52話 廃墟にて

「はぁ、やっと着いたな」


 家から走って十分足らずで俺たちは目的の場所に到着することが出来た。


「タクミが道間違えなきゃまだ早く着けたかもねー」

「ま、まあいいじゃねえか。ほら、急がば回れっていうだろ」

「えーそれ使い方あってるの?」


 息を整えるエマはジト目で俺に文句を言う。

レーダーのマップはざっくりとしか道を表しておらず、急ぐ気持ちも相まって、俺たちは五回ほど来た道を引き返す羽目になった。


「とにかく、行くぞエマ」


 エマの恨めしそうな視線を背中で感じながら、俺は止めていた足を再び動かした。

 

 今俺たちがいるのは、怪しげな雰囲気を纏った工場の廃墟。

取り壊される様子もなく、俺が子供の頃からずっと錆びれた無人の地として存在するこの場所に、レーダーの光は魔力を保有するものがいると示している。


「うん、今度は私が前歩くよ」


 エマはレーダーを見ながらゆっくりと廃墟へと入っていった。方向音痴認定されてしまった俺はその後ろをおとなしく付いていく。

 

 足場がギイギイと音を立て、くぼみに溜まった水は緑色をしている。鉄はほとんどが錆びを纏っていて、元々どんな色であったかもわからないほどに朽ち果てている。この辺の景色だけ見ているとアルガルドにいるみたいだ。

 そんな、長い間誰も入った痕跡のない廃墟を、エマは躊躇なくぐんぐんと進んでいく。俺は付いていくのがやっとな状況だ。

 

 

 やがて、進むスピードが落ち着いてきたエマは、レーダーを凝視し周りをキョロキョロと見渡し始めた。

後ろでレーダーを盗み見ると、かなり離れていた三つの光はもう引っ付きそうなくらい近付いている。

もうすぐ、この光の主に会える……ってあれ、なんかおかしいぞ。


「おい、エマ。よく見たらこの光点滅してねえか?」


 ただでさえ頼りない光だというのに点滅までしているとは……。


「うん、たぶんだけど付いたり消えたりしてるのは魔力が感知しにくいからだと思う」


 切れかけの豆電球のような光だと思っていたが――そんなに弱い魔力ってことなのだろうか。


「じゃあ早くしないとな。魔力消えたら探せなくなるぞ」

「落ち着いてタクミ。もう一回、光の位置を見てよ」


 そう言われ、もう一度レーダーを見ると、先ほど同様に三つの光は重なり合う距離にまで近づいている。


「ってことはもう近くにいるってことか? なんも見えねえけど」


 工場の階数は一階しかない為、高さ的にもここで正解なはずだ。屋根も穴が開いていているしな。


「はあ、これはもう出てきてもらうしかないね。なんで隠れてるか知らないけどさあ、いい加減出てきなよアリア」



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