第14話 子供達

 ……そうだ。


 何かを言いたそうにしょんぼりとしていた子供達の顔を思い出す。


 胸が痛む。


 ここのところバタバタとしていて、小児病棟で入院している子供達にお見舞いのおすそ分けをしてあげられてなかった。


 日持ちしない物は普段お世話になっている人達に配ったり持って帰ったりもしたけれど、お菓子は子供達に渡そうとして病室の引き出しに入れたままだ。


 もしかしたら家に帰れずにいる子達が、病院でもよおすクリスマス会が、ケーキやプレゼントが待ちきれなくて、こっそりと動きまわっているのかもしれない。


 そしてクリスマスイブだから、お菓子やプレゼントをたくさん貰えるかも、と期待しているのかもしれない。


 ……なら。


 今日あの子がお見舞いに持ってきてくれたカステラも、看護師さんに声を掛けて皆で分けてもらおう。特に子供達は、身体に障りがないものかどうか吟味してもらわないといけない。

 

「貴方、子供達におすそ分けをしてくるわ。……あら? カステラ、クリスマスデザインなのね。ありがとうございます」


 お孫さんや家族と、ショーウインドウの前でお見舞いの品を私達の為に選んでくれたのかと思うと、ありがたくて自然に手を合わせてしまう。


 呼吸が、楽になってきた。



 この心の中に宿る温かな気持ちも、心豊かな未来も、貴方が私にもたらしてくれたものだ。


 人を思いやる尊さ。

 人との繋がりのありがたさ。


 その意志と行動で、懸命に生きる姿で教えてくれた。私の人生の道しるべは、いつも貴方だった。



「ほんのちょっとだけ待っててね? すぐ戻ってくるから」


 真っ直ぐに手を伸ばして肩をさすり、掛け布団を深めにかける。


 自然に伸ばせた手に息を吐く。そう、懺悔ざんげも後悔も貴方を見送ってからでいい。例え私に残された時間が僅かでも、全てはそれからだ。


「子供達に感謝しないとね。そう言えば、サンタがお菓子をおねだりするのってハロウィンとごちゃ混ぜになってるのかしら? 可愛いわね、ふふ」


 お菓子を手に喜ぶ子供達の笑顔を思い浮かべながら、おすそ分けの物を詰め込んだ紙袋を抱えこむ。



 病室の扉の前で四人の子供達が待ちかまえていた。


 小学校低学年の男の子二人と幼稚園くらいの女の子はいつもおすそ分けをしている常連さんだ。キャラクターデザインのスリッパをき、パジャマの上からそれぞれ身につけているサンタの帽子やガウンが微笑ましい。


 そして、もう一人。


(この子は見た事がないわねえ……小学校高学年くらいかしら? すごく透明感のある目をした、随分と可愛らしいお姉さん、ね)


 厚手の白のパジャマの上から他の子達と同じようにサンタのガウンを羽織はおり、赤の帽子をちょこんと頭に乗せて、恥ずかしそうにうつ向いている女の子がいる。


「お婆ちゃん、僕……じゃない! サンタにお菓子、下さい!」

「みーちゃんもぉ! ふあふあサンタさん、食べたーい!」

「お菓子! お菓子ぃ! サンタさんのカステラー!」

「も、もう! それはナイショにしてほしかったのに!」

「「「しぃ~~~~~~」」」

「遅いです! あああ、こんなはずじゃ………」

 

 顔いっぱいに笑う小さな子達と、ガックリと項垂うなだれる女の子の様子に頬が緩んでしまう。


(いいなあ……子供達からはいつも元気を貰える……ん?)


 サンタの、カステラ?


 抱えた紙袋を見る。カステラの箱はクリスマス仕様の化粧紙を外して、紙袋の一番底に入れてある。


(何でこの子達、今日あの子がお見舞いに持ってきたばかりのカステラ、クリスマスデザインだって知ってるのかしら……)

 

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