34話 先生襲来

「マズい、誰か来た! 」

「邪魔が入ったか……」


 流石のアリアも人目に触れることは得策でないと思ったのか刀をしまい物陰にかくれようとする。

 そういえば先生たちは不審者であるアリアを探しているんだった。顔は見られて無いとはいえ、ここにさっき着ていた服があるのはよろしくない。

 俺はセインに駆け寄り、上から掛けてあった黒い服をとりあえず手に取り隠し場所を探す。


「貴様! セイン様に何をする! 」

「おい、今そんな場合じゃってうわぁ! 」

 

 セインに近付いた俺が良からぬことをする思ったアリアは考えなしに突っ込んできた。そしてここでタイムアップ。


「辰巳、何をしてるんだ……」


 俺たちのクラスの現代文を担当してくれている加藤先生は持ち前の語彙力を失い絶賛絶句中、俺は絶体絶命である。


 アリアが急に飛んできたせいで俺はマットに横たわり、未だ目を覚まさないセインのすぐ隣に。


 アリアはそんなセインに覆い被さっている状態だ。ちなみに持っていた不審者の手がかりになる厄介な黒い服は俺の体の上に無情にも綺麗に乗っかっている。


 不審者に扮する俺が、体育倉庫で女子二人によからぬことをしていると思われてもなんらおかしくはない状況が作り出されてしまった。

 

「これは……お前は良い生徒だと思っていたよ。ついさっきまでは、だ」


 儚げな顔を浮かべる先生の頭はいつにもまして薄く見える。中年男性のデリケートな頭を作り出す原因であるストレスが、現在進行形で加算されていくのを感じる。


「違うんです先生! これには事情があって……」

「この期に及んでまだ逃れようとするか。私はな、辰巳。最近お前のよくない噂を耳にしてもそんなはずないと、辰巳がそんないい加減なことをするはずがないと思っていた――信じていたんだよ。だから、本当に残念だ」


 先生のメガネの奥には息子がグレた時のような、酷く悲しげな瞳が見える。

 

 まずい、どうにかしなければ。

 てかアリア! こういう時だけ空気読んで気を失った振りって……いい性格してんなほんと!

 

 ちなみにだがエマは登場時のアリアが入っていた跳び箱にうまく隠れこの場をやり過ごしている。ちくしょうめ。


 「エマだけでも見つからずに済んでよかった」なんてこんな状況で思うはずもなく、俺は恨めしく跳び箱を睨みつける。流石にエマが隠れていることをバラすことはしないが(現時点では)。


「辰巳、これ以上罪を重ねるな。先生も教え子が腐っていくのもう見たくない。今、他の先生方を呼んでくるから待ってなさい」


 先生は軽蔑した視線を送ると踵を返し外にいる先生達に声を掛けにいった。

 

 ああ、終わった。火の無い所に煙は立たぬとはこのことだな。

 

 妙に他人事じみた自分の考えにいまはただ苦笑いするしかなかった。 


 

 

 

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