27話 不審者の言葉

「そうなんだ……セインちゃん、すごいんだね」

「ああ、見ものだったねあれは」


 武道館から出て教室へ戻ると雫と丁度廊下で鉢合わせ、今はいつものように二人で帰っているところだ。 で、さっきのセインの話をしてやってるというわけだ。


「で、委員会の集まりって言ってたけど何だったんだ?」


 雫は安全委員会に入っており、今日の昼休み緊急で放課後招集がかかったのだ。

 

「最近、不審者が出るらしくて……それでクラスに呼びかけをって」

「不審者? へー物騒なもんだなあ」

「被害に遭った人はいないって……でも声を掛けられた人は結構いる、って……」

「なんか特徴とかあるのか?」

「うん、背は私くらい。全身黒で、髪が長くて、マスクに、サングラス……だったかな」


 雫は不審者の特徴一つごとに指を折りながら説明してくれた。

 雫は昔、不審者に連れ去られた過去を持つ。表情は崩していないが相当怖いはずだ。


「いかにも不審者って格好だな。なんて話し掛けられるんだ?」

「……そこまでは聞いてない」

「そうか……この辺にも出たりしてな」

「……怖い、ね」

「ま、まあ大丈夫だ。その、俺が付いてるしな」


 自分の言葉に赤面し雫から顔を反らしてしまう。何言ってんだ俺。


「…………」


 雫からは一向に言葉が帰ってくる様子もない。引かれたのかな、引かれたよな? 引かれたのか……。


 そのあと一言も発することなく俺たちは家の前に辿り着いてしまった。


「じゃ、じゃあまた明日なっ!」

「……うん」


 雫は顔を合わせないように家へと帰っていった。

 ま、まあ明日には忘れてくれてるさ! 

 そう自分に言い聞かせ家に中に入った。

 

 自分の部屋に入り着替えを済ませると俺はそのままベッドに横になる。

 最近色々なことがありすぎて睡眠不足だ、今日はまだ妹たちも帰ってきていないし今のうち睡眠時間を取り戻そう。

 眠ろうと意識すると中々眠れないものだが今日に限ってはあっさりと眠ることが出来た。




「……ちゃん起きて! お兄ちゃん! 」

「ん? あと5分~」

「そういいのいいから起きてよ! 不審者が出たんだよ不審者が!」


 恐らくこの口調からしてたまだろうが一応例にならって確認しておくか。

 俺は声の主の胸元に顔を向けた。ほらなやっぱり。


「どこ見てんだ早く起きろや不審者!」

「あいって!」

 

 妹の渾身のビンタで俺はベッドから転げ落ちた。


「なんだよ……不審者ってどこに?」

「家のすぐ外だよ! あと今家の中にも一人発見したけど」


 環は腕を組んでベッドから転げ落ちた俺をゴミを見るような目で見ている。昨日あんなことがあったというのに懲りないやつだな俺。


「さっきたえと二人でいる時全身真っ黒の怪しいやつに話し掛けられたんだよ」

「なんて言われたんだ?」


 さっき雫が言ってた不審者のことか。噂をすればってやつなのか……。


「それが『王女様がどこにいるか知らないか?』って」

「え? 」


 王女様――もしかしてセインのことか……。


「だから二人で急いで逃げて来たんだよ。こわかったー走ったらあんな揺れるもんかね? 私全速力で走っても揺れないんだけどねえどういうこと?」

「いや、話変わってんぞ落ち着け」

「ああ、ごめんごめん私としたことが。で、今妙が怖くて泣いてるから慰めて欲しいんだよお兄ちゃん」

「ああ、わかったわかった」


 寝起きでいつもより重く感じる体を起こし俺は妙の元へ向かった。

 妙のあまりの怯え様に必死で慰めているといつしか不審者の発した言葉を忘れてしまった。

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