第31話 前世の記憶

 ああ、オーギュドステファ殿下の手、やさしい……。


 わたしも○○殿下の手を握っている内に、だんだん心がとろけてくる。


 わたしはオーギュドステファ殿下を心のやさしい方だと思うようになってきていた。


 しかし。それは想像以上だった。


 そのオーギュドステファ殿下の心のやさしさがわたしの中に流れ込んでくる。


 うれしい。


 それと同時に、わたしの心の奥底から、前世の記憶が湧き出してきた。


 わたしは前世で、ボードヴィノール王国ラボルトフィス侯爵家令嬢レリアフルヴィとして生きていた。


 このボードヴィノール王国というのは、今世でわたしが住んでいるギュールボファテール王国からはかなり離れた位置にある。


 今世のわたしは、ボードヴィノール王国について、名前だけは聞いたことはある。


 ただ、遠距離の為、国どうしの交流はほとんどないと言っていい。


 わたしには幼馴染がいた。


 ブリュラボルト侯爵家令嬢マドヴィリーヌさん。


 マドレアリーヌさんは、前世でのマドヴィリーヌさんだった。


 マドレアリーヌさんとわたしは、初めて会った時、お互いに初対面ではなく、どこかで会っていた気がしていた。


 しかし、お互いに、会った時のことを思い出そうとしたのだけど、今までは思い出すことができなかった。


 そこで、もしかすると、前世もしくは別の過去世で会っていたのかもしれないと思うようになっていた。


 もともとわたしは、前世やそれ以外の過去世の存在についてはよくわかっていなかったのだけれど、オーギュドステファ殿下のこともあるし、マドレアリーヌさんのこともあるので、存在していてほしいと思うようになっていたのだった。


 そして、今日ここで、マドレアリーヌさんと前世で出会っていたことをまず把握することができた。


 マドヴィリーヌさんとわたしは仲良しで、幼い頃は毎日のように一緒に遊んでいた。


 まだ思春期に入る前ではあったのだけれど、既にお互い恋愛について興味を持っていたので、二人で男性の好みのタイプについて話をすることもあった。


 そこで、マドヴィリーヌさんはグレゴフィリップ殿下のような男性のタイプが好きだと言っていた。


 そして、わたしはオーギュドステファ殿下のような男性のタイプが好きだと言っていた。


 これは驚きだった。


 前世の幼い頃の時点で、既にオーギュドステファ殿下のような男性がタイプだったのだ。


 今世ではまだそのことを認識しきれていないわたし。


 でも、心の奥底では、オーギュドステファ殿下のような男性がタイプだと認識しているのだと思う。


 わたしの前世をこの後も思い出していけば、わたしの心の全体でオーギュドステファ殿下のことを好きな男性のタイプと認識できるようになれるような気がしてきていた。


 マドヴィリーヌさんとはその後も仲良く過ごした。


 今世ですぐに仲良くなれたのも、前世で仲良くしていたからだと思う。


 そのボードヴィノール王国の王太子はグラスドール殿下。


 このグラスドール殿下がオーギュドステファ殿下の前世の方だった。


 グラスドール殿下は、今世のオーギュドステファ殿下と同じで、周囲の人たちに対して、かなりわがままで傲慢な態度を取っていた。


 今世と同じで。継母である王妃殿下が国王の後継者の座に自分の子供をつけようとしていて、その動きに対抗する必要があったので、そのような態度をとるようになっていたのだった。


 しかし、そういう背景があることは、当時のわたしであるレリアフルヴィにはわからず、大多数の人たちと同じく態度の悪さだけが伝わっていたので、グラスドール殿下にはあまりいい印象は持っていなかった。


 そんなグラスドール殿下とレリアフルヴィだったのだけれど、転機が訪れた。

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