太陽さんの過去➂
オリエンテーションの内容は事前に希望を出して決めるらしい。
月は、オリエンテーションの存在を知らなかったため、余ったバスケにまわされることになった。
とりあえず、チームメイトと顔合わせする。
「私は天羽真桜です。よろしくお願いします」
すらっとした背の高い女の子が丁寧に挨拶する。礼儀正しそうな子だ。
「あたしは天宮あかり。よろしくねぇ~」
今度は、軽いノリの明るそうな女の子がニッコリ笑う。
オリエンテーションでのバスケは3on3でやるので、この2人が僕のチームメイトのようだ。
「ぼっ、私は桜井月です。よろしくお願いします」
思わず、通常の自己紹介をしそうになったが、何とかこらえる。ホッとしたけど、次の瞬間、天羽さんが僕にじっと視線を向けてきた。
「あの、月さん?体操服に着替えなくていいんですか?」
そうだ。今、僕は普通の制服姿だ。体操着を忘れてしまったから、今さらだけど、どうしようもない。
「ああ、忘れちゃったので、このままで大丈夫です」
「確か、忘れた方用に貸し出しがあったはずですよ?まだ試合まで時間があるし、着替えてきたらどうですか?」
天羽さんの言葉に思わずドキッとする。
着替えたら、一瞬で“正体”がバレるから無理だ。
「いえいえ、オリエンテーションだから、別にいいですよ、大丈夫!」
必死に取り繕う僕に、天羽は少し首をかしげながら「そうですか?」と疑問を口にする。なんとか誤魔化せたみたいだ。
「ホーッホッホッホ!制服で十分だなんて、舐められたものですわね!」
天羽さんと話していた僕の前に、突然、声高らかな笑い声が響いた。
「え、えーっと…あなたは?」
目の前に立っているのは、金髪をゆるく巻いた女子生徒。明らかにお嬢様オーラが漂っている。なんというか、すごくプライド高そうな感じ。
「なっ、このわたくしをご存じでない?次席でこの学校に入学し、中学時代にはバスケの全国大会に出場した、伊集院麗子を知らないとは…!」
彼女は胸を張り、誇らしげにそう言ったが、正直、まったく知らない。
「えっと、ごめんなさい…知らないです」
素直に謝ると、彼女の顔がみるみる険しくなっていった。
「キーッ!覚えておきなさい!バスケでは、けちょんけちょんにして差し上げますからね!」
捨て台詞を残し、麗子さんは高飛車な足音を鳴らして去っていった。
僕はその後ろ姿を見送りながら、イヤホン越しの月にポツリと聞く。
「なぁ、…あの子、知ってる?」
『誰だぁ、あいつ…?』
「一応、学友になる有名人くらいは抑えてくれよ……」
天羽さんが説明をしてくれる。
「あの子は伊集院麗子さん。この学校で生徒会の頂点を狙ってる子ですよ」
「えっ、頂点ってどういうこと?ここってヤンキー高校とかじゃないよね?」
まさかの展開に、びっくりし聞き返す。すると、天宮さんは大笑いしながら肩を叩いてくる。
「ははは!伊集院さんに目をつけられるなんて、月さんも持ってるねぇ!」
「いやいや…ぼっ私は平凡に過ごしたいんですよ」
すると、天宮さんは急に真面目な顔になって、僕に向き直る。
「いや、月さん。君が首席で入った時点で、それはもう無理なんじゃないかな?」
「どういうことですか…?」
「この学校ではね、学年から学業かスポーツに秀でた生徒を生徒会役員に推薦する習慣があるんだよ」
「そっそっそ、それに首席で入学しちゃった月さんも、その対象ってわけさ!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「だから、オリエンテーションでもみんな君の動向を注目してるんだよ」
真桜さんの言葉に、僕は周りを見渡してみると、確かにちらほらと周りの生徒たちからの視線を感じる。
ただ無難に入学式を終わらせたいだけだったのに、まさかの展開に、心の中でため息をついた。
『なんか面倒くさいことになったな…』
イヤホン越しの月が話しかけてくる。
「どうする?」
『負けないようにしてくれ』
シンプルな指示だが、余裕だ。
「大丈夫だ。エンペラーアイ、パーフェクトコピー、フォームレスシュート、黒○のバスケに出てる技は全部使いこなせるから、負ける理由がないよ!」
『おいおいおいおいおいおいおい!太陽、ちゃんと私の替え玉の自覚ある!?』
「わかったよ。それじゃあ、ちょっと手を抜いて、中学時代のキセキの世代くらいに実力落としとく」
『いやいやいやいや、それでも十分プロレベルだから!もっと、レベル落として!』
「んじゃ、ダンクシュートとダブルクラッチ程度にしとく?」
『ダンクやダブルクラッチをホイホイ決められる女子高生なんていないから!??』
「じゃあ、どうすればいいの!??」
月との作戦会議が難航していると、現実世界に戻されるように声をかけられる。
「あのー、月さん?さっきから気になっていたんですが、誰と会話をなされてるんですか?」
「え、えっと、見えないお友達との作戦会議です!」
イヤホン越しから月の抗議の声が聞こえるが、そこは無視して話を続ける。
「ふふふ、面白い人ですね、月さん。それで、月さんはバスケの経験あるんですか?」
「バスケの経験…ですか?」
実際、腕前はプロ以上かもしれないけど、これ以上目立つのはマズいので、ここは謙虚に振る舞っておこう。まるで俺TUEEEラノベの主人公みたいだ。
「人並み程度です。お二人は?」
「あたしは、中学でバスケ部にいたよ」
「私は吹奏楽部でしたから、授業くらいでしかやってませんね」
なるほど…。天宮さんバスケ経験者なら、彼女が目立ってくれれば、うまい具合にことがすすむかもしれない。
「そうなんですね!私、サポートは得意なので任せてください!」
そして、試合時間がやってきた。
体育館に響く大きな声で、伊集院麗子が宣言する。
「ふっふっふ!私、伊集院麗子は学年生徒会の権利を賭けて、決闘いたしますわ!」
その言葉に、周りがざわつき始める。
…ん?決闘って 闇のデュエルでも始まるのかな?
「さあ、桜井月さん。私の挑戦を受け入れますか?」
「え? いいよ」
「ずいぶんとあっさりですわね!キーッ、余裕なこと…!」
「まずいですよ、月さん!そんなの受けちゃダメです!」
「え? そうなんですか?」
天羽さんが小声で説明してくれる。
「この学校の決闘というのは、主従関係を決める戦いなんですよ。つまり、この試合に負けたら、月さんは伊集院さんの下僕になるんです!」
「えぇぇぇぇええ!?というか、下僕なんて増やして意味あるの?」
「この学校では、生徒会が絶大な権力を握っているんです。その選挙で勝つためには、人脈や支持者が多い方が有利になるんですよ!」
「な、なるほど…」
僕はよくわからないまま、絶対に負けられない戦いに足を踏み入れてしまったらしい。
「ごめん、ちょっと待って。その先の展開がもう読めたんだけど」
思わず、太陽さんの話を途中で遮ってしまう。
「うん、私もだいぶ先が見えてきたかな…」
姉も同意する。
「まあまあ、そう言わずに最後まで聞いてくださいよ。もう少しで終わるからさ」
俺たちはもう少し太陽さんの話に付き合うことにした。
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