2話 帰還と再会
あいたたた。ここは――公園、か?
辺りを見渡すと見慣れた景色があった。
二つしかないブランコに傾斜の緩い滑り台。錆びれたジャングルジム。学校に行く途中にある公園だ。あと、俺が異世界アルガルドへ召喚される時、最後にいた場所でもある。
元から
そして俺が今横たわっているのは――ベンチか。髪がビショビショになっていることからけっこうな時間ここで気を失っていたのだろう。
とりあえず雨宿りをする為、急いで公園のトイレへ駆け込んだ。そして鏡で自分の姿を観察する。
来ている服はさっきまでと同じ鎧のまま。魔王との死闘でボロボロになっているので、鎧としての機能は皆無である。
エマの回復魔法のお陰で、戦闘中に負った傷は全快とはいわないまでもほとんど消えている。ほんのりと残っている痛みから、さっきまでの異世界での冒険は長い夢などではなく紛れもない現実だと実感できる。
鎧を脱ぐとさっきまでの頼りがいの硬さを失い、やがて霧散していった。消えた理屈はよくわからないがこの世界では存在してはいけないものだから――とかそんな理由だろう。
それと同時に鎧の特性である収納能力も失われ中に入っていた薬草やポーション、武器などが出てきてしばらくすると鎧と同様に跡形もなく消えていった。
あっちの世界――アルガルドでの数少ない冒険の思い出たちがこうも簡単に消えていくのを見ると少し寂し気持ちになる。
そして残ったのは召喚された時着ていた中学の制服と持っていた卒業証書の筒のみだ。
服屋のじいさんに高価で買い取らせてと執拗に迫られたり、俺を毛嫌いする貴族たちを筒を開けた時の「ポンッ! 」音でビビらせたりと、この二つにも少なからずアルガルドでの思い出が詰まっている。
鎧を脱いだ現在の格好はアルガルドで仕入れたシンプルなデザインの服だったのだが、これもやはり魔王との戦いで鎧を貫通し攻撃を受けていた為、今やダメージジーンズ顔負けの面積しかない。
そして雨に打たれていたことでぴっちりと肌に貼り付いてとても気持ち悪い。
服を脱ぐと案の定消え失せ、今はパンツ一丁ととんでもない状態だ。
パンツは幸いこっちの世界のものを履いているので消える心配はないが、傍から見ると完全に露出狂――この格好を見られると社会的に消えてしまう恐れがあるので急いで制服に着替えた。
前はダボダボだった制服も今やピッタリサイズだ。
――そうか、一年経ったんだ。向こうの世界に行ってから。
感慨に更けるのも束の間、冷静になってこれからすべきことを考える。
そうだ、アルガルドとこっちの世界との時間軸のズレがないか確認しなければいけないな。
公園の隅に投げ捨てられていたまだ使えそうな傘を手に取り、おぼろげな記憶を頼りに恐る恐るコンビニへと向かった。
あった、あったぞ!
一年前は『エブリデイ』だったのに、今は『フレンドリーマート』に変わっているのはいささかショックではあるが、とにかくコンビニであることは間違いない。
自動ドアを手動で開けそうになったところを店員さんに見られてしまい、若干恥ずかしいがその流れのまま店員の前にいって言ってやった。
「すいません、今西暦何年ですか!?」
ぶっちゃけ新聞でも賞味期限でも見れば解決する問題だが、これはやっぱり店員のリアクション込みで確認したいことだ。というか極論コンビニじゃなくてもいいんだが。
「え、二〇××年の二月ですけど……」
「あ、ありがとうございます……」
女性の店員さんは少し戸惑いつつも答えてくれた。
ここで急に冷静になり、羞恥心が込み上げてくる。マズイ、完全に久しぶりにこっちの世界に帰ってきたことで興奮し、変なこと聞いてしまった。
客観的に見て頭おかしすぎた。穴があったら入りたい……絶対裏で他のバイトの人達に話して一盛り上がりされるじゃん。俺がいけないけど。
俺は商品を買わずに、そのまま逃げるようにコンビニを飛び出した。その際、また自動ドアを手で開けそうになったが、店員さんに見られてないことを祈る。
まあ、とりあえず西暦がわかったことだけでもよしとしよう。
今度からここに来るとき気まずいな……遠くのコンビニチョイスすればよかった。
とにかくだ、どうやら時間の経過スピードはどちらの世界も同じらしい。
浦島太郎みたいなことになってたらどうしようかと思っていたがその心配は杞憂だったようだ。
さて、次はどうするか……。
家に帰るのが妥当なところではあるが、この一年間の所在を聞かれて「異世界に勇者として召喚されてて魔王退治したから帰ってきたんだよー」なんて信じてくれるものだろうか――いや、信じてくれるはずもない。少なくとも俺なら精神病院に連れていく。
ひとまず公園に戻って雨宿りがてら、無難な言い訳を考えるとするか。
そう思い歩を進めると、俺の視界の端で傘が落ちるのが見えた。
振り向くとそこには見慣れた顔の女性が目を見開いて俺を凝視している姿があった。
「た、拓実?」
「雫……か?」
残念ながら言い訳を考える時間はもうないみたいだ。
手から落とした傘を拾う素振りが一向に見られない女性は紛れもない、魔法陣に吸い込まれたあの日一緒にいた幼馴染の
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