デート会議
あの後、こってりと母親に絞られた。
姉はいまだに、不機嫌な様子。
「まったく、あんたのせいで怒られちゃったじゃない!」
「それについて反論したいところだけど、もうこの話はやめておこう」
これ以上、無駄な争いは避ける。
また、カミナリが落ちるのはごめんだ。
「そうだね。休戦といきましょう。それで、用事って何なの?」
「姉ちゃん、今付き合ってる人いる?」
「えっ?もしかして、また喧嘩売られてる?」
「ちげぇ、売ってねぇ。純粋に、彼氏いるのかって話」
「そうね今はいないわ」
「その‘今は’って言い方、やめたほうがいいよ」
彼女、彼氏がいない人が、よくこのセリフを使うが、哀れらしい。
クラスのリア充が話しているのを聞いた。
「これからがあるんだよぉ!!?」
「ちょ、声でかい。また、怒られるって。それじゃあ好きな人は?」
好きな子を聞いた瞬間、姉の頬が赤くなる。
「えっと...いる..かな」
「えっマジで」
「うん」
急にしおらしくなる姉。
何この乙女の反応。
「告白はしないの?」
「好きって気持ちは毎日伝えているよ。それに贈り物だって」
「そうなんだ」
暗黒高校時代を過ごした姉が、こんな青春をしているとは、少し感動する。
「ちなみにその人ってどんな人」
「えっとね。とても誠実な人で、強いの。それに鎧を着た姿も凛々しくて」
ん?鎧という言葉に引っかかる。
「うん?もしかして、それってさっき部屋の中にあった武将みたいなやつ?」
「えっそうだけど?」
キョトンとする姉。
「2次元のキャラじゃねえか!! 実在しないじゃねえか!」
盛大にツッコム。
感動した気持ちを返して欲しい。
「なっ、政宗様は私の心の中で生き続けてるんだから!一生添い遂げるんだから!」
「まぁ、姉ちゃんがガチ恋勢なら、彼氏とかもいらないか」
踵を返して、部屋を後にしようとすると、肩をつかまれる。
「えっそれはそれで、欲しい」
「おい、さっきの添い遂げる発言どこいった?一生って言ったじゃん」
「いやそれはそれ。これはこれ。」
「このビッチめ...。まあ、いいや、実はね、月さんのお兄さんがデートしたいって言ってるんだ」
姉がきらりと目を輝かせる。
「なんだって?その話詳しく」
「いやね、月さんのお兄さん彼女いないことで悩んでて、よかったら姉ちゃんとデートさせてくれないかって頼まれたのよ」
「いやっほー!」
小躍りをする姉。
フェアリーガーデンでライブをしてるだけあって、上手なステップ。
「嬉しいのは分かるけど、ダンスやめてくれない?またドタバタ騒いだら、母さんに怒られちゃうからさ」
「これが喜ばずにいられるかって?だって月ちゃんのお兄さんだよ!」
「スペックがかなり高いみたいだね」
姉が喜ぶのも無理はない。
月さんからの情報を統合すると、顔はかなりの美形、運動神経抜群、そして頭もいいらしい。
むしろそのスペックで彼女がいないのが、不思議なくらいだ。
「そうだよ。それに、現役男子高校生とデートできる日が来るなんて」
感動の涙を流す姉。
「高校時代は悲惨だったからなぁ」
今はこうして、見た目だけは大学デビューした姉だが、高校時代はかなり悲惨だからなぁ。
姉はワクワクとした面持ちで、
「ふっ、それじゃあまずはデートコースを決めないとね」
「どこか、行きたい場所はあるの?」
「よくぞ、聞いてくれました!デスティニーランドとかどうかな?」
「確かにいいかも。デートコースとしては、人気だし」
デートに行きたい場所ランキングでも、上位に入っていた。
「だよね!はぁ、制服デスティニー楽しみぃ」
「頭沸いてんのか?」
制服デスティニーとは、その言葉の通り、学生がデスティニーランドでデートする時に、制服を着るというもの。
高校生の、憧れらしい。
「制服デスティニーは女の子の夢なんだよ」
「いやいやいや、さすがにその年齢で、制服デスティニーランドはまずいって」
高校時代にコンプレックス感じすぎでしょ。
俺もこんな風に、青春をこじらせないようにしないと。
「むぅ、わかったよ。じゃ男子目線だったら、どこ行きたいの?」
「そうだな」
うーん考える。
「彼女の家とか?」
部屋にしばしの沈黙。
「アッハッハッハ」
突然、大爆笑を始める姉。
「えぇ?彼女の家でデートしたいのは、男子高校生の憧れなんだよぉぉ!」
「それでも、デートでお家行きたいとか行ったら、普通の子は引いちゃうよ」
そうだったのか...。
早めに知れてよかった。
というか、めちゃくちゃ眠い。
時計を確認したら、もう1時を過ぎていた。
「そうなんだね。もう眠いから寝るよ」
「まってよぉぉぉ、デートコース考えるの付き合ってよぉぉ」
「いや、学校あるんだよ」
「フェアリーガーデンでライブができるまで、さんざんサポートしてあげたのにぁ」
「わかったよぉ」
それを、出すのは卑怯すぎませんかね。
姉が納得するまで、デートコースの話し合いは続けられた。
結局、デートコースの話し合いは、朝まで続いた。
ほとんど眠れていないせいで、めちゃくちゃ眠い。
姉はどうやら大学をサボるらしい。
ふざけろ。
なんとか、学校を乗り切り、フェアリーガーデンに出勤する。
「おはようございます...」
「おはよぅ...って、凛ちゃんすごい隈だけど大丈夫!?」
「ぁあ、大丈夫です。寝るのが遅かっただけで、接客には影響出ないようにします」
まあ、隈は化粧でごまかせるだろう。
「いいねぇ、若い子は無茶ができて。私なんて、夜更かししたら肌がボロボロになっちゃって」
ああ、香音さんの目からハイライトが消えていく。
「そっそれじゃあ、着替えていますね!」
年齢の話が発展する前に、会話を無理矢理打ち切る。
「おはようございます!」
月さんが出勤してきた。
ナイスタイミングだ!
「おはよう、月さん。昨日の件、大丈夫だって」
「本当ですか! いやっほーい!!」
テンションを上げて、踊りだす月さん。
お兄さんのことでこんな喜んで、本当に兄妹思いだなぁ。
うちの姉に爪のあかでも、煎じて飲ましてやりたい。
「ありがとうございます!凛さん!」
「うおっ、ちょっ抱きつかないで」
うおー今、自分月さんにハグされてる。
すごいいい匂いがするぅ。
眠気が一瞬で吹き飛ぶぅぅ
こうして、エネルギーマックスでこの日の勤務を終えることができた。
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