第26話 オーギュドステファ殿下の好きな人
「わたし?」
「そう、あなたよ。マドレアリーヌさん」
「これは光栄なことですわ」
「わたしは真剣に話をしているのですよ」
「まあ、落ち着いてください」
マドレアリーヌさんとモニクレットさんがやり取りをする時は、いつも冷静なマドレアリーヌさんと感情的なモニクレットさんの構図になってくる。
モニクレットさんが少し落ち着いてくると、マドレアリーヌさんは、
「わたしがオーギュドステファ殿下の幼馴染であることは、モニクレットさんが言っている通りです。でも、言っておきますが、わたしはオーギュドステファ殿下に対して好意を持っておりますし、オーギュドステファ殿下もわたしに好意を持っておられると思っております。しかし、それは幼馴染としての好意です。お互い、恋をしているというわけではないのです。残念なことではあるのですが。まあ、これも運命なので仕方がないですよね」
と言った。
マドレアリーヌさんがオーギュドステファ殿下と婚約していることを知っているのは、わたしを含めごく少数の人たちしかいない。
モニクレットさんも当然知らない。
マドレアリーヌさんの話を聞いたモニクレットさんは、マドレアリーヌさんに、
「マドレアリーヌさんは、オーギュドステファ殿下のことを周囲の人たちが言っているような悪い評判通りの人だと思っていますの?」
と言ってきた。
「あなたこそ、オーギュドステファ殿下のことをどう思っているのですか?」
「わたし? オーギュドステファ殿下とダンスをするまでは、そのことを信じておりましたわよ。わがままで、傲慢な態度をとるという方ということで、悪い評判しか聞きませんでしたわ。正直言って踊りたくないと持ったこともありました。でも、オーギュドステファ殿下と踊ってみて、この方は決して周囲の人たちが言っているような方ではなく、もしかしたら素敵な方ではないのか、と思いましたの。わたしも幼い頃からダンスをしておりまして、この王国の中では名手の一人だと言われておりますから、一緒に踊ればある程度その人の人となりは把握できますのよ。そういうこともあって、わたしはオーギュドステファ殿下のことをもっと知りたいと思いましたわ。いや、それだけではなく、だんだん恋人どうしになりたいという気持ちも高まってまいりましたの」
そう言って、モニクレットさんは高らかに笑った後、
「それなのに、オーギュドステファ殿下は何のアプローチもしてこないのよ。どうしてこうなってしまうのかしら……」
と言い、少し残念そうな表情をした。
まあ、モニクレットさんの性格はともかくとして、少なくとも周囲の多くの人たちとは違って、オーギュドステファ殿下のことを評価し始めているのは確かだろう。
「わたしはオーギュドステファ殿下のことを。幼い頃から素敵な方だと思ってきましたし、今でもそう思っています。でも、運命なのでしょうね。恋人どうしになれないのは……」
「まあ、オーギュドステファ殿下とマドレアリーヌさんが恋人どうしになっていないということは理解したわ。でも、そうすると、オーギュドステファ殿下の好きな人は誰かということになるわね」
話が最初にもどってきたので、再び緊張してくる。
モニクレットさんがそう言ったのに対し、マドレアリーヌさんは、
「モニクレットさんに忠告しておきたいのですが、よろしいですか?」
と言った。
「忠告?」
「そうです」
「まあ、わたしの話を聞いてくれているから、特別に聞いてあげるわ。それを受け入れるかどうかはともかくとしてね。それで、オーギュドステファ殿下の好きな人は誰なの?」
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