35話 エマからの謝罪

「あはは、ごめんってばータクミ。機嫌直してよー」

「…………」


 倉庫の隅で体操座りして丸くなり、そっぽを向いている俺にエマは申し訳なさ半分、笑い半分で話しかけてくる。そんな態度で誰が許してやるものか。


 さっきまで響いていた体育館の生徒たちの声や足音はピタッと止んでいるので、エマの声は倉庫内に良く通る。


 加藤先生が出て行った直後、エマがやっと発動に成功した時間停止魔法によって現在時は止まっている。

 そしてこれは魔力を保持しているものには効果がないのでここにいる俺とエマ、セインにアリアだけは発動後も変わらず動けるというわけだ。


 この状況でエマに怒ってしまうというのはいかがなものかと自分でも思う。

 エマの時間停止魔法のお陰で最悪な状況を脱すことが出来たのだ。

 だがもう我慢の限界だ、コイツ人の不幸大好きすぎてもう……。今だって必死に笑いをこらえ目に涙を浮かべている。

 俺が先生に見放された姿があまりにも滑稽だったのだろう。


「悪かったってー。そんなにムスッとしないでよ」

「もうほうっておけエマ。そいつは所詮その程度の男だ」


 アリアのあきれるように言った声が聞こえた。

 いやいやお前にいわれたかねーんだけど! こうなったの元はといえばお前のせいなんだけど! ほんでもってさっき先生来たとき気失った振りしてたよね? よくもそんな上から来れるもんだ! 


「もう、二人とも! ちゃんとタクミに謝って! ほら! 」

「しかし、コイツは……」

「元々アリアのせいでこうなったんだよ、わかってるの? ちゃんと謝るの! 」

「はい……」

「私はずっと謝ってるってセインー」

「エマは謝りながらヘラヘラしすぎ! そんなの謝ってないのと一緒! 」

「なるほどね、盲点だったよー」


 いつのまにか目を覚ましたのか、セインは怒った様子で二人に俺への謝罪を催促する。


「その、なんだ……悪かった、よ」

「ごめんタクミ」


 すねる俺のすぐ後ろまで来て二人はそう告げた。


「私もごめん。力になれなくて」


 セインも続けざまに謝り、今は俺の返事待ちの時間だ。

 まあここまでされて許さないのはそれこそアリアの言っていた「その程度の男」になってしまうだろう。

 

「今回はセインに免じて許してやる。俺もいじけて悪かった」


 振り向くと眼前で手を合わせるエマ、腕を組みそっぽを向きながら申し訳なさそうにするアリア、律義に頭を下げるセインの姿があった。

 なんかいい眺めだな、三人に同時に告白されてるみたいだ。


「ああ、よかった。よし、じゃあこれからタクミの誤解がどうやったら解けるか考えよう! 」

「おおっとその前にセインちゃん。つい今しがた目を覚ました感じにしてるけど、本当はいつから起きてたのかな? 」


 え、セイン嘘だろ? 起きてたの?


「な、ななななにをいってるのエマ? 」

「だって今起きたんだったらタクミがすねてる理由とか知ってるはずないし。おおかた目覚ましたらタクミが至近距離にいたから薄目で眺めてたんでしょ。ていうか本当に気失ってたのかな? 」

「…………」


 こうなってしまえばエマの独壇場だ。セインはただただ俯いている。


「なにかいったらどうなんだいセイン? 」

「おい、エマ。セインがそんなことするはずないだろ」


 そんなよこしまな考えでセインが行動するはずもない。たぶんおそらくきっと……。


「あ、逃げた」


 微動だにしなかったセインは急に回れ右をして体育倉庫から飛び出していった。

 どうやらエマの言っていたことはおおかた当たっていたらしい。


「セイン様、お待ちを!」


 アリアはセインの後を追いかけてやがて倉庫からいなくなる。


「はあ、満足満足」

 

 満面の笑みでエマは嬉しそうに言った。


「お前、ろくな死に方しねーぞ」


 俺はあきれるようにそう言った。

 

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