第12話 どれだけ

『お父様、お母様、聞いてください!』

『終わった話だ、諦めなさい』


《……澪? どうして?》


『私達、約束したんです! お爺ちゃんとお婆ちゃんになっても手を繋いでいようねって! お願いします! お願いします!』

『澪さん、頭を上げなさい!』

『女の子が土下座なんて……! さ、立って!』


《……くそっ! 体、動け! 声、出ろ! 一言くらい出せるだろ?! 父さんが! 母さんが! 澪が、こんなにも!》


『私にチャンスをください! 圭一君と一緒に生きる未来へのチャンスをどうか、私に! このまま別れるなんて嫌です! 傍にいたいんです! どうか、どうか……!!』


 私の、それこそ一生に一度の願いだった。


 誰に何と思われようと。

 呆れられようと。


 貴方の傍にいたかった。

 砂粒よりも小さくても……貴方の可能性になりたかった。


 そして。



『こ・ん・に・ち・は♪ お見舞い許してもらえた……嬉しいなあ、嬉しいなあ……。うちの親も何とな~くだけど、応援してくれてる! だから一安心なんだけど……ううう、私、重い?』


《嬉しい。嬉しい、けど……ダメだよ。澪の未来が、夢が……》



『卒業式終わったー! 先輩って呼んでもいいよ~、なーんてね! ……みんなみんな、圭一君の事を心配してた。いつか二人でまた会いたいね』


《卒業おめでとう。……いつか君も、目覚めない僕から旅立っていく。それが正解なんだ。ごめんね? 幸せにできなくてごめんね》



『これがヘルパーさんの実力っ! すごい!』

『教えるから覚えてね♪ しっかし澪ちゃんも頑張るねえ。外国語の専門学校に介護の通信制だっけ? 愛の力ってすごいわねえ~』

『言葉になると、おおぅ、恥ずかしい……です』


《頑張ってくれる澪に、何もしてあげられない。ごめんね? 澪、こんな僕の為にごめん……》



 流れる。

 流れていく。


 私達の過ごした時間が、大切な思い出が。

 声に包まれて、流れていく。



 けれど。


 気付いた事がある。

 気付いてしまった事がある。


 これが……もし。

 本当に貴方の想いなら。



『翻訳の依頼、増えてきたよ。とはいってもメインじゃなくて下訳なんだけどね。でも嬉しい。こうして家でできる仕事が増えてくれば、いつかきっと! おっとと、これはナ・イ・ショ♪』


《夢? 内緒? とうとう澪が……僕から離れていく日が近づいてきたのかも……嫌だなあ。やっぱり苦しいなあ……》



『見て! 私達の家の鍵! 看護師長さん達がね? ご近所ネットワークを使って見つけてくれたの! 病院まで歩いて二分、貴方の自宅滞在にも打ってつけ! 縁側のある平屋、とても素敵なの。私、こんなに良くしてもらっていいのかなあ……ずずっ。あ! だ、台所に用ができた!』


《な!! 何て事を……! 僕は君に何も返せないのに。澪……こんな僕の為に、ごめ………、いや……そうじゃない》


《……ありがとう》


《澪》


《いつだって、僕を大切にしてくれて……こんなにも愛してくれて……ありがとう》



 これが。


 これがもし本当に貴方の想いなら。


「……私は、貴方の言葉を、想いを。どれだけ受け止めれてあげれなかったんだろう」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る