第30話 手を握りたい
わたしはオーギュドステファ殿下の手を握りたいのだけれど、オーギュドステファ殿下を目の前にすると、その決意はどうしても鈍ってくる。
心を今整えているところだが、それでも躊躇するところはまだある。
オーギュドステファ殿下に怒られてしまう可能性をどうしても思い浮べてしまう。
そして、それ以前に、わたしの方から言う恥ずかしさもある。
その為、どうしても弱気になってしまう。
しかし、ここで申し出をしなければ、オーギュドステファ殿下との距離は縮まらない。
前回のお茶会以前であれば、申し出をしないという選択肢もあったかもしれないのだけれど、今はその選択肢はない。
わたしはその弱気な心を払拭しようと一生懸命努力をした。
短い時間で払拭しなければばらないので、きつい思いをせざるをえなかった。
しかし、一生懸命努力をした結果、その弱気な心を払拭することができた。
そして、わたしはオーギュドステファ殿下に話をし始めた。
「オーギュドステファ殿下、お願いをさせていただく機会を作っていただいてありがとうございます。わたしはオーギュドステファ殿下がおっしゃられた、『オーギュドステファ殿下との約束』を思い出すことができませんでした。大変申し訳なく思っております。ただ、わたしとしても、その約束のことは思い出したいと思っているのでございます。そこで大変申し訳なないことでございますが、オーギュドステファ殿下の手を握らせていただきたいと思います。わたしの方から申し出るというのは、大変失礼なこととは思っておりますが。このわたしのわがままをお聞き届けいただけるとありがたいと思っております」。
わたしは何とかオーギュドステファ殿下に言うことができた。
オーギュドステファ殿下はどう思うだろうか?
わたしたちの間に、しばしの間、沈黙の時間が訪れた。
やがて、オーギュドステファ殿下は、その沈黙を破り、
「ルデナティーヌよ、わたしがお前に遠慮して、お前の手を握らないままだというのに、このわたしに対してそのような申し出をするとは、たいした度胸の持ち主だな。ますます気に入ったよ。愛してる、ルデナティーヌ」
と言った後、大きな声で笑い出した。
わたしが、
「オーギュドステファ殿下がわたしの手を握らないのは、わたしに遠慮していたのですね」
と言うと、オーギュドステファ殿下は、
「まあ、わたしはお前のことが好きだから、手を握りたいとは思っていたのだが、お前はまだまだわたしに恋するというところまでは言っていないようだからな。言葉だけで遠慮していたんだ」
と応えた。
わたしはその言葉を聞いて。胸が熱くなってきた。
オーギュドステファ殿下は、想像していた通り気配りのできる人だった……。
うれしいことだった。
「では、わたしからオーギュドステファ殿下の手を握ってよろしいでしょうか?」
「いや、お前がよければわたしの方から手を握りたい。わたしは好きな人の手を握りたいと思っているからな」
なんと、オーギュドステファ殿下の方から手を握ってくれるそうだ。
なんか、だんだん夢ではないかと思うような展開になってきた。
断る理由はもちろんない。
わたしはもともとオーギュドステファ殿下から手を握ってきてほしかったのだ。
それが今実現しようとしている。
わたしは、
「わたしでよろしければ、よろしくお願いします」
と応えた。
「よし、ではお前の手を握ることにするよ」
オーギュドステファ殿下はそう言うと、わたしの手を握ってくる。
わたしもオーギュドステファ殿下の手を握った。
「ルデナティーヌ、好きだ。大好きだ。こうしてお前の手を握っているだけで、わたしは幸せだ……」
うっとりして、心がとろけているような表情のオーギュドステファ殿下。
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