太陽さんの過去④
試合開始のホイッスルが鳴った。
ジャンプボールは――天宮さんと伊集院さんの対決。
「えいっ!」 「この程度、余裕ですわ!」
天宮さんのジャンプもよかったが、全国大会出場経験のある伊集院さんのジャンプに阻まれてしまった。
ボールは相手チームに渡ってしまった。ここで取れる選択肢は少ない…!
「伊集院さん!」
相手チームの一人が、すかさず伊集院さんにパスを出す。そうだよね、このまま彼女に任せれば簡単に得点できるもんね…。でも――
「させません!」
静かに忍び寄って、スパッと、素早くカット! そしてすぐに天羽さんにパス!
「なっ!?」 伊集院さんも驚きの声を漏らす。今の自分は幻のシックスメンだ!
天羽さは慌ててドリブルを試みるが、すぐに相手チームに囲まれてしまう。
だけど、ここはまだ焦らなくていい。
「天羽さん! こっち!」
「はっはい!」
すぐに後ろに下がり、パスを受ける。
そして――
「サイクロンパス!」
大きく腕を振りかざし、遠心力を使って相手陣地の奥深くへパスを放つ!
黒〇のバスケでしか見たことないけど、なんかすごく決まったかも!?
「うおっ、ナイスパス!」
天宮さんがボールを受け取って、余裕でシュートを放つ。
奇麗なフォームで放たれたシュートはそのままゴールへ。
よし、これで幸先いいスタートが切れた。この調子なら…目立たずに勝てるかも?
「キーッ、やりますね。でも、次はそうはいきませんわよ!!」
伊集院さんが悔しそうに唇を噛みながらも、次の攻撃を見据えていた。
試合が再開された。
「このフォーメーションは?」
相手チームがオールコートでディフェンスをかけてきた。
えぇ!?
まさか、学校生活に関わるとは言えこんなオリエンテーションにガチな戦術を使ってくるとは……。
それに、相手は驚くほど綺麗にパスを回してくる。
まるで時計の歯車みたいに、無駄がない。
こちらにボールが渡っても、経験者の天宮さんには徹底的なマークが張られていて、彼女にパスを出すのは難しい。
「天羽さん」
「はっはい、あっ」
天羽さんにパスを出してみたところで、このようにすぐに相手に奪われてしまう。
どう考えても今の状態では攻め手が見えない…。
原因の一つは、伊集院さんだけじゃない。彼女のチームメイトも相当バスケが上手い。おそらく…経験者だろう。
「これは…ちょっとマズいね…」
汗を拭いながら、天宮さんが弱音を吐く。
得点差も20点までに、広がっている。
とりあえず、月に声をかける。
「おい、月、これヤバくない?」
すぐに、返事が返ってきた。
『ヤバいよヤバいよ! 完全にピンチだよ』
「 このままいったら、僕というか月が…伊集院さんの下僕になる未来しか見えないんだけど…」
『えっ、それは待って! さすがにそれは嫌なんだけど!』
「でもさ、今のまま実力隠してたら、正直かなりキツくない? そろそろ本気出さないとさ…」
『まあ…仕方ないか。あー、もうわかったよ! いいから、実力出してさっさと片付けちゃって!』
「了解、任せて!」
『あっ、でもさ…ほどほどにして! あんまり目立つと面倒だから』
「善処するよ」
マイクをミュートにしていると、伊集院さんは勝ち誇った表情を浮かべ高らかに笑う。
「ホッホホ、何をぶつぶつ言っておられるのですの?負けた時の、命乞いですの?」
「命乞い、それをするのはあなたじゃありませんか?」
一瞬ぽかんとした表情を浮かべるが
「アーハッハハハハハ、20点も得点差があって勝つつもりですの?」
「今にわかりますよ」
「ごめんなさい月さん、私が足を引っ張っているあまりに」
「いや、あたしもごめん、経験者って言いながら全然力になれてないよ」
「お二人ともお気になさらず、大丈夫ですよ!」
「えっでも、負けたら月さん....」
天羽さんが最後まで言い切る前に、
「私に作戦があります!天宮さん、天羽さんボールを全て私に集めてもらいませんか?」
「「えっ?」」
「私こう見えてバスケは大得意なんです!」
試合が再開された。
ボールは自分のチームからだ。
「月さん!」
天宮からのパスを受け取る。
さあて、本気をだすかな。
脳のリミッターを外し、体の奥底から湧き上がる力を感じる。
五感が研ぎ澄まされ、まるで世界が鮮明になったようだ。なぜ脳のリミッターを外せるのか、それについて話すのはまた今度にしよう。
ゆっくりとシュートの体勢に入る。
伊集院さんは小馬鹿にするように、
「そんなところから、シュートが入るわけないって!」
確かに、常人ならね。
「はいっ!」
手元から離れたボールは、まるで引き寄せられるかのように相手ゴールへと吸い込まれていく。完璧なシュート。自分でも思わず満足の笑みがこぼれる。
「なっ!??」
「え!???」
伊集院さんを含む全員が言葉を失い、目を丸くしている。
「何をしてるんですか、天羽さん、天宮さん!試合はまだ終わってませんよ!」
「えっ、ええ?」
「そ、そうだね。ちなみに、今のってまぐれだったりする?」
「さあ?どうですかね?」
いたずらっぽく笑いながら、ディフェンスの準備に入る。
「そんなまぐれで決めたって、調子に乗らないことですわね!」
伊集院さんが怒涛のドリブルを繰り出し、まるで嵐のように僕の前に立ちはだかる。どうやら、1on1を挑むみたいだ。
「さあ、頑張って抜いてみてください!」
「このっ!余裕な態度を崩してみせますわ!」
彼女のフェイントは見事で、まるで舞うようにボールを操る。そのドリブルのキレは半端じゃない。普通の人なら止めるのは至難の業だろう。
「はいっ!」
「嘘でしょ?」
だけど、僕は違う。軽々とボールを奪い返す。どんなにフェイントを駆使されても、リミッターを外した自分にとっえ、彼女の動きは遅すぎる。
今の勢いのまま相手陣地に切り込んで、華麗にダンクシュートを決めたいところだが、点差があるから妥協することに。
ハーフラインからスリーポイントを狙い、さらに得点差を詰める。
「なっ、こんなのって…」
さっきまで余裕を見せていた伊集院さんの顔が一瞬で凍りつく。
「この勝負私たちの勝ちですね」
不敵に勝利宣言をする。
一度言ってみたかったセリフだ。
イヤホン越しに何か月が抗議をしていたような気がするけど、気にしないでおこう。
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