26話 そして決着
「はあはあ……中々やるな」
「お前こそな。こんなに強い女子がいるなんてびっくりしたぜ」
二人は息もつかせぬ攻防の余韻に浸り呼吸を整えている。体こそ力を抜いてリラックスしているようにみえるが、瞳だけは相手の一挙手一投足を逃すまいと尚もギラつかせている。
「……この世界でもやはり女は弱いものとして認識されているのか? 」
「? うーん……まあ首を横に振るやつは少ないだろうな」
「そうか……では尚更この勝負、負けるわけにはいかないな」
セインの持つ竹刀が軋む音を立てると戦いは突如始まりを告げた。
あっちの世界でも男尊女卑の風潮はあった。
力も魔法の素質も勇敢さも男に劣る女は器用さでそれらを補おうとしたものの、魔法がはびこるようになってからはそれも取るに足らぬものとなり、女性はただ子孫を残す道具として肩身の狭い思いで生活していた。
出会った当初のセインは本当に女扱いされるのを嫌いよくケンカしたものだ。ああ懐かしい。
というか茶々を入れるようでなんだがなんでこんなことになってるんだ? 部長さんは何故止めないんだ。
「直之君にも譲れないものがあるのさ。わかってないな全く」
やれやれといった感じでエマはそう言った。
こいつめ、思考透視魔法で部長の考えてることを見たからって偉そうに! 第一、向こうの世界では使用禁止の魔法だぞそれ。わかってんのか?
「わかってるよーそのくらい。こっちの世界にそんなルールないもんねー」
「ちゃっかり俺にも使ってんじゃねーよ!」
満足げに笑うエマをしばらく恨めしそうに見つめる。
でもエマもあっちでは差別を受けてたんだよな……最初はフード脱がないでわざわざ声変えてまで男の振りしてたくらいだし。
エマの端正な横顔を盗み見ている間にも二人の手が緩むことはない。
セインの力強い攻撃をギリギリのところで部長が見切り、どちらも有効打を与えることはできないでいる。
「さっきから受けるばかりになっているぞ? 情けない、それでも男か!」
「俺は勝つために戦ってるんじゃない。守るために戦ってるんだよ。ていうかその言葉、男の方が強いっていってるようなもんだぜ?」
自分の発した言葉を思い返したセインはほんの少しだけ怯んだ。それを見逃す部長であるはずもなく、握りの甘くなったセインの竹刀は下から払われると宙を舞い、やがて乾いた音を立てて落下した。
「…………」
「勝負あったな」
その場に座り込むセインに軽く面を入れると部長は防具を取り満足げな顔を露わにした。セインは痛くはなかっただろうが叩かれた部分を両手で抑えしばらく動きを停止した。
「部長やりましたね! これ、スポドリとタオルです!」
「ああ、ありがとう
小南と呼ばれた女子部員は嬉しそうな素振りを見せ頬を染めた。なんてわかりやすいやつだ。好きなんだな部長が。
「ううー負けちゃったよー」
依然として防具越しに頭を抑えたまま動かないセインを心配し駆け寄ると、唸るような声を上げた。
「転校生、楽しかった。またいつか勝負しよう。今度は剣道で」
「……わかった。ルール覚える……じゃあ名前教えて」
「
一息ついた鳴元は未だ立たないセインに手を差し伸べる。セインは頭の防具を脱ぐとその手に応え、
「約束だよ、直之!」
いつものとびきりの笑顔でそう言うのだった。
「お、おっふ」
「ん、なんかいった?」
「い、いやなにもっ!」
形勢逆転とでも言うべきだろうか。
至近距離でセインのご尊顔を拝んでしまった部長はさっきまでの余裕を失い、セインに心を射抜かれてしまったようだ。
「部長? なに鼻の下伸ばしてるんですか?」
部長の緩み切った顔は小南の言葉で一瞬で引き締まった。小南こえーよ。
「なんのことだ小南。どこが伸びてるって?」
「全体的に縦に伸びてますね、顔が。整形をおすすめします。顔の長さが股間と反比例してしまって残念でしたね」
「え、なんで俺が小さいの知って……って待てよ小南、おい! 待ってください小南さんお願いします!」
「なんだ、こっちの世界は女の子の方が強いんじゃん」
嬉しそうにいうセインに俺は苦笑いで応えるのが精一杯だった。小南こえー。
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