第29話 婚約を破棄した人とその相手はみじめになっていく
今日は休日で、オーギュドステファ殿下との二度目のお茶会の日。
ここのところ雪は降ったり止んだりの繰り返し。
底冷えのする寒さがずっと続いていた。
そして、今日も前回と同じく曇天で、底冷えがする。
しかし、わたしの心は前回とは違い、かなり前向きになっていた。
それだけ前回のお茶会で収穫があったのだと言っていい。
わたしとしては、今日を迎える前に、オーギュドステファ殿下とした約束のことを思い出したかった。
しかし、結局のところ思い出すことはできなかったので、今日なんとか思い出したいと思っていた。
その為に、わたしは、オーギュドステファ殿下と手を握り合いたいと思っていた。
約束をした方と手を握り合うことにより、思い出すきっかけをつかめるのではないかと思ったのだ。
ただ、どうやって問題はどうやってオーギュドステファ殿下と手を握り合うかだ。
というのも、前回、オーギュドステファ殿下は、わたしの手を一切握ろうとしなかったのだ。
普通、男性は、好きな女性の手を握りたいと思うものではないかと思う。
しかし、そういったことをしなかったということは一体どういうことなのだろうか?
わたしはマドレアリーヌさんにそのことを相談した。
すると、マドレアリーヌさんは、
「これは、ルデナティーヌさんの方から手を握りにいくしかないわね」
というアドバイスをわたしにしたのだった。
「わたしは、グレゴフィリップ殿下がわたしの手を握ってくる前に、グレゴフィリップ殿下の手を握って行くこともしているわよ」
ということもマドレアリーヌさんは言っていた。
言っていることは理解できるのだけれど、わたしがそれを行った場合、
「はしたない」
と言われてしまい。それがもとで嫌われてしまう可能性があるのではないのだろう
か、ということが、わたしの心の中のかなりの部分を占めていた。
マドレアリーヌさんは、
「そんなことはない絶対にないわ。かえってルデナティーヌさんのことがより一層好きになると思うよ。もっと自信を持って」
と言ってくれて、少し自信が湧き始めていたのだけれど、まだ、実際に行う勇気が出てこないまま。
マドレアリーヌさんは、昨日もわたしを励ましてくれた。
それでようやく、今日、オーギュドステファ殿下の手をわたしの方から握る決断をしたところだったのだ。
また、わたしのところには、レノーシャルド様とジゼディさんが破局寸前になっていて、そのことでお互いの家から怒られることになり。心に大きな打撃を受けているという情報が入ってきた。
結局、二人とも、お互いのフィーリングが合っていなかったということで、わたしに対してあれほど自慢をしていたお互いのラブラブな気持ちは、すぐに冷めてしまったということなのだろう。
みじめだというしかないと思う。
わたしは出かける前に入浴し、身だしなみをきちんと整えた。
そして、オーギュドステファ殿下のところへ馬車で向かった。
前回ほどの緊張はないものの、今日はオーギュドステファ殿下の手をわたしから握るということで、その点での緊張はどうしてもある。
わたしがオーギュドステファ殿下の部屋に入ると、
「わたしのところに今日もよく来てくれた。愛しの人、ルデナティーヌよ!」
と言って、オーギュドステファ殿下はわたしのことを迎い入れてくれた。
テーブルの上には、紅茶とお菓子。
オーギュドステファ殿下とわたしは隣合わせに座る。
「本日もお茶会にお招きいただきまして、ありがとうございます」
わたしがそう言った後、頭を下げると、オーギュドステファ殿下は、
「そんな儀礼的なことはよい、わたしはお前に合いたくてたまらなかったのだ。ああ、愛しくてたまらない。ルデナティーヌはそれほどの女性なのだ。お前に恋焦がれる気持ち、それはこの言葉では伝えきれない……」
とうっとりした表情でわたしに言う。
こうした「愛の言葉」を聞いていると、わたしもオーギュドステファ殿下の作る夢の世界に一緒に入ってしまいそうだ。
しかし、今日は、そこに行くまでにまずしなければならないことがあった。
「オーギュドステファ殿下、これはオーギュドステファ殿下のご機嫌を損ねることかもしれないのですが、一つお願いをさせていただいてもよろしいでしょうか?
「わたしの機嫌を損ねるお願い? 面白いことを申すのう。お前のことでわたしが機嫌を損なえることなどないと思うのだが、まあよい。ルデナティーヌからお願いをしてくるのはうれしいことだな。何だ? 遠慮せずに言ってみるがいい」
オーギュドステファ殿下はそう言うと、笑った。
これは言いやすい雰囲気だと言えるだろう。
さあ、ここからが大切なところだ。
わたしは心を整えた後。オーギュドステファ殿下に話をしていこうとしていた。
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