20話 双子の違い

「お、お兄ちゃんお帰り。顔色悪いけど大丈夫?」

「ああ、気にするな。それよりお前に聞きたいことがある」


 たまが入れっぱなしにしていたDVDをケースに戻して、俺はとりあえず部屋に待たせていたたえの元へ向かった。

 妙は俺のベッドにちょこんと座り、窓の外を眺めていた。

 机の引き出しが開けっ放しになっていたり、ベッドの下に置いたあった物の位置が変わっていることは――まあ、触れないでおこう。


「聞きたいこと?」

「その、さっきのお前の相談についてなんだが……」

「う、うん……」


 遠回しな言い方だったが、俯いて頬を染めている様子から俺の言わんとすることは伝わったらしい。

 妹にストレートにデリケートなことを聞くのはよくないと、さっきの環との会話で思い知らされたからな。


「何か努力、というか特別なことをしたからそうなったのか? 」

「うんうん、特になにもしてないよ。最近急にふ、膨らんできてでも人に言うのも恥ずかしくて……だから環ちゃんがうらやましくて……」

「え? 」


 妙の予想外の発言についマヌケな声を上げてしまう。環がうらやましいだと……どういうことだ?


「環ちゃんってさ、私と違ってスタイルもいいしクールビューティーって感じで……私なんか太ってるし頭も悪くてダメダメだよ」


 なるほど、盲点だった。

 世間一般的に女性は胸が大きいのがよしとされているが(諸説あり)、女子中学生に至っては発育が良すぎるのもそれはそれで悩みどころというわけだ。


 しかし太っている、か。妙の体を見てみると(先に断っておくが俺は妹の体に欲情なんかしない)、環に比べ確かに若干だけ肉が付いてるように思う。


 ちなみに普段の妙、ついでに環はダボっとしたサイズが大きい服を着ている為、体のラインが出ず、今日まで胸周り以外の妹たちの体の差異について気付かなかったというわけだ。そもそも兄が妹の体をまじまじと観察する機会がそうそうあってたまるかって話だ。


「太ってるってお前、環と比べたらそりゃそう見えるかもしれないけどさ、そんくらいが普通だと思うぞ。というか世の男性はガリガリよりも少しくらいぷにっとしてる方が好きなんだぜ」

「で、でも! 私の身長の平均体重より重いんだよっ?」

「いや、それは……平均より抜きんでて発達しているところがあるからだろ」

「…………」

「大丈夫だって。そんなに自分を卑下するもんじゃねーぜ」

「お兄ちゃん……」


 妙の頭にポンと手を置き、撫でてやる。妙は尚も俯いているが、口元が軽く緩むのを俺は見逃さなかった。

 根本的な解決には全くなっていないと思うが、人に話すことで少しは気が楽になったのだろう。俺はこの期を逃すまいと話を収束しにかかった。


「まあだから妙、お前はお前に胸張っていけばいいんだよ、な?」


 よし、完璧だ。爽やかな笑顔を妹に向けると、何故か頭に置いていた手を両手でガシッと掴まれる。


「胸、張って? ……お兄ちゃん私こんなに悩んでるのになんでそんなこというの? もっと大きくなれってことなの? そうなの? そうだよね? 最低だよ」

「え、違う、今のは言葉の綾っていうかそういう意味じゃ」

「もういい。出てって!」

「え、ここ俺の部屋……」


 気付いたら俺は妹にされるがまま部屋の外に追い出されていた。

 なにこれ。どうすりゃいいの? 

 「胸張って」って言っただけだぜ? あいつ過敏になりすぎだろ。相当ストレス溜まってんなありゃ。


 とりあえず時間が解決するのを待つしかないか。

 仕方無く俺は方向転換し階段に足を掛ける。

 すると、すすり泣く女性の声がどこからともなく聞こえてきた。耳を澄ますとどうやら妹たちの部屋の方からだ。


 妙は今俺の部屋に、母さんはパートで留守にしている。ということは――。


「環、いるのか」

 

 おそるおそる妹の部屋へ足を踏み入れるとそこには布団の塊がもぞもぞうごめいている姿があった。

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