太陽さんの過去①
「なるほど......なら、確認してみようか」
スマホをしまう姉。
通報するのは、いったん保留するようだ。
「香音さんに聞いてみて」
「了解」
香音さんに電話をかける。
数コールの後――電話がつながった。
「もしもし~、凜ちゃんどうしたの?」
相変わらず、ほんわかした声の香音さん。
休日に電話をかけるのは申し訳ないが、それよりも大事なことがある。
「すみません、香音さん。あの、月さんって……男だったんですか?」
一瞬、静寂が訪れる。
「あっそうだよー」
「えぇぇぇぇえええええ!?今、初めて知ったんですけどぉぉおおお!?」
なんとも軽い感じで返事が返ってきた。
衝撃だ。
そんなこと、一言も聞いてないんだけど。
「まあ、言ってなかったからね~」
軽い、軽すぎる!これ、普通に大事なことじゃないの!?
「いやいやいやいや! めちゃくちゃ大事なことなんですけど!!?」
全力でツッコむ。しかし、香音さんの返事はさらに予想外だった。
「うーん、でも隠してたみたいだし。もし、他の子にエッチなことするつもりだったら、その時は私が止めるつもりだったしね!」
こっちの混乱なんてお構いなしに、香音さんはさらりと事実を告げた。止めるつもりだったって、それまで放置ってこと!?
なにそのゆる~い対応。
「そっそうですか....休日にありがとうございます」
「全然いいよ〜また聞きたいことあったら、かけてきてね!」
電話が切れる。
「まあ、香音さんが知ってるなら許すけど」
ホット胸をなでおろす太陽さん。
「そもそも、本物の月さんは、なんでこんな替え玉みたいなことをしているの?」
「なんか、本物って表現は違和感あるなぁ。まあ、いろいろと事情があってね」
「その事情が気になるんだけどなぁ。まあ、言いたくないならいいよ」
でも、人が秘密にしてることにツッコむのも、あまりよくないのでこれ以上の追求はやめておく。
ほっと胸を撫で下ろす月さんと太陽さん。
「ねえ、替え玉って学校でもやっているの?」
姉が空気を読まずにさらにツッコむ。
「あれ?月ちゃんが通っている学校って女子校だよね」
目を逸らす月さんと太陽さんに、さらにツッコむ。
そう、月さんはトップクラスの進学校に通っているが、そこは女子校なのだ。
「そっそうですけど」
「太陽さんは、女子高にも行ってるってこと?」
目を逸らす月さんと太陽さん。
この反応で疑惑は確信に変わる。
「「リアルな替え玉登校じゃん!」」
姉と自分の声がはもる。
店員から訝しげな目を向けられるが、これは叫ばずにはいられない。
「えっなんで?」
「いや、授業出るのめんどいし、それに替え玉登校せざるをえないのは、太陽が原因だし」
「えっまた、太陽さん何かやっちゃったんですか?」
「いや、僕はそんなやらかしてないし。元の原因は月だから」
太陽さんがぽつぽつ語り始めた。
あの日、僕桜井太陽は、春休みを満喫していた。
春から高校生、でも通う高校は通信制だ。
普通科高校に行ってもつまんないし、いっぱい自由時間が取れる通信制の方が理にかなっていると考えたからだ。
「たっ大変だぁぁぁぁぁ!!!!」
「ちょ、月うるさい。ゲームの音が聞こえないじゃん」
「ゲームをしとる場合かぁ!」
月が思いっきりゲームソフトをはたいたせいで、フリーズしてしまった。
「あぁ!??たく、何してんだよ。結構進んだところなのに」
まあ、フリーズさせられても大丈夫なように、こまめにセーブしているので、そんなに進行には影響はないんだけど。
フリーズしたゲームを閉じ、お茶を飲む。
「飲んどる場合かぁ!」
「うわっぷ。濡れちゃったじゃねえか。なんだよ、そんなに興奮して、生理?」
「女の子に対して、デリカシーなさすぎる発言で草。それより、びしょ濡れだよ着替えてきたらどうだ?」
「お前が濡らしたんだろうが...」
びしょ濡れになった原因を作ったやつに言われるのは、癪だが服が張り付いて気持ち悪いので、着替えてくることにする。
「とりあえず、何があった?」
「新入生代表の挨拶に選ばれちゃったんだよね……」
「え!?白百合女学院って、都内トップの名門だよね!?またお前、天才ぶりを発揮したのかよ。ほんと、脳みそどうなってんの?」
「いやいや、実は主席になりたくなくてさ。わざと何問か間違えたんだよねー」
「ちょ、ラノベ主人公みたいなムーブすんなよ!そこは普通ギリギリで合格狙うだろ!」
本当に最近のラノベ主人公は実力を隠すなら、もっと徹底的に隠せっての!
「まあね、言いたいことはわかる。でも上位で入学すると奨学金もらえるんだよ。特待生枠ね」
「なるほど、スクラップ狙いってわけね?」
「いやいや、スカラシップ。スクラップなのはお前の頭だ」
馬鹿だと言われて、ムッとするが事実なのでしょうがない。
勉強面に関しては、こいつには逆立ちしたって敵わないのだ。
「それで、どうするつもりなんだよ?お前、人前で話すの超絶苦手じゃん。壇上で気絶して伝説作る気か?」
「ふっ、策はある」
俺が身震いする間もなく、月はクローゼットから一着のセーラー服を取り出した。ピカピカの白百合女学院の制服だ。
「……おい、それどうすんだよ?」
「お前が着るんだよ。それで首席の代わりに挨拶をするのさ」
「はぁぁぁぁ!?!?!?」
「ちょっ、そんなに大声出すなよ!近所迷惑だろ、常識を持て」
「いやいやいや、お前に常識って言葉を使う資格はないだろ!?」
「大丈夫、大丈夫。減るもんじゃないし」
「減るわ!僕の尊厳がガッツリ減るわ!なんで女装して入学式に出ないといけないんよ!?」
「いいじゃん、似合うと思うよ?」
「えぇい、異常者と同じ部屋にいられるか!部屋から出させてもらう!」
ドアへ向かって一歩踏み出した――と思ったら、突然、体がピタリと動かなくなった。
「……体が、動かない……!」
「ふふん、やっと効いてきたみたいだね」
月は悪魔のような笑みを浮かべ、どや顔でこっちを見ている。
「お前……まさか……いつの間に!?」
「お昼のジュースに、ちょっとだけね」
「お前、人の心とかないんか!?」
「ないよ♪」
月はワキワキと手を動かしながら、ゆっくりと俺に近づいてくる。その目には明らかに狂気が宿っている。やべえ、こいつ本気だ……!
「ま、待て!話せばわかる!冷静になれ、兄妹でも無理矢理は犯罪なんだぞ?なあ、家族から逮捕者をだしたくないんだ」
「問答無用」
「ぎゃあぁぁぁあああああああああああ!」
叫びが無情にも部屋中に響き渡る。次の瞬間、セーラー服に包まれた自分。カシャッ! 写真を撮る音が響く。
「これ、SNSにあげていい?」
「や、やめてくれ!それだけは勘弁してくれ!」
「じゃあ、入学式で挨拶してきてね。これで条件成立♪」
「兄を脅迫するとは...」
絶対に写真消してやる。
「あっ、クラウドに上げてるから無駄だよ」
「まっマジか...」
これをきっかけに、僕は「白百合女学院の新入生代表」として壇上に立つことを余儀なくされるのであった。もちろん、女装姿で。
「とまあ、こんなことがあって」
「「それなんていうアニメ?」」
太陽さんからの話を聞き、姉と声がはもった。
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