53話 魔法陣の不備
エマは遂に、その名を口にした。
俺だって、アリアかもしれないと思ったさ。だからレーダーに映った薄暗い光を必死に追いかけて来たわけだしな。
ただ、推測の域を出ないままの状態で口に出すのが怖かったんだ。もし違ったら、アリアじゃなかったら、俺の心がとても持ちそうになかった。
まあ、この状況ならもう疑う余地もないがな。
エマが言い放ってからしばらくすると、俺たちの目の前の何もなかった空間にそいつは姿を現した。
緑色の長い髪ににわかに吊り上がった目、中性的な顔立ちに全身を黒で包んだ服装――いつもより元気がなさそうには見えるが、間違いなくアリア・エルフォードだ。
姿が見えず、魔力を感知しにくかったのは、恐らく右手に持っている白いフワフワしたタオル? のようなもののせいだろう。王国の秘宝にそんなのがあった気がする。
「『トリネの羽衣』だね、それ。使用者が外から受けるあらゆる事象を遮断できるとかだったっけ? 」
「……ああ」
「でも、残念ながら魔力は完全に遮断できなかったみたいだね。こっちからしたらありがたいけど」
「……ああ」
思った通り、アリアは覇気がなく上の空で、エマに言葉を返すのがやっとという感じだ。
手紙の通りなら、アリアはアルガルドへと帰還したのち、任務失敗により処刑されると示されていたが――どうやら大丈夫だったらしい。本当によかった。
「で、アリア。どうやってミラクレアに戻ってきたの?」
「…………」
エマの質問にアリアは困ったような顔を浮かべるばかりで、一向に口を開こうとしない。
「アリア、手紙ちゃんと読んだよ私。一人で色々抱えたらダメだよ? ほら、何があったか話してみて」
「そうだぞアリア。気負いすぎだぞお前。もっとみんなを頼れよ」
「二人共……その、笑わないか? 」
「笑うってなんだよ。なんなら泣きそうだぞ、お前が生きててくれて」
今更になってアリアが生きていた喜びが込み上げてくる。さっき落ち込んでただけに感動がヤバい、マジで泣きそう。
「タクミ……その、実はな、帰っていないんだ。魔法陣に不備があって――気が付いたらここにいたんだがその、合わせる顔がなかったというか」
「……ア、アリア冗談きついよー。ひどい目にあったんだよね、わかるよ私。さあ言ってごらん、さあ、さあ! 」
エマは無理に口角を上げ、顔を引きつらせている。俺はというと、アリアの口から冗談が飛び出すなんて思いもよらず、面食らっている最中だ。
ふざけるということを知らないアリアがここに来て一皮剥けるとは思わなかったぜ、空気を読まないのは相変わらずだが成長したなアリア。
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