33話 敵討ち

「貴様、セイン様に何をした!? 恩を仇で返すとはこのことだな外道が! 」


 セインを近くにあったマットに寝かせながらアリアは俺を睨む。

 

「ああ、セイン様……お顔が赤いということは――ウイルス系の魔法か! エマ! 回復魔法の使用を許可する、さあ早く! 」

「だからーなんでいちいちアリアの許可がいるのかなー。それに大丈夫、それは言うなれば恋の病ってやつだからほっといてもいいの。私の魔法は使う意味ないよ」

「鯉の病? だからお顔が赤くなっているのか……貴様、今ならまだ片足だけは綺麗に残して切り刻んでやる。早く魔法を解け」


 着ていた黒い服をセインに掛けてやり、刀をこちらに向け構えるアリアにしょうもない間違いだと正してやることはもはや不可能だろう。

 さてどうしたものか……。いくら頭に血が昇ると周りが見えなくなってしまうアリアといえど、二度も刀を鉄骨に当てるなんてヘマはしないだろう。


「大丈夫だよタクミ。いざとなれば私の時間停止魔法でなんとかするから」

「ほんとか。助かるぜ」

「うん。ただアルガルドと違ってミラクレアではそう簡単に魔法が使えるわけじゃないからあんまり期待しないでね」

「え」


 エマはウインクをするとじりじりと後ずさり俺からかなり離れた距離に移動(避難)した。


「そういえば貴様と勝負するのは二度目だな。あの時の私ではないぞ、覚悟しろ! 」

「エマ、ピンチだ! 頼む! 」


 迫るアリアに為す術がもちろんない俺は早速エマに魔法を使うよう催促した。

 声が届くと体育倉庫の一番奥にいるエマは、光を纏った両手のひらで地面を叩く。

 なんだよそれ体操の前屈みたいだな。もしくは悟空の元気玉打った後。

まあでもよし、これで難を逃れた。ってあれ?


「抵抗はしないのか――潔いのか侮っているのか知らないが容赦はしないぞ! 」

「あれれ? エマさん? 」


 エマはそこからゆっくりと身を起こすと無言でこちらを見て顔の前で合掌をしている。エマのことだ、「ごめん、失敗した」という風に見えはするが新しく創った魔法を使用する際の構えなんだろう。

 紛らわしいやつだ。だが俺にはわかっているぞエマ。さあどんな魔法か見せてくれ。

 

 ……ん、エマ? もうアリアちゃん地面蹴って攻撃に入ってるよ? こっから一回転してその勢い利用して相手斬り付けるお得意の技が繰り出されちゃうんだけど。


 そういえばさっきアリアが「容赦しないぞ」とかいってる辺りで「ごめん」とか聞こえてきた気がしたけどあれは気のせい、だよな?


「ってマジかよぉぉおおお!! 」

「……ちっ、外したか」


 危ねえぇ! マジで紙一重だったやべえ! あと数ミリズレてたら今頃あの世だぜ……。


 斬撃をギリギリで避け、俺の前髪をかすめる程度に留まったのは奇跡といえるだろう。

 紙一重というより髪一重だったな――とかくだらない冗談を思い浮かぶあたりそろそろ頭がおかしくなってきたようだ。


 俺とアリアは元居た場所を入れ替わる形で再び向かい合う。

 正直次はあんなの避けれるきがしないのだが。さてどうしたものか……。

 エマもあの様子じゃ頼りにならなそうだし……。


「いくぞ! 次こそ仕留める! 」


 間髪なんて入れるはずもなくアリアは再び俺に斬りかかる。


 と、その時体育倉庫の扉の開く鈍い音がした。

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