第17話 『大丈夫ですよ』
「ふふ、貴方のお嫁さんになれちゃった。子供達の勘違いだろうけど嬉しい。今日は私もたくさんのプレゼントを貰えた。貴方にもおすそ分けできればいいのに……私ばかりでごめんなさいね」
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『籍だけでも圭一と一緒になる気はあるかい?』
お父様にそう勧められた時、悩みに悩んだ。
それをすれば例え形だけとはいえ共に生きていける証となる。そもそも一生を添い遂げる事は貴方と付き合ってから自然と芽生えた夢だった。
でも。
待ったなし、二度と撤回できないのを承知で丁重にお断りをした。貴方の気持ちがそこに入っていない。何より零に近い可能性でも目覚めを待って貴方の答えを待ちたかった。
結局は叶わなかった願いだけれど、思わぬ形で子供達に叶えてもらったのだから嬉しくない訳がない。
●
「ふう、ドキドキしちゃったわ。ここからは貴方の奥さんとして最後までしっかりと看病を張り切っちゃいますから……なんてね、ふふ。次はどんなメッセージが書いてあるのかな?」
” なんじ あゆんだみちをうたがうなかれ ”
「あら、ステキ」
小学生にしては難しい表現が混じる手紙に笑みが零れてしまう。ワクワクする。
「誰が書いたのかしら。年嵩の女の子もまだ小学生高学年くらいだったわね。近頃の子は表現力があるなあ……生涯現役を目指す私も見習わないとね。本当にあの子達にはいつも元気貰ってばっかりねえ」
最後の手紙を胸に当てる。次に感謝の気持ちを籠め、組んだ手の中に折り紙を収めてみる。
「ステキなプレゼントの数々、本当にありがとうございます。あの子がクリスマスにもお見舞いに来てくれました。幻や白昼夢とはいえ、私から零れ落ちていた記憶を取り戻せました。自分の愚かさに心が折れそうだった私を子供達が支えてくれました。まるで天使のような女の子にほんの一瞬だけ夢を見させて貰いました」
胸の奥に灯る温かさを噛み締めながら、貴方の顔を見る。私は数え切れない程のたくさんの出会いに、優しさに支えられながら生きてこれた。私達はたくさんの想いに生かされてきた。
「出逢った全ての人に、恵みを与えてくれた
そっと折り紙を開けていく。懸命に生きたというならば、最後の言葉は貴方へのねぎらいの言葉であってほしい。震えた指先が折り紙に触れる度にカサリカサリ、と音を立てていく。
「今度は漢字なのね……ええと」
” ただ懸命に生きた魂に 祝福を ”
「また祝福、か。……ねえ、貴方どう思……え?」
視界が暗くなる。
意識が遠ざかっていく感覚に呑まれていく。
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………………………………
…………………………………………
「真っ暗……また幻? それとも本当に私も寿命なのかしら。貴方と少しでも一緒にいれるなら嬉しいのだけれど、この瞬間に置いてけぼりは嫌ですよ?」
手紙を開けて読み終えた瞬間に、また視界が真っ暗になった。さっきまで見聞きしていた病室や家の映像と声が下地になって、少しは慣れた感じがしないでもない。
が、もう十分だ。貴方と共に過ごす最後の時間が確実に減っていると思うと焦りさえ感じてしまう。
「神様お願いです。あの人との残り僅かな、最期の時間なんです。愚かで不出来な私ですが、せめて見送りをさせて下さい!」
今日見てきた数々の映像を思い起こす。50年の一方通行、見送る資格がないと言われればそれまでだ。
けれど、ここで諦められない。
「あと少しだけこの人の傍にいさせて下さい!!!」
『大丈夫ですよ』
……大丈夫?
この声は。
天使って呼ばれてた女の子?
『主様、ニコラウス様は迷える子羊の味方なのですから』
優しい声が私の胸の奥に響くと同時に、暗闇が晴れていく。
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