第34話 結婚の約束

 わたしの意識はこの世に戻ってきた。


 オーギュドステファ殿下と手を握り合ったことにより、わたしは前世のことを思い出すことができた。


 わたしは前世でオーギュドステファ殿下と結婚していた。


 そして、マドレアリーヌさんとは幼馴染で、ずっと仲の良い友達だった。


 そうした縁の深い二人と、こうしてまた今世で一緒に生きているということに、わたしはうれしさで涙が出てくる。


「どうやら前世のことを思い出すことができたようだね」


 オーギュドステファ殿下はやさしくわたしに声をかける。


「オーギュドステファ殿下、ありがとうございます。おかげさまで、オーギュドステファ殿下との約束を思い出すことができました。わたしたちは、来世で結婚することを約束していたんですね」


 わたしが涙声でそう言うと、


「よく思い出してくれた。さすがはわたしの愛する人だ。好きだ、ルデナティーヌ」


 とオーギュドステファ殿下は言った。


 わたしの心の奥底から、オーギュドステファ殿下への熱い想いが湧き出してくる。


 オーギュドステファ殿下、好きです、大好きです!


 自分でも信じられないくらいの熱い想いだ。


 わたしは自分がここまでオーギュドステファ殿下のことが好きだとは思っていなかった。


 これからのわたしはオーギュドステファ殿下のものだと思う気持ちが強くなってきた。


 それと同時に、わたしたちが手を握り合ったままだということに気がつく。


 わたしとしては手を離したくはなかったのだけれど。


「オーギュドステファ殿下、手はこのまま握り合っていてよろしいでしょうか?」


 とオーギュドステファ殿下に対して念の為聞いた。


 すると、オーギュドステファ殿下は、


「もちろんだよ、愛しのルデナティーヌ。わたしもお前の手を握っていたいんだ」


 と微笑みながら言ってくる。


 オーギュドステファ殿下の手を握り続けることができるので、幸せな気持ちがわたしの心の中に湧いてくる。


「ルデナティーヌよ、わたしは前世でもお前のことが大好きだった。でも、お前は短い人生しか生きることはできなかった。わたしはそれが悲しくて仕方なかったのだ。これからの人生でお前をもっと愛していこうと思っていたところであの世に行ってしまったのだから……。お前がこの世を去る時、わたしは来世でもお前と結婚することを約束した。そのことをお前が思い出してくれたのは、これほどうれしいことはない」


 オーギュドステファ殿下は、前世の時からこんなにもわたしのことを思ってくれていた。


 とてもうれしいことだ。


 ただ、同時にオーギュドステファ殿下に対して申し訳ないと思う気持ちも心の中に湧き上がってくる。


「オーギュドステファ殿下、前世のこと、そして、前世で結婚の約束を思い出すのが遅れてしまい、申し訳ありませんでした」


 わたしはそう言って、頭を下げた。


「大多数の人間は、前世のことを思い出すことができないんだ。だから、別に気にすることはないよ。お前は前世のことを思い出すことができたのだからそれでいいと思う。これからが大切なことなんだ」


 オーギュドステファ殿下はそう言うと。大きな声で笑った。


 そばにいるものの心をさわやかにし、元気にする笑い。


 前世でのオーギュドステファ殿下であるグラスドール殿下が、レリアフルヴィと婚約して以降するようになった笑い方だ。


 この笑い方をするようになってから、グラスドール殿下の人気も上がっていったように記憶している。


 今世では恐らく初めてだと思うけれど、これからは前世の時のようにこうした笑い方をしていくのだろう。


 わたしは前世のことでオーギュドステファ殿下に聞きたいことがあった。


「オーギュドステファ殿下、二つほどおたずねしてもよろしいですか?」


「なんだい? もちろんいいよ」


「ありがとうございます。まず一つ目なのでございますが。前世でわたしがこの世を去った後、グラスドール殿下は再婚されたのでしょうか?」


 前世のわたしであるレリアフルヴィは、この世を去る時、グラスドール殿下に再婚を勧めていた。


 国王になる以上、王妃という伴侶が必要だし、何よりもグラスドール殿下の幸せを想っていたのだ。


 しかし、オーギュドステファ殿下は、


「お前の申し出はありがたかったのだが、わたしには、お前以外の伴侶は考えられなかったのだよ。それでわたしは、この世を去るまでの三十年ほど、ずっと独身で通したんだ。それほどお前のことが好きだったのだよ」


 と応えた。


「その後、三十年ほども独身でいたのですか……」


 わたしは絶句するしかなかった。


 それほどまでにわたしのことを思い続けていたとは……。

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