49話 冷静になって

「アリア? え、嘘でしょ……そ、そんな……」


 手紙を読み進めるセインはひどく動揺し、無意識に声を漏らす。しかし、その間も読むのを止めることなかった。

途中で手紙を取り上げることも出来たが、既に手遅れなところまで読まれてしまったのはセインの表情を見れば明らかだった。


「エ、エマ……」


 読み終えたセインはエマに助けを乞うかのような視線を送る。信じられない事態に戸惑っているのだろう。この手紙は嘘だと、冗談だと言って欲しそうな顔をしている。


「嘘じゃない。それを書いたのはアリアで、アリアはわざわざ嘘の手紙なんて私に送り付けては来ない――残念だけど、そこに書いてあるのは全部本当のことだよ」


 そんなセインの思いに反して、エマは冷淡な口調でそう言ってのけた。変にはぐらかすより本当のことをまっすぐ伝えた方がいいと判断したのだろう。


「あ、ああ、あ……」

「おい、大丈……しっかりしろセイン! 」


 その場に崩れ落ちるセインを俺はただ支えてやることしかできなかった。大丈夫なわけねーだろバカか俺は……。

 チャイムも鳴って授業はとっくに始まっちゃいるが――そんな場合じゃないよな。


「私のせいだ、私がわがままいったから……私のせいでアリアは……」

「自分を攻めるなセイン! お前が自分を否定しちまったらアリアが報われねーだろ! 」

「で、でも……」

「じゃあもう帰る? あの時の覚悟はどこにいったのさ」

「そ、それ、は……」

「おい、エマ! よくこの状況でそんなこといえるな! 」


 俺はエマをキッと睨みつける。エマも負けずに俺の目を睨み返す。


「この状況だからこそ、だよ。感情に当てられて周りが見えなくなったらダメ。常に俯瞰で冷静にいることが大事なんだよ」

「お前みたいにみんながそうやって割り切って生きていけるわけじゃねーんだよ! 」


 俺は発した自分の言葉をすぐに後悔した。エマは唇をギュッと噛みしめ、拳を小刻みに震わせながら必死に感情が溢れ出るのをこらえていた。


「お、おいエマ」

「……とにかく、アリアの思いを無駄にしちゃダメだよセイン」

「う、うん……」


 セインはアリアの手紙をギュッと抱きしめ微動だにしなくなる。その間に頭の中ではいろんな思いが駆け巡っているに違いない。やがて、嗚咽とともに涙がこぼれるとエマもそれにつられてせき止めていた涙を決壊させる。

 

「ごめん、アリア。泣かないって約束したのに……もう破っちゃった。ごめん、ごめん……ごめん……本当にありがとう……」


 

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