第10話 今だけは
また、場面が切り替わった。
学校の校庭。
夜空を見上げながら、その美しさに声が出ない私を映し出している。これは付き合い始めた頃に初めて、二人で星を見に行った時だろう。
『ふおおおお……。” 今日は星がよく見えるよ ” って、この事だったんだ! 誘ってくれてありがとう! めちゃめちゃ綺麗だあ……って、長谷川君は星見てる?』
『あ……星と同じくらい吉川さん、キラキラしてるなあって』
『おおおぅ……』
《うう……思わず本音が出てしまった。でも、本当だよ?》
あれは強烈な殺し文句だったなあ。私、耳まで熱くなったのを今でも覚えていますよ、貴方。
●
海。貴方の視線がどことなくぎこちない。私や風景を交互に見たり、砂浜を見たり。初めて水着を見せた時かな? ああ、私も随分と挙動不審になってるわね。パーカーに手をかけて真っ赤っかになっている。
『いっせーのせ! で、いいい、いくよっ、
『は、はいです
いっせーの、せ!!
『『きゃあああああああ!!』』
《……あああ、直視できない!》
うん、覚えてる。二人して叫んだなあ。
貴方が実際にそんな事を考えていたらと思うと笑ってしまう。とはいえ、私も貴方に背中を向けてました。思っていたよりも筋肉質だった貴方に。
楽しい。
懐かしい。
嬉しい。
また、映像が切り替わる。
●
「真っ暗……」
これは?
さっきまでの光景が噓のように、一面が闇に包まれている。
そうだ。
走馬燈であれば、これは私の命が尽きる迄の映像でしかない。もし、私の命が今この瞬間に尽きようとしているのなら。
「このままじゃ嫌。最後は貴方の傍で……貴方? 貴方?!」
周りを見渡したつもりでも、何も見えてこない。胸が締め付けられる。不安が募っていく。
『こんにちは! 圭一君、具合はどうですか!』
えっ?
暗闇の中に、声だけが響いた。
『もう、無茶しちゃって。でも男の子はかすり傷だけだったって。だから安心して起きてきてね? 私ちょこちょこ来ちゃうんだから。圭一君が目を覚ましたら、お説教しちゃおうかな! なーんてね! ……もう。心配したんだから……ずずっ……あ! トイレ行ってくるね!』
《…………澪? ……ここは? 身体が動かない。目が開かない。声が出ない。男の子? 事故? …………あ、あの男の子、助かったんだ。よかった》
貴方の声。
まさか……事故の後?
続いてる?!
真っ暗な視界の中で、聞こえる声だけを懸命に追う。
●
『こんにちは! 圭一君はまだ
《澪、ごめんね。もう少し、もう少しだけ時間が欲しいんだ。僕、頑張るから。絶対に頑張って目を覚ますから》
声が。
声だけが。
矢継ぎ
まるで、あの頃の私達を照らし出すように。
●
『こんばんは! 皆勤賞継続中! 三か月目には賞状くれますか! ……鬱陶しかったら、こらあ~! って怒ってもいいからね?』
《何も変わらない。何もできない。なのに声だけは聞こえてくる。事故から三ヶ月。もしかしたら、僕はもう……》
……これは私の妄想なのだろうか。それとも本当に貴方の想いなのだろうか。
わからない。
わからない。
でも。
聞きたい。
聞いていたい。
久しぶりの、愛しい貴方の声。
せめて、せめて…………今だけは。
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