月さんの真実

月さんの絶叫が響き渡る。


「ちょっと、月さんどうしたの?」


何事かと、他のお客さんも、こちらに注目している。

当然、近くの席にいた姉たちも。


「うおっ月、なんでここに?」


妹の姿を確認し、狼狽する太陽さん。

冷や汗がダラダラと、流れている。


「えっ月ちゃんなんでここに?」


同様に戸惑っている姉。


「たいよう!!!!!!!」


周りに目もくれず、兄のもとにズカズカと向かっていく月さん。

足取りから、すごく怒っているのがわかる。


「あんたさっきから、何言ってんのよぉぉぉ!!!!」


「痛い痛いやめてやめて」


月さんが太陽さんを、折檻し始めた。

うわぁ、あんな技プロレスでしか、見たことがないぞ。


「こっこれは、どういうこと?」


月さんの豹変ぶりに困惑する姉。


「ごめん、俺もよくわからない」


自分も何が何だかさっぱりだ。

いきなり、始まった兄妹喧嘩をただ眺めることしかできない。


「ねぇ、あんた、月ちゃん止めなさいよ」


「いやいやいやいや無理無理無理、だったら姉ちゃんが止めてよ」


「いや、私死にたくないし」


「俺だって死にたくないんだけど!??」


なんて提案をするんだ!?

バーサーカーとした化した月さんを止めるのは、無理。


折檻の内容もどんどん、ひどくなっていく。


「ちょっと、待て月。腕から変な音がしてるんだけど。人間の腕はその方向には曲がらないんだけどぉぉ???」


太陽さんの腕が変な方向に曲がり始めている。

あぁ、人体ってすごいな。


「お客様何やってるんですか!???」


騒ぎを聞きつけた店員が、止めに来た。





あれから、何があったかは、だいたい皆の想像通り。

騒ぎを聞きつけた店員から店長まで話が行き、俺たちは店を追い出されてしまった。


当然、あれだけの騒ぎを起こしたのだから、4人仲良く出禁だ。

姉は、もうこの店行けないと、嘆いていた。


店を追い出された後、立ったままはよくないということで、別の店に行くことにした。

道中はすごい重い空気だった。


ブチギレる月さん、必死に謝り倒す太陽さん、この状況に困惑している姉と自分。


とにかく、この状況から抜け出したいので、近くにあったファミレスに立ち寄ることに。


席順は俺の隣に姉、向かい側に太陽さん、そしてその隣が月さんだ。

この組み合わせに、周囲の客も大分困惑している。


『美少女3人集まってるけど、なんかの修羅場?』

『もしかして、ヒロインの争奪戦?』

『金髪の子は絶対に負けヒロイン』

そんな、ひそひそ話が聞こえてくる。


誰が負けヒロインじゃ、こちとらそもそもヒロインですらないわ。


内心でツッコミをいれるが、確かに誰が見ても修羅場にしか見えない。


場の雰囲気がやばいので、とりあえず会話を回さなくてはいけない。

とりあえず大学デビューの姉に、目線をやる。


(ぷいっ)


おい、目を逸らすな。

大学デビューしたのは、見た目だけか...。


抗議の意味をこめ、姉の足を小突いたら、足を蹴られた。


(お前がなんとかしろ)


目がそう訴えている。


仕方がないので、なけなしのコミュ力をつかって場を回す。


「えっと、とりあえずどういうことか話してもらっていい?」


「あっえっと...」


まこまごし始める太陽さん。

それを、目で制する月さん。


「おい、さっさと言え」


ドスの効いた声で、威圧する月さん。

いつもの月さんじゃない...ヤクザ顔負けだよ。


「はい....」


ポツポツと話し始める太陽さん。





「まっマジで....」


かなり衝撃的な告白だった。


「えっとつまり、今までフェアリーガーデンで一緒に働いていたのは、太陽さんだったってこと?」


「はいそうです」


えっ?どういうこと?

話の内容が理解できない。


目の前にいる月さんは、今まで俺が接してきたのと別物?

それで太陽さんが今まで接してきた月さんってことか?


事実を受け入れられないので、簡単な質問をしてみる。


「えっと、じゃあ俺がライブで初めて踊った曲は?」


「嫁ぴょい伝説」


「自分は学校で何の部活に入っている?」


「ダンス同好会」


「まっマジか...」


確かに、思い返してみれば、怪しいところはかなりあった。


月さん(女装した太陽さん)は、スキンシップが過剰なところもあったし、妙に兄の女性関係を気にしていて、女の子と絡ませようとしてきてた。


最初は、兄思いな人とお嬢様学校に通っているというのもあり、見逃していた。


「えっと、なんでこんなことを?」


「女装していれば、女の子とたくさん話せるし、それで女性の知り合いを増やそうと思った」


「ずいぶんと欲望に忠実な理由なんですね.....待って、それで言うと俺に積極的に話しかけてきたのは?」


「凛くんを起点に、女の子との和をひろげたいと思った」


「うわぁ、最低だぁ...」


「最低...」


なんて不純な動機なんだ。

姉も、軽蔑した顔をしている。 


実際に、自分の恋愛を成就させるために女装したりしたんだから、女性からは引かれるよなぁ。


それに、今まで女の子として接してたんだし...って!?


「待て待て、てことはフェアリーガーデンで女性として働いてたってこと!!?」


「そうなりますね」


自分も女装して働いてはいるが、従業員は皆自分の性別のことをわかっている。


だから、スキンシップとかも控えたりしてるんだけど....。


太陽さんの場合はそうじゃない。


「警察に通報したほうがいいね」


「そうだね」


スマホをいじり始める姉。


「まっ待ってください。香音さんは自分の性別のことしってますからぁぁぁ」 







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