香音さんとデート?
香音さんとの待ち合わせ場所は、フェアリーガーデンの最寄り駅ではなく、秋葉原駅だった。
香音さんと二人で出かけるのは初めてで、朝の五時に起きてしまった。
「お待たせ~」
「大丈夫です。今、来たところなんで」
嘘です。
一時間前から、来てました。
「ふふ、なんか今のやり取り、恋人みたいだね」
「そんな事言われたら、惚れちゃいますよ」
「男子高校生に惚れられちゃうなんて、私もまだまだ現役なんだね~」
「まだまだって、バリバリ現役じゃないですか……。香音さんって、まだ二十代前半ですよね?」
「甘いよ!二十代なんて、油断していたらすぐに三十台になるだから!」
「そっそうなんですか」
香音さんはくわっと目を見開き、
「そもそもね10代と20代じゃね、化粧ののりも全然違うの!10代の子は多少手入れを怠っても大丈夫だけど、20代でスキンケアを行ったらもう本当に悲惨だからね。数字で言ったら、近くても全然違うんだよ。最近は夜食を食べ過ぎちゃうと、すぐに太っちゃうし、あーもうそろそろ、アラサーに入っているんだなぁって漠然とした恐怖も入ってくるしで」
怒涛のマシンガントークを叩き込まれ、「そっそうなんですね」としか返せなかった。
なんか、香音さんの思わぬところを見つけてしまった。
今後は年齢の話はやめておこう。
「あの……それで、今日どこ行くんですか?」
行先は昨日聞いてみたけど、「明日になってのお楽しみ!」とはぐらかされてしまった。
「メイドカフェだよ」
「メイドカフェですか?」
香音さんに連れていかれたメイドカフェは、かなり有名なお店で、自分でも名前ぐらいは知っていた。
「お帰りなさいませ、お嬢様、ご主人様」
メイドさんに席に案内される。
店内はかなりのお客さんの数で賑わっていてる。
「それで、凛ちゃんは何頼む?」
「それじゃあ、オムライスで」
頼んだメニューはオムライス。
値段はフェアリーガーデンよりも、少し高いくらいだが、この店で一番人気らしいのでそれにした。
「それじゃあ、私もそれにしようかな〜」
待つこと数十分、オムライスが運ばれてきた。
「お待たせしました。オムライスです。それじゃあ、おまじない一緒にお願いしますね」
「はい、美味しくなーれ。萌え萌えキューン♡」
おまじないって言葉を聞き、普段フェアリーガーデンでやっているのと、同じテンションでやってしまった。
「えっ……」
目の前のメイドさんが、少し引いた顔をしている。
そして、香音さんは俯いて、肩を震わせている。
「ははは……まあ、せっかく来たので、楽しまないと思いまして」
やらかした。
そうだよ、お客さんでそんなハイテンションでやる人は稀だよ。
骨の髄まで、メイドが染み込んでいる・・・。
「それでは、ごゆっくり」
メイドさんは平常状態に戻って行ってしまった。
さすがプロだ。
「あはは、凜ちゃん面白いね~」
香音さんが無邪気に笑う。
「とりあえず、オムライス来たんで、食べましょう」
「そうだね」
メイドカフェを後にした俺と香音さんは、別のカフェに寄っていた。
メイドカフェはチャージ料が発生するため、長居はしないほうがいい。
ちなみに、さっきのメイドカフェ代は香音さんが出してくれた。まじ天使。
「それで、メイド喫茶の体験はどうだった?」
香音さんがにこやかに問いかける。
「うーん、まあまあでした」
無難な感想を返す。
まあ、奢ってもらった手前下手な感想は言えないしね。
「おや、お世辞を言ってるような顔しているな〜。正直な感想を聞かせてほしいな。うりうり」
「ほっぺを突っつかないで下さい。勘違いしちゃいます」
「白状するまでやめないよ〜」
今度はほっぺをもみ始めてきた。
可愛らしい拷問だ。
香音さんは鋭いところがあって、誤魔化してもすぐにバレてしまう。
観念した俺は本音を話すことにした。
「わかりました。話しますよ。正直言ってちょっと微妙でした。」
料理、ライブ、接客のどれを取っても、「フェアリーガーデン」以上のものだとは思えなかったのが理由だ。
俺の答えに対して、香音さんはうんうんと頷きながら、じっと耳を傾けていた。
「うーん、やっぱりそうだよね!他の子たちもみんな、同じ意見なんだよ!どうしてだと思う?」
「やっぱ、フェアリーガーデン以上のクオリティが出ていないからですかね?料理とか」
「確かに料理は力入れてるからね!オムライスとかは、どこにも負けないつもり!」
「あのオムライスは毎日でも食べたいです」
「やだ、凛ちゃんったら大胆。毎日でも食べたいだなんて」
「いや、違、そういう意味で言ったんじゃ、、、男子高校生をからかわんでください」
香音さんはいたずらっぽく笑い。
「えへへ、冗談。まあ、それもあるね!でもさっきのメイドカフェも実はすごいサービスがいいって評判だよ!」
「そうなんですか?」
スマホでさっきのメイドカフェの口コミを調べてみると、高評価が多かった。
「たしかに、うちは料理、接客、ライブと力も入れているけど、もう一つあるの、それは楽しむこと」
「楽しむこと?」
「そう、お客さんを楽しませるのは、もちろんだけどスタッフも楽しんでこそ、満足の高いサービスが生まれると思うの」
「はぁ?」
「例えば、凛ちゃんはよくお客さんとウマ嫁について話してるよね」
「そうですね」
「凛ちゃんのいいところは、話していて自分も楽しんでいるのと、とにかく一生懸命なところなの!」
「そっそうですか」
正面きって褒められると、照れてしまう。
だが、思い返してみればそうだ。
普段ウマ嫁について、語れる人はいない。ましてや、学校でなんてとてもじゃないけど、無理だ。だから、フェアリーガーデンでウマ嫁について語るのは自分の楽しみになっていた。
「だから、ライブもそう。多少ダメでも一生懸命やれば心に響くと思うんだよね!」
「そうですかね?」
「そうだよ!はじめて、ライブしたときのことは覚えている」
「もちろん覚えてます」
あのライブは本当に悲惨だった。
お金を払ってくれたお客さんにも申し訳ないことをしたし、それにフェアリーガーデンのみんなにも迷惑をかけてしまった。
「あの時、誰か一人でも凛ちゃんのライブの出来を非難した?」
「いえ」
あの時、お客さんは自分を怒るどころか、励ましてくれて、月さんは応援してくれて、、、。
「そうだよね!みんな凛ちゃんが失敗したって怒らない!一生懸命頑張る姿が見たいんだよ!」
香音さんはぎゅっと俺の手を握ってくる。
「香音さん!!」
「完璧にしなくてもいいんだから、次はステージに立ってみないかな」
「俺、次はライブ踊ります!」
香音さんの手をぎゅっと握り返す。
「うん!楽しみにしてるね!」
香音さんが笑顔を浮かべる。
ってあれ?この状況……。
「あっあの?香音さんそろそろ手を離してくれないですかね」
周囲からは大分注目を集めてしまっているようだ。
中には『大胆!』『若いね〜』などと、ひそひそと話し声が聞こえる。
「あっごめんね!」
香音さんが慌てて手を話す。
その顔は少し、赤くなっている。
「あっ大丈夫です。そろそろ行きましょう」
逃げるようにお店をあとにした。
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