姉弟喧嘩?

ライブ成功から、1週間ほど経った。


「ありがとうございました!」


ダンスを踊り終え、観客に笑顔を向ける。

今日のライブもバッチリと踊ることができた。

一度、ライブを成功させたからか、それが自信になったのだ。


「今日も可愛かったよ!」 

「最高!」


お客さんからも、賞賛の言葉や、拍手を受け、ステージを後にする。


「凛ちゃんお疲れ様!そろそろ、10時だから上がってね〜」


「わかりました。香音さん、お先に失礼します!」


俺は、まだ高校生だから、10時までしか働けない。

もう少し、残っていたい気持ちはあるが、こればかりはしょうがない。

無理に残って、営業停止になったらいけないからね。





「あの、凛さん」


「どしたの?」


着替え終わると、月さんに声をかけられた。

月さんは、なにやらもじもじしている。

もしかして、自分に告白?いや、そんな訳はないか。


「以前、ダンスレッスンの際に約束していただいたこと覚えていらっしゃいますか?」


「えーっと、何か約束したっけ?」


うーん、思い出せない


「兄と莉乃さんのデートの約束をしてくれるってやつです」


「あーそういえば、そんな約束してたね」


確かに、そんな話をしていた。

今まで、ライブの練習やダンス同好会のコーチに追われていたため、すっかり忘れていた。


「もうっ、大事な事ですからね」


月さんがほっぺを膨らませながら、可愛く怒っている。

しかし、ここまでお兄さんのデートの約束を取ろうとするなんて、お兄さん思いよなぁ。


「ごめんごめん、それじゃあ姉ちゃんにも言っとくよ」


「約束ですよ!嘘ついたら、パイルドライバーですからね」


「月さんが、それ言うと洒落にならないからね!?」


これは早いうちに、約束を果たしたほうがよさそうだ。




「ただいまー」


玄関を開けると、両親の靴はなかったので、まだ仕事のようだ。

社会人は大変だ。


2階に上がり、姉の部屋にノックし、入る。


「姉ちゃん今いい?」


「ちょっ待っ」


中から慌てた声が聞こえてきたが、もうドアを開いてしまった。


「おぅ...」


目の前の光景に絶句してしまう。


着替え中の姉がいるとか、ラッキースケベなイベントではないが、ともかくすごい光景が広がっている。

いや、そもそも身内の着替えはラッキースケベなイベントには入らないが。


姉の部屋の真ん中には、バースデーケーキが置かれていて、その中央にはなにやら武将みたいなアニメキャラのフィギュアが置いてある。


そして、部屋中にはそのキャラのグッズが飾ってあり、姉は身体中のいたるところに、缶バッジをつけている。


これは、いわゆる、推しキャラの生誕祭をしていたのだろう。


「その...なんか、ごめん。ごゆっくり」


ドアをそーっと閉め部屋を後にする。

うん、俺は何も見てない。


「あぁあぁあぁぁぁぁぁぁ!」


とんでもない絶叫とともに、姉が部屋から飛び出してきた。





あの後、俺は部屋の中で正座させられていた。

ちなみに部屋は、俺の部屋だ。


目の前には、鬼のような形相の姉がいる。

ここまで怒った姉を見るのは、大学デビュの時に、あきらかに失敗したメイクの状態をベタ褒めし、外に出した時以来だろう。


姉は重々しく口を開く。


「どうして、突然私の部屋に入ったのか詳しく聞かせてもらおうか」


「用事があったからです」


「だったら、ラインを入れるなりなんなり出来たんじゃあないの?大体、若い女性の部屋の中に、突然入ってくるとかあんた頭沸いてるの?いや、だからもう、そんなんだから女性にはモテないんだよ」


烈火の如く怒っているが、説教内容に引っかかるものがある。


「黙って聞いてりゃ、好き勝手言うじゃねえか」


「なっ何よ」


弟からの反抗に、少したじろぐ姉。


「だいたい、姉ちゃんだって俺の部屋にいつも、突然入ってくるじゃねえか。こっちは、いつ入って来られるかわからんから、好きなタイミングでおちおち一人遊びもできないんだよ」


「あんたは、いっつも一人遊びは夜遅くなるじゃないの!だったら、遅くに入らなければ問題ないでしょ」


「姉ちゃんがいつ突然入ってくるか、わからねえから夜にずらしてんだよぉ!? ていうか、何で知ってんだよ!」


いやマジで、何で知ってるの?

一人遊びの時間を身内に、知られてたとか、軽く死にたくなるんだけど。


「夜中にゴソゴソ音がしてりゃあ、嫌でも気づくよ。毎日毎日猿みたいにして、よっぽど女の子に相手にされないんだねぇ。おー可哀想、可哀想」


ひたすら、煽ってくる姉。

隣の部屋に聞こえてるとか、家の壁は腐っているのだろうか?

まあ、ともかく、姉は俺を本気で怒らせたようだ。


「毎日なんてやってませーん。そもそも、異性に相手にされない点でいえば、姉ちゃんには言われたくないわ」


「あぁん?」


「だって花の大学生にもなって彼氏の一人もできてないんだろ?いやぁ、可哀想だなぁ。せっかく、大学デビューしたのに、未だにソロ充とはねぇ。どうせ男の子とまともに会話したこともねえんだろ?」


「あっあるわい。男の子と会話したことくらい」


「身内として、俺と父さん、それとフェアリーガーデンの客をカウントすんのはなしだぞ」


「......」


すると、姉が押し黙った。

こいつは、身内とバイト先の客を話した異性として、カウントしていたのか。


「いや、マジで?俺ですら、クラスの子や、ダンス同好会の子とも会話するぞ。いやぁ、20年近く生きててそりゃあやばいんじゃないすかねぇ?」


まあ、自分も異性はそれくらいしか会話はないんだけど。

煽っていると、姉は次第に涙目になり、


「りっ...凛のバカぁぁぁぁぁ」


掴みかかってきた、


「痛い痛い、爪をたてるな。あんたは猫か」


こうして、取っ組み合いの喧嘩に発展したところで、


「あんたたち何やってんのぉぉぉ!!! 何時だと思ってんの、近所迷惑でしょうがぁぁ!!」


いつの間にか帰宅していた母親に大目玉を食らったのだった


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