いざダンス同好会へ
眠い目をこすりながら早めに登校した。目当ての人物に会うために、ずいぶんと早起きをした。教室に入ると、すぐにその人物を見つけることができた。
「おっ、おはよう」
声をかけると、その人はびっくりしたように目を大きく開けた。彼女の名前は日向彩香。まるで太陽のような明るい笑顔が特徴の子だ。
「うお、井ノ崎君?おはよう、こんなに早く登校するなんて珍しいね。」
「日向さんは、朝練?」
「あっうん、そうだよ」
汗を拭いながら、彼女が答える。
大勢の中では、直接話すことは難しいが、教室で二人きりになら、話しかけるハードルも少しは下がるのだ。
立ち話も少しにして、本題に切り出す。
「実は、日向さんにちょっとお願いがあって…」
「えっ、私に?」
日向さんは驚いた表情で目を見開いた。その反応も無理はない。だって、俺たちが話したのは、ノートを集めるときくらいだ。彼女とはそんなに親しいわけでもないし、普段の会話もほとんどない。何なら、今、まともに話したのが初めてだ。
「えっと、実は日向さんが所属しているダンス同好会に、ちょっとだけ入部させてもらえないかな?試しに…」
そう、これが月さんに提案された大勢の前での、ライブに慣れる方法だ。
まったく知らない人の前だと、ダンスをするのはハードルが高いが、顔が知っている人の前では多少は難易度が下がるというわけだ。
そこからちょとずつ慣らしていこうという算段だ。
「え……いいけど、男子ほとんどいないよ」
日向さんは少し戸惑いながらそう言った。
「ああ、全然大丈夫だよ。気にしないから」
中学の頃の自分なら、女子しか部員がいないというだけで、耐えられないだろう。だが、普段、あれだけ女性だらけの職場で働いているのだ、いまさらその程度どうってことはない。
「そうなんだ。なら、大丈夫だよ。そしたら、放課後部室に行こうか!」
日向さんは快く受け入れてくれたようだ。
さすがはクラスの太陽的な存在だ。
「じゃあ放課後に」
放課後の約束を取り付け、席を立ち上がった。
「あれ?井ノ崎くん、どこ行くの?」
日向さんが不思議そうに尋ねる。
「図書室」
「え?どうして?」
彼女はさらに首をかしげた。
「だって、朝早くから教室にいると目立つしさ」
普段はギリギリで登校している自分が、朝早く教室にいるのは明らかに不自然だから。 極力、変な行動をして目立ちなくはないのだ。まあ、女子だけのダンス部に見学に行こうという時点で、もう目立っているが。
「ぷっ、あはは!それって、もう井ノ崎くんはクラスで目立ってるから、別に変わらないよ」
日向さんは笑いながら言った。
「え?マジで?結構無難に過ごせてそうだと思うんだけど」
「いやいやいやいや、無難じゃないって。井ノ崎くんぼっちじゃん。クラスに仲いい子いないじゃん。一人でめちゃめちゃ目立ってるよ!」
「別に一人でいるくらい珍しくはないでしょ。一人焼肉とか一人カラオケあんだし」
「いやいや、教室での1人とそれ、いっしょにしちゃ駄目だって。それに、井ノ崎くん、クラスでエッチな小説読んでんじゃん」
聞き捨てならない単語に、反応する。
「エッチな小説?そんな、もの読んだ覚えはないよ!」
「え?でも、クラスの女子の間で、井ノ崎君、女の子が半裸になっている小説読んでいるって噂になってるよ」
えっ何それ、女子のネットワーク怖い。
「いや、それはライトノベルというやつで…いわゆる、サービスシーンってやつでエロいシーンじゃないんだけど……。ていうか、何で俺がライトノベルを読んでるって知られているの?」
「えっそりゃあ、あんだけ、教室内で本を読んでニヤニヤしてたら、誰でも気づくけど…」
「えっマジで……」
完全に無意識だった。
今度からは気を付けよう。
もう手遅れかもしれないが……。
「まあ、とにかく俺は図書室に行くから」
会話を途中で打ち切って、図書室に向かおうとしたところで
「あれ?井ノ崎じゃん。こんな早くから珍しいな」
他のクラスメイトが登校してきた。
「あっまあ。たまたま」
しまった。教室をでるのが、遅すぎた。
「ふしゅー」
放課後、俺は机の上に突っ伏して、ダウンしていた。
いや、マジで人と話すのエネルギー使う。
結局あの後登校してきたクラスメイトとも話すこととなり、俺のライフはもうゼロになってしまった。
フェアリーガーデンにいるときの自分は、メイドだからスイッチ入るが、実生活はそうはいかない。
「井ノ崎くん、それじゃ行こっか」
日向さんが声をかけてくる。
教室に人が残っている時に声をかけるのは、やめてほしい。
『えっ何で井ノ崎と日向さんが?』『井ノ崎君って喋るんだ……』などとクラスから注目を浴びてしまっている。
「あっうん」
クラスメイトからの注目から逃げるように教室を出た。
ダンス同好会の活動場所は、特別棟の使われていない空き教室だった。
「普通の教室なんだ」
「まあ、同好会だしねぇ。ダンスやりたい人は、みんなチアリーディング部に入っちゃうし」
「そんな部活あっんだ」
「もうちょっと、学校のことに関心持とうよ……それじゃ、入るね」
ダンス同好会の部室は、鏡がいくつか置かれているだけで、すっきりとしていた。部屋の中心には一脚の椅子が置かれており、まるで面接会場のような雰囲気が漂っていた。
「ふふふ、君が新入部員なのね。それじゃあ、早速テストを始めようか」と、机の前に座っている女子生徒が微笑んだ。
その笑顔には、少しだけ挑戦的な気配が感じられた。
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