18話 妹からの相談

「ごめんお兄ちゃん。ついカッとなっちゃって……」


 部屋を出て行って1分もしないうちにたえはまた戻ってきた。


「まあいいから座れよ。お兄ちゃんも悪かった。ゆっくりでいいから話してくれよ」

「わかった、ありがとう」


 落ち込んだ顔に少しだけ光が差したようで少し安心する。実際俺に落ち度はないが、ここは下手に出るのが吉だ。


「その、さっき見て貰ったのでわかると思うんだけど私勉強も運動も全然できなくて――進路とかには影響がでるほどじゃないんだけど……だからたまちゃんとすごく比べれるんだよね」

「……そういうことか」


 妙の双子の姉の環は、学校の先生たちにも一目置かれるほど成績が優秀なのだ。


 テストでは学年一位は当たり前、体力テストも全国で十番以内に入り部活の助っ人などもお願いされる程だという。


 自分と外見そっくりで性能が桁違いの奴が横にいたら、そりゃ嫌だわな。


「よく、環ちゃんに間違えられてがっかりされることは多くて。最初は仕方ないって――私も努力すればそのくらいって思ってたんだけど……」

「そうか。お前も大変だったんだな。でもお前にもいいところはたくさんあるだろ」

「そんな……何もないよ」

「いいやあるぞ。お前はいつも笑顔で、俺たちが落ち込んでいる時はすぐに気づいてなにかしようと行動してくれる。俺にとってお前は太陽みたいな存在なんだ。太陽が暗くなるなんて日食の時だけで充分さ」

「お、お兄ちゃん……」


 涙を浮かべながら妙は羨望の眼差しを送る。だいぶイタいことを言った気がしたが、内容に関しては本当に思っていることだ。書面上の成績だけでは人の魅力は測れないのだ。


「で、もう一つの悩み――さっき言いかけてたやつはなんなんだ? 」


 なんたらの大きさがどうとか言っていたが……


「……その、……の大きさが」

「妙。悩みを打ち明けるのって勇気いるよな、わかるよその気持ち。だけど誰かに話すだけでスッキリしたりするもんだ。もう少し大きな声で話してくれるか」


 妹の助けになるのが兄の仕事だ。さっきの学校での成績の悩みだって協力してやるさ。だからどんな悩みだって受け止めてやる、兄をなめんなよ妙。


「え、あ、その……最近、制服がキツくなってきて……」

「制服が? でもお前身長ほとんど伸びてねーんだろ。見た感じどこ、も……」


 顔を真っ赤にした妙は意を決してた様に前でもじもじさせていた手を体の後ろにおいやった。すると明らかにサイズが合っていない箇所が浮かび上がる――胸周りだ。


「……こんなの相談できる人いなくて。どうしたらいいのかな」

「いや、お前そのあれ……え、あの……」


 健全な男子高校生の脳みそは、この後の展開についてのよからぬ妄想を強制的に思考をフル回転させてしまう。やばい、同人誌かこれ。

 かぶりを振って今しがた考えてしまった最低な妄想を頭の中から消し飛ばす。


「お兄ちゃん……ごめん。そうだよね、こんなこと相談されてもだよね」

「ちょ、待て待て! わかった。お前はここにいろ。すぐ戻ってくる」


 逃げるように自分の部屋を出ると俺は階段を降り(半ば転げ落ちたが)、リビングの扉を思い切り開け放った。


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