第11話 あの時

 止まる事の無い、声。

 止まらない。



『この子なら、君の幸せを一番に考えた筈だ! 気持ちは有り難いが、もうやめなさい!』

『そんな! 私は……私……』


 これは……あの時だ。


 毎日見舞いに行っていた私のこれからを、未来や人生を危惧して……貴方のご両親が心を鬼にして私を突き放した日。


『私もね、お父さんの肩を持ちます。澪さんの気持ちは、親として本当に嬉しい。涙が出るほど嬉しいの。だけど……見誤っちゃ駄目。圭一だって貴女の幸せを一番に考えるはず。きっと望まない、わ』

『私、望まれて……ない…………』


 自分の力の無さ、好きな人を支えられない悔しさに。誰にも望まれていない、自分勝手な行動に、私は泣いて病室を飛び出したんだ。


『貴方……これでよかったのよね? 澪さんの未来の為にも、これが正解だったのよね?』

『ああ、よく言ってくれた。……圭一、すまない。父さんと母さんの独断で澪さんに辛い思いをさせてしまった』

『圭一……ごめんね、ごめんね……』

『せめて父さん達はこの命が尽きるまで……傍にいさせてくれ。圭一、澪さん……許してくれ……』


 涙交じりの声。


 貴方が私を御両親に紹介してくれた日から、何度も家に招待してくれたり、娘ができたようで嬉しい、と大切に大切にしてもらった。


 日常の話、相談や悩み事、何でも聞いてくれた。まるで父親と母親が二人ずついるような感覚だった。


 本当に幸せだった。


《父さん、母さん……ありがとう。これで、これでいいんだ……》


《あの子を助けてこうなった事は、後悔しない。あの時、何もできずに助けられなかったらと思うとゾッとする》


《あの子は無事だった。僕も生きている……今はこれ以上は望むべくもない》


《そして澪を、いつ目覚めるか、いつ力尽きてしまうかもわからない僕の人生に巻き込んじゃいけない……》


《本当に幸せだった》


《澪と出逢えて、本当に幸せだったよ?》



 付き合っていた頃も、たくさんの幸せを貰っていたのは私の方だ。


 貴方を想えば、力が湧いてきた。

 背筋を伸ばして前を向けた。

 

 いつでも逢いたくて。

 声を聞きたくて。

 

 辛い時も。

 悲しい時も。


 前向きに捉えて、足を踏み出せた。


 だから私は……そんな貴方の傍にいる事を、諦められなかった。

 


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