腹部からは大量の血が出ている。岩陰に隠れているがそれも時間の問題だろう。
「み、みんなぁ。ちょっと助け呼んでくれる?」
:おいおい、やばすぎだって
:逃げろ!
:死んだかこれ
:俺見るのやめる、見てられない
:今クラン明星が救護に向かってる!
:みんな語彙力なくなってて草
:頼むリナちゃん死なないでくれ!
「クラン明星?よかった。あとは待つだけだね!」
元気よく、皆を安心させるように言うが実際はどうなのか。
そもそもおかしかったのだ。本来中層のいるはずのストレンジの一部が上層で見つかるなど、異変としか言いようがなかった。
だがリナと呼ばれるこの少女、ダンジョン内で配信を行う配信者でありその中でも登録者数130万人を誇る有名配信者だ。
彼女が有名なのはその外見の良さが一因ではない。
女性探索者の中でも群を抜いて成長が速いのだ。探索者になって1年の17歳、普通5年かけて昇格するCランク探索者試験を突破、期待の新人と世間でもてはやされていた。
そんな彼女は少し自分の実力を見誤った結果がこれだ。
いや、調子に乗った結果がこれだ。
彼女自身、中層のストレンジはおおかたソロでの討伐が可能だ。倒せないなら逃げればいい。
そんな甘い考えで異常が起こっている”破獄”と呼ばれるダンジョンに潜った。
破獄ダンジョンは日本に3つしかない危険度S相当のダンジョンであり、Cランクになってようやくソロで入ることが可能になる。
”奈落”、”闇夜”と並ぶ危険度Sダンジョン。すでにSランク探索者たちによって最深部まで到達し、強大な自我を持ったストレンジと戦った。
現に攻略されていないからこそ危険度Sとして名を馳せている。
「なんでこんなとこに自我持ちがいるかなー、ハハハ」
乾いた笑いしか出ない。
かつてこのダンジョンでSランク探索者が敗れ存在、自分が叶うわけがない。
:あいつなんだっけ名前
:炎獄龍ヘルバーストだな
:このダンジョン、ドラゴンが自我持ちなのきついよな
:まじで逃げてくれ
:今生きているのが奇跡
:だな、普通出会い頭で死んでた
異様な気配を感じた瞬間、防護結界を発動したが一瞬で破壊。
それと同時に身代わりの札も破損。つまり一回死んだことになる。
「身代わりの札持ってなかったらやばかったな〜、お母さんに感謝しないと」
:即死だもんな
:即死すぎる
:やばかった
:まじで感謝
:でも死んだほうが楽だったかもな
:変なこと言うな
「ハハハ、確かに一瞬で死んだら痛みもないし楽かもね」
めちゃくちゃお腹の傷痛いし頭もボーッとしてきた。
「で、あとどれくらいかかるんですか?」
:どれくらいだろ
:2時間はかかるだろうな
:いつもより強いストレンジが上層におるから2倍はかかりそう
:4時間生きてくれ!
:俺たちがついてる!
「4時間、ですか……」
無理かな、4時間は。配信切ろうかなどうせ死ぬし。
4時間とかこの場所で生きれるわけないよ、大怪我してるし何よりあのストレンジが私を探してる。
見つかるのも時間の問題だ。もう、無理だろう。
「あ〜すいません。私そろそろ配信切りますね、充電少ないんで」
:ん?うそだろ?
:あ
:え
:やばい
:おい
:やめてくれ
:リナちゃん生きてくれ
「ハハハ、本当に充電が少ないんですよ……」
本当の意味に気づいたであろうコメントでコメント欄が埋もれる。
なんだろう、こんなときに安全圏から「生きろ」って言われても「じゃあ貴方が変わってくれませんか?安全なところから言われても」って思うのはどうなのかな。
もちろん配信しながらダンジョン入ってる以上死は覚悟してたけど。いざ死ぬとなったら思ったよりずっと怖いし、それ以外に選択肢がないって分かってるのに。
「じゃあ、切りま……え」
グルルルルル、と聞こえた。
いや、ここはまだバレてないはず……うそ。
上を見ると、そこには大きな眼があった。こちらを睨んでいる。
「貴様、我から逃げきったとでも錯覚していたのか?クックック」
「あ、ああ」
逃げよう、全速力で。
立ち上がって逃げようとするが何故か立てない。
あのドラゴンに何かされたのだろうか。いや、ただ腰が抜けているだけだ。
今すぐ配信を切らないと……ってカメラどこ?
カメラは手の届かない位置で龍を映している。
「みん、な……ごめん」
どんなコメントが流れているのか見えない。いや、見えたとしても見たくない。
目を瞑って死を覚悟する。
「ん?なんだ貴様、我に、グハアアッ!?」
「なんだこいつ、明らかに強いじゃん」
しかし死は訪れなかった。
誰か……来た?救護の人かな。ともかく生きてる。
ただ絶望的な状況に変わりはない。
それに目の前の男はヘルバースト相手に睨みを利かせている。
「え、あの……早く逃げま、しょ?」
「いや、このドラゴン倒してから帰るんですけど」
「ん?」
ちょっと何言ってるのかわからない。
目の前にいるのは自我持ちのストレンジ、そんな化け物を倒す?
「無理無理無理!逃げますよ!」
その男の腕をガッチリ掴んで引っ張る。が、ビクとも動かない。
「邪魔しないでください!それに巻き込んじゃいますから!」
「いや、でも!」
この男はおかしいのか?
「ククク、貴様、強いな。面白い。名を名乗れ!」
「俺か?俺は忍野勇斗だよ」
「おしの、ゆうとか。覚えておこう」
そう言って満足げに頷くヘルバースト。何がそこまで嬉しいのか考えるほど頭が回らない。
「っそうだ、みんなは知ってる?あの人」
もしかしたら自分が知らないだけでかなり名のある探索者なのかもしれない。
:知らん
:強そうだけど知らん
:でもヘルバーストぶっ飛ばしてた
:男がリナちゃんに近づくな
:賭けるしかない
コメント欄のみんなは知らないようだ。じゃあこの人はいったい。
「ドラゴンに名前覚えられるとか、光栄だね」
「ふん、では……死ね」
ヘルバーストが大きな口を開いた。
あれはドラゴン特有の攻撃モーション。
「っ!?ブレスが来ます!避けてください!」
必死に叫ぶ。
「ん?ああそうだな。当たったらやばいかもな」
男は特に慌てる様子もなく、そしていつの間にかその手に刀を握っていた。
ヘルバーストからブレスが放たれる。それも普通のブレスではない。自我持ちで強大な力をもち、竜種から龍へと進化を遂げたヘルバーストのブレスは、すべてを灼け溶かす。
人が触れれば蒸発し、例え白金でも一瞬にして溶けて液体となる。
―――もう駄目だ。今度こそ死ぬ。
そう思った。刹那、男の手がブレて、持った刀がギラリと銀色に煌めいた。
そして、一区画を丸々灼け溶かすブレスを斬り飛ばした。
何が起こったのかわからない。
ヘルバーストが笑っているのが見える。なぜ笑っているのかは分からない。
ただ、男の行った現実とは思えない所業にコメント欄はザワつき、さらに加速していった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
申し訳ないのですが、主人公ことアンノくんがバズるのはもう少し先です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます