48話 遺言のような
「お、おい……エマ、これって……」
「私の机の中に入ってたの」
俺は手紙に書いてあることを信じることが出来ず、何度も読み返すがその度に胸が締め付けられそうになる。
アルガルドの言語で書かれた手紙はアリアからで、あて名はエマになっている。
この手紙がお前の元に渡っているころには、私は恐らく生きてはいないだろう。
今回の、セイン様をアルガルドへと連れて帰るという任務が失敗すれば私は処刑されると王直々に宣告されている。
だが、後悔はしていない。むしろ清々しい気分だ。
これからお前には計り知れないほどの責任がのしかかるに違いないが――まあ国の掟を破った時点でその覚悟はとうにできているか。
とにかく、私も最後に出来うる限り王の説得を試みる。お前とはいがみ合ってばかりだったがそれなりに悪くない時間ではあった。セイン様を頼んだぞ。
最後に、この手紙の内容は他言無用でお願いしたい。特にセイン様には悟られることの無いようにな
「マジかよ……」
「うん、間違いなくアリアの字だね」
「…………」
俺は何も言えぬまま手紙を読むのをやめ、エマを見つめる。
「誰にも言うなって書いてあるけどさあ、こんなの一人で背負いきれないって」
おどけるように言って見せるエマは笑顔を作って見せているが、ぎこちなさが際立ちとても見ていられない。
「セインにはどうするんだ? 言うのか? 」
「流石に言えないよこれは。アリアの気持ちも汲んであげたいしね。だからこれは私たち二人――いや、三人だけの秘密にしようね」
「……わかった、約束する」
俺でさえ罪悪感で押し潰されそうになっている今、セインがこのことを知ってしまおうものなら発狂だけでは済まないだろう。
俺はもう一度だけ読んでから、エマの元へ手紙を返した。
一文字一文字を丁寧に読み、節々にあるアリアらしい言い回しなどを胸に刻みこんだ。
アリア・エルフォードという素晴らしい人間を決して忘れぬように――。
「先生にはいいって言ったけど、やっぱ早退しようかな」
「辛いと思うけど、一人になると余計辛くなると思うよ。気を紛らわす為にも授業は受けておいた方がいいんじゃない? 」
「確かにな……そっちの方がいいな。悪い」
弱音を吐く俺にそうアドバイスをしてくれるエマだってかなり精神的に辛いはずなのに……男のくせに情けねえな俺。
「そろそろ授業だし、いこっか」
「ああ」
時計に目をやると昼休み残り一分を切っていた。エマは足取りを重くしながらも教室へ向かうべくドアへ手を掛けた。
「きゃ! 」
「あ、ごめん急いでてってエマ! 丁度良かった! ん、何か落としたよ? 」
「お、おい、セイン拾うな! 」
「え、これアリアから? 読んでいいよねっ」
ドアが開くと、勢いよく駆けてきたセインにエマはぶつかり尻もちをついてしまう、だけならまだよかったんだが倒れたはずみでアリアから託された手紙は無情にも一番見られてはいけないセインの元へと渡ってしまったのだった。
俺とエマはセインの表情が曇っていく様をただただどうしようもなく眺めることしかできなかった。
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